14話:トウメイの下準備
さらに数日経って水嵐の日。
トウメイは淡々と魔力を水に籠めていた。
当初の予定通り、トウメイの魔力が籠った水を街の新たな結界にする。
その為の準備だ。
この結界が完成するまでは、スイリュウの指導を受けた魔法使い達が持ち回りでその日に合わせた結界を張っている。
「今さらなんですけど」
トウメイが魔力を籠めながら話し出す。
「これで本当に結界になるんですかね。私、ただただ魔力を流し込んでいるだけなんですけど」
自身の行動に疑問を持ちながらもトウメイは手を動かす。
「そこは大丈夫。トウメイの魔力そのものが結界魔法の要素を持っているから」
「魔力が魔法を持っているんですか?」
「長年魔力嵐を押し返すほどの魔力を放出してきたことで、トウメイが作る魔力そのものに魔法を押し流す性質が備わっているんだ」
「なるほど、無効化少女ってわけですね」
言外にルンルンと音が鳴っているように見えるトウメイ。
「いや、酒豪に少女は無いでしょ」
ツッコミを入れるのはパレット。
「箱入り娘だったのでまだまだ少女ですよ~~だ」
「やだこのお姉ちゃん開き直ってる」
姦しくおしゃべりをしながらも魔力の充填は進んでいく。
「師匠の魔力も私みたいに特殊な性質があったりするんですか?」
「無くは無いけれど、秘密。当てられたら教えるよ」
「ケチだなぁ」
パレットが横やりを入れる。
「うーん、一人で大きい魔法が使えるっていうのが関係ありそう。実は別の人の臓器が入っていて、自分が作った魔力の中に他人の魔力もあって、魔法が使える、とか?」
「臓器移植ってどんな漫画見たんだか」
パレットがトウメイの考察とも言えない思考の垂れ流しにツッコミを入れる。
「着眼点は悪くないよ。僕が一人で魔法を使える理由はこの性質にある」
「パレットはどう思う?」
「私は多分知ってるからパス」
つまらなそうにしながらパレットは答える。
「え、まさか私が塔にいる間にそんな関係に……」
両手を口に当ててアワワと声に出す。
「違うから!」
「夢雲の時に視たんだろう」
「うん」
バツが悪そうに目を逸らしながらパレットが返事をする。
「二人で通じ合ってズルいです」
そんな二人を見てトウメイは半分面白がりながらむくれた。
「というか、パレットはトウメイに話したんじゃないの?」
スイリュウが宴会の夜にトウメイから聞いたことを確認しようとすると、トウメイは身を固くして目をそらした。
「トウメイ?」
パレットが声をかける。
「ナンノコトデショウ」
片言でトウメイが答える。
「何を気にしているのかは知らないけれど、別にこの事でパレットの口が軽いだなんて思わないよ」
そうスイリュウがフォローするとパレットが神妙な顔つきになった。
「……パレット、ごめんなさい」
トウメイが二人に向き直り、パレットに謝る。
「怒ってないよ」
パレットは優しく微笑み、トウメイの両頬に手を伸ばし優しく包んだ。
「スイリュウ」
パレットがそのままの姿勢でスイリュウに声をかける。
「アンタのお陰で私達の問題は解決した。前にも言ったけど、私達はアンタを助けたい。だから、絶対アンタに絶対に私達の手を取らせるから」
その宣言にトウメイもまっすぐスイリュウを見つめながら頷く。
「トウメイの魔力を水に込め終わるまでは解決してないよ。そこに気づかない内はまだまだ手は取れないかな」
スイリュウはゆらりと宣言を躱す。
トウメイはその挑発に真っ向から乗っかり、
「よし、頑張ります!」と応えた。
「それにしても水嵐の日ってここまで雨風強かった?」
パレットがテントの窓から外を覗く。
「トウメイが放出していた魔力が消えたからね。その分魔力嵐が街に向かって吹き込んできているんだよ」
「え、それ大丈夫なの?」
パレットが問う後ろでトウメイも作業を止めてスイリュウを見つめる。
「一度だけ洪水のように大きな嵐が街に吹き込んでくると思うけど、それを止める術はあるから大丈夫」
「ねぇそれって……」
パレットが言いかけるとスイリュウはそれを目で制した。パレットは夢雲から覚めた時の事を思い出した。
そんなやり取りを後ろで眺めていたトウメイは不安そうに二人を見る。
「大丈夫、そこまで計算づくで君の手を取ったんだ。帰る場所が無いから旅に連れて行く、なんて事には絶対にしない」
「そう言ってくださるなら、信じます」
「なんかカッコイイ言い方だなぁ」
双子はそれぞれ返事を返したが、不安は拭えないままだった。
きっとスイリュウの言う通りこの街は嵐に耐えるだろう。けれども双子の帰る場所にスイリュウ自身が数えられているとは思えなかった。




