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3話:スイリュウは力を示す

「良い天気だ」

 街の門を抜けてスイリュウの第一声。

 パレットをはじめとして、街の人々も値踏みをするようにスイリュウの背を見つめる。

 今日は待ちに待った“炎嵐”の日である。

 トウメイの魔力による結界を一歩でも出れば防御手段無しには生きられないこの世の地獄が広がっている。

「それじゃあ始めましょう。練習時間にちょっと足して、3時間守れば良いですね?」

 スイリュウはオーディエンスの先頭に立つブルに確認する。

「はい、それでおねがいします。トウメイも双眼鏡で観ていることでしょう」

 そう言いながらブルはちらりと塔に目をやる。

「なるほど、それは良い。彼女にはまだ魔力で腕を飛ばされる情けないところしか見せてないからね。汚名返上だ」

 スイリュウも塔を見つめる。もちろん見えている。水で作ったレンズは双眼鏡を挟んでトウメイの目を映す。

 目が合ってワタワタと双眼鏡を落としそうになるトウメイを微笑ましく見届けて、スイリュウは嵐の中へ入る。

「まぁ、用意はもう終わっているんだけどね」

 そう言うとスイリュウは手を地面につける。

 瞬間、周囲が青い光に包まれる。スイリュウを包む光は大地に降り立ち、城壁の外側をなぞるように走り出す。しばらくすると青の軌跡が1周し、スイリュウの元に帰ってきた。

 街はスイリュウを起点に青い光に囲まれた。

「さぁ、ここから。じゃじゃ馬姫の領域に魔法は通せないから、強力な結界とはいかないけれど、僕の傘は特別製さ。閉じろ」

 スイリュウが声に出すと、地鳴りと共に水のアーチが等間隔に吹き出した。アーチは塔の頭上を中心に重なり、8本脚のドームになった。ドームが形成されると、脚の間を埋めるように水の膜が張り、街をすっぽりと覆った。

「さて、これでやることはおしまい。炎嵐の内はトウメイの結界がはたらくことはないよ」

「すっご……」

 パレットは完成した水のドームに唖然とする。下準備の段階から見ていたのもあって、目の前の結果は妥当だと理解している。それでも口を開けて感嘆している。

「なにこの美しさ。スケートリンクに魔法陣を描いている訳じゃないのよ?デコボコの大地に円を描いているのに土台がしっかりしているのを感じるわ。“水撒き”は崖も通ったのに……」

 スイリュウの作った水のドームの正体をパレットは知っている。

 止水(しすい)だ。

 水嵐の日にストックした止水(しすい)をトウメイの結界に沿って撒いていた。

 だからこそ、できあがったドームの対称性に驚愕する。

 先に述べた通り、止水(しすい)を撒いた大地は平らではない。それなのに街の中心、トウメイの住まう塔に向かって淀みなくアーチを形作っている。

 やろうと思えば標高に応じて出力の調整ができるとは思う。スイリュウの技量ならなんなくできるであろうとこの数日でパレットは理解している。

 しかしながら、それと同時にこの魔法使いが感覚的な調整を好まない事もパレットは知っている。下準備をしっかりする性分だ。水撒きの時に教えてくれなかった秘密があるに違いない、とパレットはスイリュウをにらむ。

「原理自体は難しい事じゃないよ。同じ高さに主線になる水を浮かせただけ。普段からこの義手で生活しているからね、自分の魔力が通った水なら義手じゃなくても好きな高さに浮かせるくらいはできる。

 浮かせた水より下側は、重力に任せて垂らすことでコントロールのムラが起きずに地面までカバーできる、って寸法だよ」

「……理屈はわかったしスイリュウならやるなって思いはするけど、それにしたって気味悪いわ」

 やれやれと手を上げ首を振る。スイリュウと行動することが増えてから、彼女のクセになっている。

「話には聞いていましたがここまでとは。結果はまだわかりませんが、お見事です」

 スイリュウの種明かしを後ろから聞いていたブルがスイリュウをねぎらう。

「いいえ、僕はただ準備をしっかりしただけです。タネさえわかればこの街の人たちならできると思いますよ。むしろ炎嵐以外の日には手伝って欲しいくらいです」

「魔法の無い街から出て別の街へ行くには防衛手段の魔法が必要。我々の魔法技能も察していたのですね」

「門のそばで作業をしていれば自然と目がつきますよ。最小人数で魔力嵐の中を出歩ける人があまりに多い」

 スイリュウが外で作業をしている間、住人の出入りは絶え間なかった。しかも、決まった人だけが遠征をするわけじゃなく、多くの人が魔力嵐の中を出かけていた。

「なるほど。トウメイの訓練のためにも結界魔法を訓練する人員を集めようと思います。なにより我々がこの街を守れるようになりたい」

「ありがとうございます。ここで一つ提案なのですが、パレットにも稽古をつけていいですか?」

「は?」

 大人達の会話に突然自分の名が出て声が出る。

「パレットの魔法適正は広く見えます。規模はともかく、色を作るかのように様々な属性の魔法を扱える才能がある」

 それはスイリュウの直感だった。パレットが魔法を使うところは見たことは無いが、短い付き合いの中でそう感じていた。

「それは……」

 ブルは顎に手をやり考え込む。

「いいよ、やらせて」

 その間を埋めるようにパレットが了承する。

「パレット、ちょっと待て」

「いいでしょ別に、今まで教えてくれる人がいなくて持て余していたんだから、断る理由がない」

「それはそうだが、トウメイとの時間は良いのか?」

「大丈夫。スイリュウのお目付け役が続くなら、当然トウメイの特訓にも付きあうことになるし。なにより、この男が彼女の命を救ってくれるんだから、共に過ごせる時間だって増える。そうでしょ?」

 パレットはスイリュウを見上げる。

「もちろん、と言いたいところだけどやってみないと分からないかな」

「はぁ?そこはハッタリでもモチロンって言いなさいよ!」

 パレットに脚を蹴られる。

「勝算はあるけど最後は本人のやる気や資質によるから、今は何も言えない」

「はいはいそうですか、用意周到なところから想像はできてたけどね」

 パレットははぁ~と長い溜息をつきながら、断言をしないスイリュウに悪態をつく。

「で、稽古はしていいの?お父さん?」

「え?」

 今度はスイリュウが呆気に取られる番だった。

「……ブルと呼びなさい。真面目な場だ。」

 ブルは額に手を当て目を瞑る。

「真面目だよ。これでも迷惑かけずに過ごしてたつもりだし、トウメイとの時間を大切に考えてくれているのも理解してる。だから、そんな娘のおねだりを通して欲しい」

「ハァ……。わかった。無理はしないように。スイリュウさん、娘をよろしくお願いします」

 渋い顔をしながらも最後にはパレットの主張に折れ、置いてけぼりだったスイリュウに頭を下げる。

「もちろんです。こちらこそ提案を通していただきありがとうございます」

 スイリュウの内心は突然の親子発言に動揺していたが、それを表には出さなかった。

「まったく、こんな短い間に娘二人のわがままを聞くことになるとは。改めて二人をよろしくお願いします」

「…………はい?」

 スイリュウのポーカーフェイスは完全に崩れた。


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