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15話:パレットと夢雲

 時はパレットが夢雲に眠らされ、スイリュウの過去に触れた頃に遡る。


 パレットは目を覚ますと、目の前に大河が広がっていた。

 その大河の両端を走る堤防にパレットは立っている。

 堤防に街灯はなく、大河は黒々と映っている。

 心の中に居座る絶望感や空虚さが、ふわりと身体を前に浮かせる。

 水の流れ。自然の力。抗いがたい引力にパレットの足が独りでに進む。

 昔読んだ漫画に川に流されると、一緒に流れる様々なモノにズタズタにされながら死ぬと描かれていたのをパレットは思い出す。

 溺死が先だと良いな。パレットはそう思いながら大河に近づく。

 大河と堤防の間には雑草が高々と生い茂っている。

 そこでパレットは足を止めた。

 雑草を渡るのは面倒だ。手足を切ってしまうかもしれない。途中で戻るのも面倒だ。

 大河に魅入られていたのが嘘のようにパレットの中には停滞の感情が渦巻いていた。

「珍しい事もあるんだね」頭に女性のような声が響き、パレットはハッとする。心を塗り潰していた絶望感も、渦巻いていた停滞感もまるで初めから無かったかのように自分という存在を取り戻す。

「これは、そっかスイリュウの夢雲……」そして記憶も取り戻す。それと同時に声の主を探す。

「こっちこっち」雑草の茂みをかきわける音が聞こえる。

「こんばんは」しばらくして声の主が顔を出す。

 その顔にパレットは見覚えがある。

「スイリュウ……?」

 目の前に現れた人物の見た目はスイリュウそのものだった。しかしながら声が女性である事に混乱している。

「ちょっと惜しい。部分的にそう、ってやつ」

「どういうことよ」

「そんな事言って良いのかな。命の恩人だぞ?」

 いたずらっぽくスイリュウの見た目をした人物が笑いかける。

 声とそのギャップに気味悪さを感じる。

「あの茂みが鬱陶しくて川に行くのを諦めたのがアンタのお陰って事?」

「その通り。スイリュウもかつて同じように立ち止まった」

「……別に知り合いの自殺未遂のエピソードトークなんて聞きたく無いんだけれど」

「まぁそう言わないで。なんで死にたかったかはともかく、この男の目的は知りたいでしょ?」

「それは知りたいけれど。まずはアンタが何者か教えてくれない事には始まらないわ」

「せっかちだなぁ。話していく内にわかるというのに。まぁ良いでしょう。私は呪い。今はそれだけ覚えておけばいい」


 ~~~~~

 さて、まずは私がスイリュウを呪う前の話をしよう。

 スイリュウは二つの大河の間の街で生まれた。片方はさっきの大河ね。

 父は山のある街の出で、山間の谷には川が流れていた。

 母はスイリュウの出生地の隣町の出身で、湧水に恵まれて過ごしていた。

 そんな二人から生まれたからか、近くの大河に倣ってスイリュウという名前が付けられた。

 大きな流れに乗って大海を目指す事を願ったのか、長い物には巻かれろの精神を伝えたかったのか、はたまた水の龍なんて大層な名をつけたのか、親のみが知るところだね。

 スイリュウはすくすくと育った。魔法の覚えはそこそこだが、水の魔法については出来が良かった。それはあなたもよく知っているね。

 転機は「名前の魔法」だった。

 自分の名前を持つ魔法は唱えやすい、というやつね。あなたなら「色」とか「絵」に起因した魔法になるのかな。

 スイリュウの場合は水の流れの「水流」がそうだね。

 お、勘が良いね。

 この男はあろうことか水の龍を自分の名前から連想したんだ。


 とはいえこの頃はまだ幼かったので、無謀をするには技能が足りなかった。

 成長するにつれて龍の事は記憶の隅に追いやられていた。

 だが、結局一度連想したモノからは逃れられなかった。想像できるのなら実現できる。素晴らしい言葉かもしれないがスイリュウにとっては裏目だった。

 成人したスイリュウは周囲の人々が何かを成し遂げては焦っていた。両親に友人、それと恋人、心配する者もいたが彼は重荷に感じていた。

 え?なになに。恋人のくだりで苦い顔しないでよもー。それは私とも出会う前の話だから知らないって。私は恋愛関係の呪いじゃないよ。

 話を戻すよ。

 そんな焦りと、自身の人生を振り返った時に思い浮かんだのが「水の龍」だ。

