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24話:スイリュウとアイ、スイリュウの愛

「僕とアイは同い年で、16の時に出会った。

 色々あったけどまぁそれは置いておいて、そこから6年後に滞留を身に宿した。

 そこからはパレットも聞いてる通り自分ができると思った事を続けていって、その集大成にトウメイの下を訪れた」

「さすがにはしょりすぎじゃない?」

「わかってる。何から話せばいいか悩んでいてね。あと、言わなくて良い事も言いそうになってね」

「じゃあその若作りの秘密から聞こうかな」

「そう聞かれると答えやすいな。そこから話そうか。

 端的に言うと僕の身体は22歳の状態で止まっている。

 滞留は『自殺衝動や向上心の抑制』みたいな精神面への停滞だけじゃなく、身体の停滞もその身にもたらす。

 つまり、不死だったんだ。

 まぁ、他人に殺されたら死ぬけれどね」

「なるほど」

「もっとビックリするかと思った」

「アイさんのお墓から今までにも時間はあったしね。そもそもこっちはずっと話してくれるのを待っててとっくに身構え終わってるの」

「そっか」

「そうだよ。それくらいじゃもう驚かない。」

「じゃあ、滞留がついてからのアイとの関係の話をしようか」

「う、わかったけど意地悪くない?」

「君に誠実でありたい」

「ばか」

 スイリュウはハナがまだ眠っている事を確認して話を続ける。

「とは言っても最初はミミと出会った時の話をしよう。そう言えば前に雑談がてら耳の良い子の話をした事があったね。それがミミなんだ。

 彼女と出会ったのはこの街でね。迷子だったミミが僕の中の滞留を頼りに追いかけてきて出会った。

 その時は訳がわからなかったけれど、すぐに理由がわかった。

 耳を頼りに母親を探していたら僕に辿り着いたらしい。

 その時に僕は彼女が結婚したと知ったんだ。

 あの時は滞留による感情の平衡化も突き抜けてショックだったなぁ。

 カレンダーを見なくなったわけじゃないんだけれど、老いなくなったこの身体の時間感覚は確実に狂っていたとこの時気づいたよ。4年くらい経過したと思っていたら10年過ぎていた感覚だ。そんなに時間が進めば誰しも次のステップへ進む。僕だけ進めないままだった。

 進歩の無い時間の中でもできる事をやって、人の助けになる事をして、それを積み上げて行けばこの呪いも解けて、もう一度彼女と結ばれるはずって愚かにも思っていたんだ。

 今まで見たこと無い表情してるよ、パレット。

 ごめんごめん、ハナ起きちゃうから責めはまた後でね。

 それで、ミミがアイの娘と知ってからはこの街に戻る事も滅多に無くなってしまった。避けてたんだ。

 けれどもこの街に帰る度にミミに見つかって張り付かれていたよ。

 ミミも年を重ねていく内に、僕とアイの関係を滞留の話込みで知っていたようだけど、それでも必ずやってきた。

 そうやって過ごしていく内にミミを経由してアイの作った道具が押しつけられるようになってきた。あとはテントの修理もだね。前も話したかもしれないけれど、このテントはアイが作ったものなんだ。

 さらにまた十数年経つと、ミミが結婚してハナが生まれた。すっかり腐れ縁ではあったけれど、結婚式には出なかった。ミミとその旦那には後ですごく怒られた。

 ハナもミミと同じように僕につきまとうようになった。おばあちゃん子だったらしい。

 さらにもう数年したある日、アイが亡くなった。

 その知らせを聞いた時に僕は初めて自分の過ちに気づいた。

 ミミは養子としてアイの家族になっていて、アイ自身は生涯独身だったんだ。ミミには『大切な人を呪った私が誰かを愛する事なんて許されない』って言っていたらしい。じゃあミミに注いだ愛情はなんだったのかって思わなくもなかったけれど。

 ん?あぁ、ややこしい言い方をしたね。この時の僕は滞留の正体には気づいてなかった。今となっては文字通り指輪にかけた願いが呪いに変質した事を言っていたとわかるけれど、当時の僕はそれを思い違いだと切り捨てて、水龍の罰だと思い込んでいた。

 結果的に僕を呪ってしまった彼女自身がずっと呪われていたんだ。

 それをミミから聞いて、当時の僕は何も感じなかった。すっかり滞留が馴染んでしまって、呪われて当然とも、どうして結婚していなかった事に気づかなかったのかと後悔する事もできなかった。

 滞留が切り離されてからは毎日この時の事を思い出して夢を見た。

 昨夜もパレットが来てくれなかったら逃げたくなる気持ちに負けてしまうかもしれなかった。昨日は強がってかっこつけたけれどね。

 向き合う事から逃げたくてたまらなかったんだ。

 だから、ありがとう。

 君に伝えられて良かったと君の表情を見て思うよ」

 弱々しく笑っていたスイリュウは、最後には穏やかに微笑みながらパレットの事を見つめていた。

「話は終わった?」

「一番に伝えるべき事は。あとはもう少しだけ話す事があるけれど、それはトウメイが来てからの方が良いから。そっちの話は二人揃って聞いて欲しい」

「わかった」


「さて、パレットは僕が年寄りで思い込みで過ちを犯し、過去の後悔に今さら襲われているどうしようもないロクデナシと知った訳ですが」

「その言い方やめて。私の好きな」ひと、と続けようとしたがスイリュウに遮られた。

「僕は君が伝えたい事を勝手に想像している。その上で先に僕に言わせて欲しい事がある」

「……何」

 パレットは身体が強張る。どんな結末であっても伝えさせてくれると思っていた。それさえも拒絶されてしまうのかとおびえている。

「あ、そういう事じゃなくて」

 それにスイリュウは気づきパレットの手を握る。

「これからもパレットと共にいたい。君を愛したい」

 そう告げた。

「ふぇ?」

 間の抜けた声がパレットから鳴る。

「あんな未練タラタラに聞こえるような話をした上で、受け身のまま告白を受け取るなんてダメだと思った。だから、先に言いたかった。

 君と食べる食事が好きだ。出会ったばかりの頃のからかいも悪い気はしなかった。時間を重ねて行く内に君との時間が安らぎになった。昨日だってついさっきだって、君がいたから安心できた。

