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21話:ハナとミミの襲来

 自然公園の中にあるキャンプ場でスイリュウ達はテントを設営した。

「じゃあちょっと出てくる。夕飯には戻るよ」

 スイリュウはそう告げて用事に出かけていく。

「はーい、行ってらっしゃいませ」

「軽食はテントにあるけれど、店も近くにあるから戸締りだけ気を付けて過ごしてね」

「わかってるって」

 スイリュウが出て行き、テントの中に二人だけが残る。

「そういえば滞留ってどうしているの?」

 トウメイがパレットに訊ねる。

「あぁ、ここに置いてるよ」

 パレットは滞留が収められている龍のぬいぐるみを取り出した。

「パレットは夢雲の中でお話したんだよね?このぬいぐるみにも意思が残っていないのかな」

「そこはあまりわからないのよね。スイリュウから切り離した後に夢に出てくるとかも無いし、勝手に動き出す事も無いし。自我があるなら動くか喋るくらいはさせてあげたいけれど」

「龍の形のロボットに移したらいけるかなぁ。カッコイイし」

「それはトウメイの趣味でしょ。でも確かに関節がハッキリしている入れ物なら動く事はできるのかなぁ」

「感情表現はさせてあげたいよね」

「トウメイはこのぬいぐるみに自我が宿っていると思っているの?」

「うん。滞留自体が結果はどうあれ“愛の祈り”だから、強い意思が残っているような気がするの。パレットには面白くない話かもしれないけれどね」

「なによそれ。こちとら夢雲の中で懇願された時から知ってる話なんだから今さら面白いも面白くないも無いわ」

「ふーん。そう」

「そうよ」

「パレット」

「なに」

「ちゃんと伝えられると良いね」

「ん」

「どんな結末でも私は味方だからね」

「……ありがとう」

 ボソリと言うパレットを愛しげにトウメイが見つめる。

 そんな穏やかな時を過ごしていると、外から少女の声が聞こえてきた。

「ママ!ほら、やっぱりスイリュウが帰ってきてるって!!」

 少女の声は近づいてきて、テントの扉の前まできた。

「スイリュウ!久しぶり~~~!!」

 声の主は扉を勢いよく開けた。

 10歳に満たない背丈の少女がそこには立っていた。

 トウメイとパレットはギョッとするが、家主の名前を叫びながら入室したのが少女だったのもあって警戒はしていない。

 少女はテントの中を見回しスイリュウを探す。

 そこでようやく二人の存在に気づき、パレットと目が合う。

「スイリュウが女の子になった!」

 少女はびっくり仰天し叫ぶ。

「違うよー」

 パレットが否定しつつ少女に近づく。

「嘘だ!だっていつもの匂いがするもん!」

 少女が判断理由を話すとトウメイが「まぁ!」と黄色い声をあげる。

 パレットは不意打ちで顔を真っ赤にする。昨夜の事を思い出している。

「ん?あれ、匂いの場所が違う」

 少女は鼻をスンスンと動かしながらパレットの周りを探り、滞留の収まったぬいぐるみに辿り着く。

「……グスッ」

 しばらくぬいぐるみを見つめた少女は泣き始めた。

「え、えぇ?どうしたの?」

 パレットは慌てて少女と視線を合わせて声をかける。

「スイリュウが、スイリュウが人じゃなくなっちゃったー!」

 ワンワンと泣き出す少女をパレットはなだめる。

「パレット、もしかしてこの子、滞留の匂いでスイリュウを覚えているんじゃない?」

「そうかもしれないね。どうしよう、まだスイリュウ帰ってこないよ」

