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19話:パレットはまた監視する

 時は少し進む。

 隕石を破壊したスイリュウは結界の引継ぎに教え子達との送別会とそこそこ忙しく過ごしながらも旅支度を進めていた。

 スイリュウの腕には機械の義手が取り付けられていた。水で作られたそれと違い触覚がなく、初めは戸惑ったがなんとか生活はできている。

 パレットの補助があれば水の義手も使う事はできるが、今は朝と夕に顔を合わせる程度なため機械の方が都合が良かった。

 それでも食事を共にする時はパレットの力を借りて馴染みある腕で食事を摂っている。

 また、トウメイにも新たな才能がある事が発覚した。

 土の魔法への適正だ。スイリュウが用意した水よりも遥かに効率よく、大地に魔力を籠められる事がわかったのだ。

 先祖代々この土地を動かなかった事で大地への適正を持っていたのかもしれない、というのがスイリュウの推測だ。もしくは、長らく地下に魔力を溜めていたため、この土地が特別馴染むのかもしれないとも続けた。

「トウメイは頑固なところがあるから、固い意思が転じて“石”になったんじゃない?」

 とはパレットの言。

 トウメイの適正と、地下に溜まっている先祖の魔力のお陰で結界はより安全に維持できるようになった。


 そして旅立ちの前夜。

 スイリュウ達三人はパレットの家で食休みをしている。

 パレットの部屋は片付いている。スイリュウが借りていた部屋は何も残っておらず、荷物はすべて居間におろしている。

「トウメイもこっちに荷物持ってくれば良かったのに」

「いえ、最後は私のすべてだった場所で眠ろうかなと思いまして」

 街の中心の塔もすっかり整理されていた。トウメイの私物は残しているが、いつかまた必要になった時にいつでも迎え入れられるように居住空間にトウメイの荷物は無い。

「ほんっとうによく片付いたわ」

 ため息まじりにパレットがぼやく。

「先代の居住者の物品まで色々と片付けたからね……。結界の整備よりもこれが一番時間かかったよ」

 スイリュウもそれに続く。

「偶然師匠に合う義手が見つかったのが運の尽きでしたねぇ。まさかここまでモノが残っていたとは」

 元々はトウメイの住空間のみを片付ける予定だったのだが、トウメイの私物が収納できる場所を探している内に偶然機械の義手を見つけたのだ。

 何かと入用になるかもしれないと主張し、好奇心のままにトウメイが物置を物色したのは完全に藪蛇だった。

 放置していては爆発の可能性のあるものから数十年前の教本、美しい着物から声に出すのが憚られる道具まで様々であり、トウメイが好奇心のままにスイリュウ(昔のもの担当)とパレット(女性の服飾や道具担当)を質問攻めしていた。二人も初めはノリよく説明していたが、キリが無くなると感じてからは黙々と片付けを進めた。