 滞留が蓋をしていた感情は後悔だけじゃない。幸福や安心、パレットと過ごした時間の中で滞留に抑えこまれていた感情も溢れ出したんだ。今まで隠してていたけれどね。

 だから、これからも君と一緒にいたい。また動き始めた時間を共に刻ませて欲しい」

 パレットの目が徐々に潤んでいる。

「わ、私は」

 パレットは大きく深呼吸をする。身体に酸素を送り込む事で自分の鼓動をより鮮明に感じる。それでも幾分か心は落ち着いてずっと伝えたかった言葉が頭に浮かぶ。

 スイリュウの目を見つめる。スイリュウも目を逸らさない。

 ごくりと喉が鳴る。喉はカラカラで(あぁ、あの時勢いのまま言ってしまえば良かった)と少し後悔する。

 もう一度小さく息を吸って、言葉を吐き出す。

「私も好き。アンタとずっと一緒にいたい」

 一番伝えたい事が言えてからは、口は滑らかだった。

「トウメイが変な男に引っかからないように、アンタの事を試していたの『ほら、この男はろくでもないよ』ってわからせるためにね。

 何笑ってんの、実際悪い気はしなかったんでしょこのろくでなし。

 でもまぁ、アンタはあくまで私達の先生として接してくれた。

 あとご飯も残さず食べてくれたし。

 意識し始めたのは夢雲の時。あぁこの人は辛うじて立てている人なんだって思った。心配だった。

 でも何も素振りを見せない。そのくせして私とトウメイの関係を取り持ったりして。

 私の手で救いたいって思った。トウメイと同じくらい大事だと思った。

 だから滞留を切り離すのを拒否した時も、私達を守るために命を捨てようとした時も悲しくて仕方なかった。

 やめて、涙拭わないで。アンタのせいで泣いてるんだからちゃんと目に焼き付けて。

 どうしようもなく好きだって、アンタを救えないと突きつけられる度に自覚してきた。突き放される度に絶対救うって思った。

 昨日、アンタが逃げ出したいと思っていたって聞いた時もアンタへの想いが溢れそうになった。

 いや、もうとっくに溢れてる。

 もう一度言わせて。

 スイリュウ。アンタのことが好き。

 ろくでなしなのはもう知ってる。そんな事で離れる訳がない。

 どこにもいかないで」

 パレットは身を乗り出しスイリュウの頬に触れる。

 そのまま顔を近づける。

「ねぇ、私も伝えたから。返事、ちょうだい」

 スイリュウの瞳にトウメイが映る。お互いの呼吸が頬をかすめる。

 スイリュウがパレットに近づく。パレットは目をギュッとつむる。

 その仕草にスイリュウは愛しさを感じる。

 そしてスイリュウは足元がもぞもぞと動いている事に気づく。

 スイリュウが視線を自分の下半身に移すと、ビクっと震えを感じた。

 数秒待っても何も感触が無いパレットは不安そうに薄目を開ける。

 そこには手で口を抑えたハナが顔を真っ赤にして見ていた。

「おませさんめ」

 スイリュウが優しくハナを撫でる。

 パレットはバツが悪そうに頭をかいている。

「ハナの事はお花だと思って、どうぞどうぞ」

 ハナなりの気遣いにスイリュウは苦笑した。

「パレット」

「え、本気?」

「こっちならどう?」

 スイリュウは頬を指さした。

 パレットは手で目を隠しながら盗み見ているハナに目を向けて、「まぁ、それならいいのかな?」と渋々応じた。

 スイリュウがパレットの頬に口づけをし、お返しにパレットがスイリュウの頬に口づけをする。

 それを指の隙間からハナは覗き見、最後には拍手をした。

「おめでとーー!」

 二人の口づけに満足したのか、ハナはベッドを飛び降り、居間の方に出て行った。

「教育に悪くない?」

 ハナが出て行くのを目で追いながらパレットが文句を言った。

「ミミ達にいつもこれくらいはされてるから大丈夫」

 スイリュウはそう返すと、改めてパレットに向き直る。

「さて、パレット」

「なに?」と言い切る前にスイリュウとパレットの唇が重なった。

 パレットは胸が弾むのを自覚した。ときめいているのだ。

 パレットはそのままスイリュウに腕を絡ませ、抱きしめた。スイリュウもそれに応じた。

 時間にして1分もない口づけにパレットは呆けていた。

「パレット」

「はい」

「これからもよろしくお願いします」

 にやけ顔をどうにか抑えようとしながらスイリュウがお辞儀をする。

「こちらこそ!」

 パレットの中で喜びが弾ける。その思いのままにスイリュウの胸に飛び込み、泣き笑いながら顔を埋めた。


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