 泣き続ける少女に困り顔のパレット。スイリュウが帰ってこないかとドアの方に目を向けると、女性がちょうどテントに入ってきていた。

「あらあら、ハナちゃん。大丈夫?すいませんご迷惑を」

「ママ、スイリュウがぬいぐるみになっちゃった!」

 涙声で龍のぬいぐるみを指さす。

 ママと呼ばれた女性がぬいぐるみに目をやると、目を見開き、しばらくした後に涙を浮かべた。

 比較的落ち着いて様子を見ていたトウメイもこれにはビックリし、「どういたしましたか?」と女性に声をかけた。

「すいません。嬉しい事があって。そっか、ようやく終わったんだ」

「えっと……」

 一人納得する女性に、トウメイの戸惑いは増すばかりだ。

「ごめんなさい、自己紹介がまだでしたね。私はミミと言います。こちらは娘のハナ。お騒がせしました」

「い、いえこちらこそ師匠の……スイリュウのお知り合いの方ですよね。私達はスイリュウに師事しているトウメイとパレットです」

「あぁ、良かったスイリュウの世話になっているのね。本人がいないから何から聞けばいいのかわからなくなるところだったわ」

「あ、あの、私達もまだここに来たばかりでスイリュウに放置されているんです。お互いお話をしませんか?」

「そうね、喜んで。ほら、ハナちゃんスイリュウは後で来るから元気になって」

「……うん」

 むすっとしながら滞留のぬいぐるみを抱きしめている。

 パレットは根負けしてぬいぐるみをミミに預けた。


「何から話そうかしら、お二人は彼が呪われていた事は知っているのね?」

 泣き疲れて眠っているハナに抱かれたぬいぐるみに目をやりながらミミは訊ねる。

「はい、私達が滞留を分離させて、今はあのぬいぐるみを器にして留めています」

「まぁ、あなた達がやったのね。すごい」

「やったのはパレットだけですよ。私にはとてもじゃないけどできないです」

「いえ、姉がいなかったら説得しきれなかったので、“私達”です」

「そうですか。あなた達のお陰であの人は死と向き合い続けるのを止めたのね」

 目の前で手を合わせながらミミが嬉しそうに笑う。

「そうだと良いんですけれどね。あまり自信が無いです」

 パレットは神妙な顔で返す。

「それはどうして?」

「聞いてくださいよ!滞留も取り出して、一緒に危機も乗り越えて、これからも師匠でいてくださいって言ったのにまだ保留にしてるんですよ!」

 トウメイが乗り出した。少し暗い雰囲気に入りそうなのを嫌ってのパフォーマンスだ。

「ちょっと、それはさすがに人聞きが悪いって。本当のところは、まだ私達に伝えていない事があるから、スイリュウの故郷で話すまで待って欲しいって言われたんです」

「あぁ、なるほど。滞留が離れたら女心を弄ぶろくでなしになってしまったのかと思っちゃった」

 いたずらっぽくミミが言う。

「まだその線は消えてないかもしれませんよ」「こら!」トウメイの軽口をパレットがたしなめる。

「だって関係をハッキリしていないのに一緒のベッドで一夜を過ごしたでしょ?」

 トウメイの反撃にパレットは固まる。昨夜はあまりにも安心して眠れてしまい、トウメイが起こしに来るまで二人とも眠ったままだった。

「それはちが……わないけど、今言うな~!」

 顔を真っ赤にして怒り狂うパレット。

「ふぅん、それは後で会ったらちゃあんと話を聞かないとなぁ」

 ミミは少し圧のある声でそう口にした。

「話が逸れに逸れましたけれど、ミミさんは師匠とどんな間柄なんですか?もしかして、元恋人だったり?」「どの口が」と話を逸らした張本人にツッコもうとしたところで爆弾発言が追加され、パレットは閉口した。

