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27話:ミミは念押しをする

 翌日、スイリュウは一人でアイの墓前に立っていた。

 昨日叶わなかった墓前での再会をやりなおしているのだ。

 周囲には誰もおらず、スイリュウはアイに話しかけ続ける。

 一通り話し終え、スイリュウは立ち上がり伸びをする。

 霊園の出口に向かうとそこにはミミが立っていた。

「あー、もしかして聞こえてた?」

「はい。母に新たな恋を報告する時に言いよどんだところまであますところなく」

「悪い大人になったなぁ」

「母に拾われてからずっと関わってきた大人の影響ですねぇ」

 おどけてミミが返す。

「何度も見習わないように言ってきたのになぁ」

「さっさと母に会ってくれればその後の振舞いで縁も切れていたかもしれなかったんですけどね」

「え、何それ」

「私がスイリュウの事を母と引き合わせたがっていた事はさすがに察していましたよね?」

「もちろん。迷惑をかけたね」

「別に迷惑だなんて思ってないです。引き合わせようとした理由はわかりますか?」

「いや、わからない。何十年越しに何言われるか想像つかなくてちょっと怖い」

「そんな昔じゃないですぅ~。まったくもう。母に許可をもらおうと思ったんです。けじめってやつです」

「……あぁ、そういう事か」

「いくら滞留のせいだったからって乙女だった頃の私の気持ちに気づいていなかった事を再認識してダメージ受けてますよ今。

 どうせ旅先でも現地の人をその朴念仁さで泣かせてきたのでしょう」

 芝居がかった泣き真似でミミが責める。

「旅先でどうだったかはともかく、ミミの事はうっすら感づいていたよ。アイに会わせたがった理由は気づかなかったけどね」

「え。じゃあなんで何も言ってくれなかったんですか?」

「君が能動的に関わりに来てくれたからかな。それが当時の自分なりに嬉しかった。それと同時にアイの娘だとも認識していた。自分から離れる事はしないけれど近づけもしない。その距離感を壊したくなかった。いつかもっと大事な人が見つかるまでは、と君に甘えていたんだ。ごめん」

「やっぱり悪い大人」

「前から言ってるでしょ」

 そう言うとどちらからともなく二人で笑った。


「もう意味のない質問だけれど」

「どうぞ」

「スイリュウと肉体年齢が並んだ時、まだフリーだったんだけれど。それでも私は母の娘だった?」

「ごめん」

「まぁそうですよね。小さい頃から見てきたし。でも私がトウメイちゃんの先生になる事を、母に報告している時のしみじみした声音はちょっとムッとした」

「アイに伝えていたんだからそれはいいでしょ」

「いや、近所のおじさんから『こんなに大きくなって』って思われるの怖いでしょ」

「急に関係値が遠ざかったなぁ」

「今は娘のお気に入りの時々帰ってくるおじさんですね」

「まぁそれは事実かな。実家をちゃんと片したらまた住もうとは思っているけれど」

「まだ残していたんですね」

「まぁね。もし滞留が分離して、生きる気力が湧いてきた時に住所不定じゃ大変だと思っていたんだよ」

「悲観的なのか前向きなのかわからないですねぇ。スイリュウの場合は住所よりも実年齢が人間離れしている事を気にするべきでは?」

「う、それはおいおい……」

「でもまたここに腰を据えるのは嬉しいです。ハナも入り浸るでしょう」

「ほどほどにね」


「滞留が解けた今、スイリュウにとって母はどんな人ですか?」

 ミミが訊ねる。

「難しいことを訊くね。

 うーん、今の気持ちは思い出の一つになった、かな。

 滞留が分離してしばらくしてからは後悔が渦巻いていた。

 一人にしてしまった。とふさぎこみたくなったり、じゃあミミの面倒を見たのはなんでなんだとか自分本位にアイのせいにしたり。ぐちゃぐちゃになっていた。

 自分の中でも考えがまとまらないまま昨日は墓前でうずくまった。

 目が覚めた時にパレットとハナがいて、気持ちが安らいだ事を自覚した。

 その時にパレットへの想いも改めて自覚した。

 滞留が留めるのは悲しみだけじゃない。僕を気にかけてくれた彼女への感情も溢れ出してきた。

 薄情だとも思う。けれどパレットと共に生きたいと思った。


 後は、滞留として僕の傍にいてくれていたのだと改めて思った。

 僕は滞留の中に対流を見出して一人で魔法を使えるようになったと思っていたけれど、実際のところは滞留の中にいるアイが僕の魔力をアイの魔力として循環させてくれていたんだと思う。体内にペアがいる魔法使いだったんだ。

 今の僕は一人じゃ水の義手も作り上げられない。何十年も欠かさず使っていたのにね。

 僕はもうただのしがない腕無しの魔法使いくずれさ。

 けれど、アイのおかげでたくさんの人の役に立てた。

 それが償いになるとは思わないけれど彼女と成し遂げられたのだと嬉しかった。

 その思い出を持って生きていく」

 そう締めくくったスイリュウを見て、ミミは満足そうに頷く。

 どんな答えであれ、スイリュウから言葉を聞けたのが嬉しかった。

「薄情なあなたに一言言うなら、愛にも色々あるってことですよ。スイリュウに託した愛情、異性愛や親愛の愛情もあれば、身寄りの無かった私への愛情もある。

 きっと母はそうやって母の中にある愛情を切り分けて、あの指輪に刻印してしまったんでしょうね。母が語った『大切な人を呪った私が誰かを愛する事なんて許されない』と言う言葉は、心情的な話ではなくて、大切な人を想う愛が彼女の中から欠落していたという事だったのかなぁと今は思います。

 でもまぁ、そんな事は私にとってはどうでも良いんです。母は私の事を間違い無く愛してくれたと自信を持って言えます」

「今ならそれも理解できるよ。アイの愛情は大きすぎた。

 でも、それにしたってアイが亡くなった時にそう言ってくれれば良かったのに」

 スイリュウは長年見当違いをしていた滞留の正体を、ミミが当時から勘づいていた事にささやかながら抗議する。

「あの時は言っても伝わらなかったでしょ。それに、少しくらい嫌な気持ちになってほしいなって思ったので」

 ミミはその抗議にをさらりと躱す。

「……なるほど」

「なのでスイリュウの母に対する後悔は見当はずれで、後悔するならせいぜい恋人を作れないくらいの傷を負わせたにも関わらず母の前に顔を見せなかった事だけです」

 そう告げるとスイリュウは苦い顔をした。弁明の余地も無い。ミミがちゃんと怒っているのだと感じて、ミミの顔を見るのが怖い。

 それと同時に、今までだってミミは同じくらいスイリュウに怒り、心配してくれていたのだろうと実感した。ずっと気づかなかったのを滞留のせいにはしたくないなとスイリュウは思った。

「今からもう一回謝りに行こうかな」

 謝りたい気持ちがあるのも本当だが、妙にミミの叱責が恐ろしく感じて逃走経路に利用しようと思ったのも本当だった。

「ダメです。ちゃんと心に刻んで、パレットちゃんを大切にして、遠い未来に面と向かって謝って、そして責められてください」

 そんな情けない男の思考を知ってか知らずかミミはしっかり退路を断って、生きている内は幸福に生きる事を男に命じた。


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