 なお、説明しにくいモノに二人が無言になった時はブルに訊きに行こうとしたが、二人に必死に止められた。


「さて、それでは私はお暇します。後は二人でごゆっくり」

「はいはい気を付けて帰ってね」

 トウメイのひやかしに二人はすっかり慣れてしまった。

「ちぇー」

 唇を尖らせながらトウメイは家を出た。

「最後まで変わらないなぁ」

「いいや、あれは三人で旅に出るようになったら悪化するわよ」

「当たって欲しくない双子の予感だ……」

 苦笑するスイリュウ。

「多分だけど、アンタの話したい事を聴く前に言質を取りたいんだと思う」

 少しだけ真面目な声色でパレットが推測を口にする。

「それは感じるけど、もう半分はトウメイの嗜好じゃないかな?」

「それは否定できない」

「だよねぇ」

「安心して、トウメイの優しさというかおせっかいを嬉しくは思うけれど、ちゃんと知ってから私も伝えたい事を伝えるから」

「わかってるよ。君達に覚悟や後悔をさせたくないからね」

「ばか。もう寝る。おやすみ」

 少しだけ口を尖らせてパレットは夜の挨拶をする。

「なんだそれ。おやすみ」

 スイリュウもつられて笑いながらそれに応える。

「スイリュウ」

「はい」

「明日、ちゃんとここにいてね」

「もちろん」

 スイリュウの返事を聞くと、パレットは自室へと向かった。

 話し相手もいなくなったので、スイリュウも寝支度をしようと腰を浮かせると、パレットの部屋の方から足音が近づいてきた。

 トントントンと響く足音が、共用スペースのドアの前で止まる。

 スイリュウは腰をおろして様子を見る。

 少しだけ間を空けて、パレットが共用スペースに戻ってきた。

 寝巻姿に枕を持っている。

「どうしたの?」

 スイリュウはパレットに訊ねる。

「ぜ、前科があるからやっぱり今日は見張る」

 つっかえながらパレットは宣言する。

「パレット、あのね」「わかってる!」

 スイリュウが諭そうとするのをパレットが遮る。

「変な意味じゃないから!この期に及んで信用していないわけじゃないし、私の事を伝えたいわけじゃない。けれど、それでも、いなくならないで欲しいって気持ちが溢れてきちゃうの」

 最後はそこまで言うつもりは無かった、と尻すぼみに言葉にする。

「ねぇ、なんか言ってよ」

 スイリュウは椅子から立ち上がり、パレットに近づく。

 パレットはスイリュウの目を見上げる。

 スイリュウの手がパレットの頭に伸びる。目を瞑るパレット。

 ポンとパレットの頭に重くて武骨な感触が伝わる。

「実はこの義手が寝る時には重くてね、でも外すと寝返りがうちにくいんだ。そのせいであまり眠れない事もあってね。旅立ちの前日に寝不足だけは避けたいんだ。だから、パレットに水の義手を作って欲しいなぁ」

 最後は冗談ぽく白々しくパレットに声をかける。

「連れ込みナンパにしては露骨な口説き文句だなぁ」

「そう言うなって」

 パレットのからかいを久しぶりに聞けて、スイリュウは心が弾むのを自覚した。

「わかった。一緒にいてあげる」

 パレットの声は弾んでいた。


 スイリュウがベッドに腰掛け、後ろからパレットが手を当てる。

 途端に水の腕がスイリュウに生まれる。朝夕と毎日行っていたためすっかり慣れたものだ。

 処置が終わるとパレットは自分の枕を置いて横になり、ポンポンと自分の横のスペースに寝転がるよう要求する。

 スイリュウも渋らずにすぐに横になる。パレットは少しだけ震えたがスイリュウはベッドに沈む感覚と混同して気づかなかった。

「手も繋ぐかい?」

 パレットの緊張に気づかないままスイリュウは声をかける。

「は、はい!?いいの?」

 ビクっとしたパレットに、ようやくスイリュウは察する。

「見張るんでしょ?ほら」

 スイリュウはパレットに手を差し伸べる。

「寝返りうてないじゃん。建前くらいおぼえておけよ、ばか」

「そういえばそうだった。まぁどっちにしてもパレットがいる分狭いし寝返りなんてうてないよ」

「ふーーん、それも見越してたのね。しょうがないなぁ。思惑に乗ってあげる」

 そう言うとパレットはスイリュウの手を握った。パレットは脈動が伝わらない水の手をズルいと思った。一方的にパレットの心拍数だけが伝わっているように感じる。

 パレットが手を放す。スイリュウは不思議そうにパレットに目を向ける。

 間もなくパレットがスイリュウの胸に飛び込んできた。

 スイリュウは言葉での抵抗を試みるが、離れてくれない。

 一方的にドキドキが伝わってズルい。その感情だけで動いたパレットの耳はスイリュウの胸に押しつけられていた。

「あれ?」

 驚いた声を出したのはパレットだった。スイリュウの心臓がとても早く脈打っているのを感じる。

「ねぇ、ドキドキしてくれてるの?」

 耳をスイリュウの胸から離し、訊ねる。

「気にならないわけないだろ」

 ポカ、と軽くゲンコツを落とす。その後ゆっくりと頭を撫でる。

「そっか、そっかぁ」

 パレットはもう一度スイリュウの胸に顔を埋め、頭をぐりぐりと押しつける。

 そのまま眠りにつくパレットを、スイリュウは優しく抱きとめていた。


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