1話:スイリュウは説得する
「とは言ってもまずは街の人に確認を取らないとね」
消し飛ばされた腕を取り付けながらスイリュウが言う。
床に落ちていた水は染み込む事も無く主の肩付近に腕として復活していた。
「まずはパレットから話を通してもらうのが早いと思います。この塔にいることに何かしら言われると思いますけど」
「まぁそれくらいはね。夕暮れ時に女の子の家に押しかけているし」
「もうすっかり夜ですよ。ずいぶん話し込んでしまいました」
トウメイが窓を開けると、トウメイの魔力圏に沿って立てられた外壁の外が真っ暗になっている事に気づく。
「この時間ならもうパレットが訪ねてくると思います。お茶でも入れましょうか」
「ありがとう。よろしくお願いします」
侵入者から師匠に、今は客人としてもてなされることに歯がゆさを感じ、敬語になる。
「や、トウメイ。きたよ」
しばらくして塔を訪れたのは黒髪で黒い瞳の少女だった。髪の長さはトウメイより短く、肩にかかる程度だ。トウメイと比べると背が高く活発な印象を与える。
「パレット、こんばんは。お昼ぶりだね」
トウメイが部屋の戸を開けパレットを通すと、彼女はいるはずのない来客に気づき固まった。
「トウメイ、これは一体……?」
「えぇっとね、話すと少しややこしいから、皆を呼んでから話したいの」
固い表情のパレットと対照的に、朗らかにトウメイはお願いをする。
「……要件は先に聞かせてくれる?皆すっ飛んでくるだろうけれど、さすがに説明はしたい」
表情はそのままに、緊張感を持ってパレットがトウメイに返事をする。
「そうだね、それは確かに。じゃあ、言うね」
上目遣いの愛らしさとは裏腹にまっすぐ意思のこもった視線がパレット射抜く。
「私の体質を克服したいの。彼は魔法の先生」
決まっていた運命を受け入れ、諦観混じりに自分語りをした少女とは思えない頑固さをスイリュウは感じた。
「ダメです。認められません」
街の中心人物を集めた直談判は、さっそく突っぱねられた。
突っぱねたのはまとめ役の男、ブルだ。名前負けしない屈強な体躯に丁寧な返答。穏やかな声音の明確な却下の意は彼の内なる屈強さをこちらに示してくる。
「どうしてですか?この方がただの魔法使いじゃないのは私が保証します、私が練習している時に魔力嵐を受け止めてくれるとも言っています」
そんなブルに気圧されずに食い下がるのはトウメイだ。街のまとめ役と防衛機構、勝手知ったる仲なのだろう。
「貴女がその体質を克服したとして、この街がどうなるかわかっていますね?すぐに魔力嵐に飲まれ、滅びます。その後もこの男が守り続けてくれると言うのですか?」
「私が自分の魔力をコントロールできれば、より効率的にこの街を守る事ができます。」
「それは机上の空論です。効率的にというのは、今のような“溢れる魔力を押し出す”方法で作られた結界ではなく、周囲を取り囲むドーム状の防壁を作り上げるということでしょう。一朝一夕で身につく事ではありません。
それとも、彼はそれまでずっといてくれると言うのですか?部外者ですよ?いつでも去ることが出来る」
「あのー、良いですか」
ヒートアップする会話にスイリュウは発言を求める形で水を差す。
「私は身軽な人間なので、いつまでもいますよ。それとトウメイの資質的に貴方が語った方法は不向きなので、別の方法でこの街を守ろうかと思っています」
スイリュウの視界に少しふくれっ面になったトウメイが映る。巨大な結界を作る事への憧れがあったのかもしれないが、向き不向きというものはある。なによりトウメイには時間が無い。
「これです」
スイリュウはそう言うと右肩から腕を取り外した。
会合の参加者は一瞬身じろぐものもいたが、ほとんどの人は疑わしげに水の義手を見ていた。
「これは僕が作製した魔力親和性の高い水で『止水』と呼んでいます。この止水には魔法を刻印したり、魔力をストックする事ができます。見ての通り私の義手になっています。この止水にトウメイの魔力を刻印し、街を覆うことで守りを維持します。彼女の魔力はすでに『押し流す』という副次的な効果を獲得しているので、魔力を注入するだけで守りは維持できます」
スイリュウは初対面の時にぶつけられた魔力の波を思い出す。
「…………本当にあのスイリュウなのですね」
「誰に何を聞いたのかはわかりませんが、そんな大した人間じゃないですよ。今の私は一人でしか魔法を使えない半端者の魔法使いです」
「それができるのがすでにおかしいのですが……、いや、今は関係のない話ですね。貴方が彼女の命を救いながら、街を守る手段も理解しました。現実的だと思います」
「それでは、」
同意を得られたとスイリュウが言葉をつこうとした瞬間。
「私たちに力を示してください」
ブルがそれを制する。
「え?」
「貴方は自分の事を半端者だと名乗りました。その半端者が本当にこの街を守れるのか見せてください」
「あぁ、そういう。もちろん」
出鼻をくじかれたスイリュウだが、条件を聞くと肩の力が抜けた。
「では日時は“炎嵐”の日にしましょう。私は水の魔法を得意としているので」
「わかりました。健闘を祈ります」