 あまりにも無遠慮な質問にミミも固まるが、ニコリと表情を直し、「違いますよ」と返した。

「親戚ではないけれど、昔馴染みな人かな。たまにここに帰ってきて、魔法の話をしてくれるの」

「おぉ~、幼馴染。なんて素敵な関係性なのでしょう」

「トウメイ」

「ハイ」

「もうたくさん喋ったわよね?」

「ハイ」

「ハナちゃんを寝室に寝かせに行ったらどうかな」

「ソウデスネ」ぎこちなく立ち上がり、トウメイは名残惜しそうにしながらもハナを抱えて別室に消えていった。

「姉がすいません」

「いえいえ、ビックリはしたけれど気も遣える良い子だなって思いましたよ」

「そう思っていただけると幸いです」

「それで、パレットちゃんはスイリュウの恋人だった人の事が気になるの?」

「えぇっと、んーーーと」

 言い淀むパレット。

「んーと?」

 ミミは促す。

「……はい」

 その返事にミミはニコリと笑う。

「とは言っても今この事を話すと、彼が伝えようとしている事を明かす事に繋がってしまうから、内緒です」

 いたずらっぽくウィンクをしてはぐらかす。

「じゃあ、なんで訊いたんですか?」

 少し不服そうにパレットは言い返す。

「きっと可愛い反応を返してくれるだろうなぁって思って。出来心で。それに、長年見守る事しか出来なかった人を救った女の子へのちょっとした嫉妬だったり?」

「そんな事言ったら私だって昔のスイリュウの事を知っているのが羨ましいですよ」

「パレットちゃんの恋心、素敵だわ。大事なところは伝えられないけれど、私の話で良ければいくらでも聞かせてあげる」


 ミミから聞くスイリュウの話をパレットは興味深く聴いていた。

「それでね、ハナちゃんに興味を持たれて一日中追い回されていたの。結局ハナちゃんが電池切れで眠っちゃって抱き抱えて帰ってきたわ」

「ハナちゃんが危なくない場所を逃げ回っていたのがスイリュウらしいなって思います」

「でしょう?それを言ったら『ミミの娘ならずっと追いかけ回すと思ったから、安全に面倒を見ていた』なんて言うの」

「……前科があるんですか?」

「……えへ」

 はにかみながらとぼける。

「耳が他の人よりもちょっと良くてね。スイリュウの足音を辿った事がありました」

「あの、トウメイを追い出した身で訊くのもなんですが、本当にスイリュウと何も無かったんですか?」

「やだもー何もないわよ。この話も小さい頃の出来事よ。もう時間もすっかり経っているのにスイリュウが覚えているものだから、当時は恥ずかしくて顔真っ赤になっちゃった」

「小さい頃、って言う事は滞留にかかる前の話ですよね?どんな子供だったんですか?」

「あ、えーっと。その頃にはもう滞留にはかかっていたのよ」

 ミミがしまったと想いながら取り繕うが、パレットは当然気づく。

「え」

 パレットは目を丸くする。スイリュウが滞留にかかったのは成人してからの出来事であり、そこから10年は経過していないと、パレットは考えている。

「もしかしてスイリュウって結構歳をとっている?」

 独り言のようにパレットは呟く。

「あら、私がものすごく若いとは思わないんだ」

 開き直ったミミがいたずらっぽく問いかける。

「ハナちゃんがいるのにさらに若かったら旦那さんを通報しないといけなくなりますよ……」

「それもそうね。パレットちゃんの予想が正解よ。あの人、若作りしているの。がっかりした?」

「いえ、ビックリしましたけど想像より上なんだなぁと思っただけです」

「そう、ますますパレットちゃんが好きになっちゃった」

「それはどうも」

「あ、スイリュウの足音が聞こえてくるわ。ようやく帰ってきたのね」

「すごい耳ですね、全然気付かなかった」

「ミミですから。それじゃあ、ハナちゃん達も起こさないとね」

 パレットとミミは寝室を開ける。

 滞留を抱いて眠るハナをトウメイが優しく撫でている。

「トウメイちゃん、ハナちゃんの様子を見てくれてありがとうね」

「いえいえ、二人の話も聞きながらだったので全然苦じゃないですよ。なにより可愛すぎです」

「聞いてたの?」

 仏頂面になってパレットが訊ねる。

「うん」

「はぁ~、まぁ茶々入れられなかっただけ良かったか」

「実の姉に厳しい妹だ」

「はいはい」

 二人がかけあいをしている間にハナも目を覚ます。

「ハナちゃん、おはよう。もうすぐスイリュウがくるよ」

 トウメイが声をかけると眠気眼のハナの目がカッと開いた。

「スイリュウ!!」

 ハナはベッドから飛び起き、部屋を駆け出て行った。

 その先にはスイリュウがいた。

「あれ、ハナ?あいかわらず鼻が良いなぁ。お母さんはどうした?」

 スイリュウに頭を撫でられ、ハナはくすぐったそうに笑う。

「んふふ~でもハナのハナはお花のハナだよ!フラワー!」

 満足げにしながらハナは主張する。

「そうだったね。おっと、ミミも一緒だったか」

 遅れて部屋にやってきたミミとトウメイとパレットに気づく。

「そりゃあ一人では行かせられないからね。私の愛しい旦那様に会ってきたの?」

「なんだ、聞いてたのか。そうだよ、もしもの時のために彼女達の面倒を頼んでいたからね。先に顔だけ出してきた。それとこの後行くところの入場許可も貰ってきた」

「キャンセルはしなかったんだ。我が家の世話になるなら私もパレットちゃんとトウメイちゃんと仲良くなれて嬉しいなぁと思っていたけれど」

「それはこれから彼女達に決めてもらうさ」

 スイリュウは双子の姉妹を見る。

 パレットが少しだけ緊張しているのをトウメイは見逃さなかった。

「すこ~しおじ様なだけで私達の気持ちが変わるとは思わないですけどね」

 隣室で盗み聞きしていたトウメイがスイリュウをつつく。

「ん?あぁ、ミミが話したのか」

「私がスイリュウを追い回した話をした時にうっかりね。あなたがこれから話そうとしている事は伝えてないよ。大事な話は本人が伝えた方が良いからね」

「なるほど、それだけか。なら最初から話した方がいいか」

「そうしましょうそうしましょう。愛しの妹もそろそろ親しげなお二人への焼きもちが破裂しそうですし」

「焼いてないから。スイリュウ、話を聞かせてくれるんでしょ?」

「もちろん。そのためにここに帰ってきたんだ。着いてきて」

「スイリュウ、おでかけ?」

 スイリュウの足元に引っ付いてたハナが訊ねる。

「うん、また後で遊びに行くからね」

「やだ!」

 腕に抱いた滞留をギュッと抱きしめながらハナは叫ぶ。

「そうは言ってもなぁ……」

 弱った声でミミに目をやる。

「一緒に行っても良い?話が済むまでは近くの公園でどうにか遊ばせるから」

「ハナ、それで良い?大事なお話が終わったら迎えに行くから」

「……肩車して」

 ムスッとしながらも要求するハナに大人達は笑みを溢した。

「いいよ」

 スイリュウは笑顔で承諾した。


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