 安直な一発逆転狙いだよね。スイリュウと名付けた両親に感謝までして、龍を呼び起こそうとする。

 時にパレット。伝説と呼ばれている事物に関する魔法を半端者が唱えたらどうなると思う?

 うんうん、あなたは本当に察しが良いね。そう、呪われるんだ。

 私は「水龍」を唱えようとした愚か者に憑依した呪いなんだ。


 不完全な水龍はスイリュウの腕を切り落とした。落とし前ってやつね。それと同時に私と言う呪いを付与した。

 私の呪いは「滞留」。水の流れとは逆にそこに留まらせる呪い。スイリュウという名を全否定したかったんだろうね。

 私という呪いはあらゆる停滞を司る。

 一つはあなたも経験した、生命の停滞。死の防止だね。あなたの姉のように、私の呪いを押し流したり、呪いを貫通するくらいの魔法には屈するけれど、自殺を実行させない事くらいは容易にできる。よくも悪くもスイリュウを助けている効能だね。

 問題はもう一つの効果。なんだと思う?ヒントはスイリュウが誰かと魔法を使った事がある?

 そう、彼は魔力のパスを他人と繋げなくなっている。人と繋がる事ができないんだ。

 スイリュウは一人で魔法が使える特異な魔法使いではなくて、一人でしか魔法を使えないろくでなしなの。

 まぁ、ろくでなしなのは間違いないけれど、一人で魔法を使えるようになったのはスイリュウの努力の賜物ではある。彼は私が「滞留」だと知ったら「対流」と読み替えた。自身の中で魔力が巡る事を意識する事で一人で魔法を使えるようになった。そこは褒めてやっても良いかも。


 と、ここまでがスイリュウの思い込んでいる現状。

 なぁにその顔。まぁ聞きなって。

 結論から言うと私は水龍の呪いじゃない。水龍のペナルティは腕を落とすところまで。

 じゃあ私は何者か。

 当時のスイリュウには恋人がいたのは話したね。しかめっ面しないで。可愛い顔が台無しよ。

 その恋人は刻印魔法が得意な女だった。科学技術ではフォローできない部分をフォローして生活を便利にする魔道具が作りたいって言ってた。

 何度もあなたがスイリュウにセクハラめいたからかいをしていたテントもその一つだよ。バツが悪そうな顔をするなら最初からやらなければいいのに……。


 恋人はスイリュウが追い詰められていたことに気づいていた。それでいて声をかけられない事にはがゆい思いもしていた。彼女自身も人生の岐路だったのもある。お互いに余裕が無かった。

 ある日彼女は、スイリュウが身の丈に合わない危険な魔法を使おうと考えている事に気づいた。水龍魔法の事だね。

 すれ違いは多かったけれど、それでも彼女はスイリュウに死んでほしくなかった。そこで彼女はある贈り物をする。

 指輪だよ。何の変哲もないただの指輪。

 けれど、送り主は刻印魔法の才能があった。そんな彼女がスイリュウを想って贈った道具には祈りが刻印されていた。「どうか、死にませんように」ってね。

 勘違いしないでね?これは彼女が意図的にやった事じゃない。ちょっとした無意識化の暴走。まぁ、結果に過程は関係無いけれども。

 スイリュウはその指輪を身に着け水龍を呼ぼうとした。水龍に腕を落とされたことで指輪がスイリュウから離れ離れになった時、祈りは呪いとしてスイリュウの中に絡みついた。

 改めて名乗ろうか。私は「ただ、死なないでほしい」という願いから生まれた愛情深い滞留の呪い。どうぞよろしく。

 まぁ、滞留なんて名前がついたのは、家主が水龍を唱えた時に産まれたからなんだけれどね。“りゅう”つながりってことで。「停滞」でも「不死」でもなく「滞留」になったわけ。

 ちなみに、スイリュウが一人でも魔法が使えるのは、彼の魔力を私の魔力に変換する事で魔法が使えるようにしたからなの。体内にペアがいる魔法使いと言い換えても良いかもね。


 おっと、お迎えが来たみたい。

 最後に一つだけ、彼の最終目的を教えてあげる。

 彼の目的は水龍にすべてを捧げる事。

 私が話せるのはここまでだね。

 あなたがスイリュウの秘密を知ってどう感じたか聞きたかったけど仕方ない。

 でも、これだけは言っておくね。あなたなら私を引きはがす事ができる。と思う。

 もしその気になったら、頑張ってね。


 ~~~~

 滞留と名乗った呪いがそう伝えるや否や、パレットは現実に引き戻された。

 パレットが「その気」になったのはもう少し後の話だった。


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