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13話:青い瞳のパレット

 翌朝。

 スイリュウは陽光とふんわりと漂うスープの匂いで目が覚めた。

 机に突っ伏して寝ていたのもあって身体はガチガチだ。背中に当たる日の光がそんな身体をほぐしてくれているように感じる。

「あ、起きた?」

 声の主はパレットだった。朝食を作っている。

「うん。おはよう、パレット」

 大きく伸びをしながら身体を起こす。首や肩からパキパキと音が鳴る。

 顔を上げパレットと目を合わせるとスイリュウは違和感を感じた。

「あれ、眼鏡なんて持ってたんだ」

 パレットは眼鏡をかけていた。

 パレットの目を隠すような大きめのレンズがついた黒縁の眼鏡だ。

 スイリュウはパレットと出会ってから初めて眼鏡をかけた姿を見た。

「うん、実は持ってた。普段はコンタクト。ちょっと目に違和感あるから念のため。あんなに飲んだこと無かったからそのせいかも」

 少し恥ずかしげに頬をかく。

「そうだったんだ。眼鏡も似合うね」

「適当言って。レンズ大きくて重いからあんまり好きじゃないのよこれ」

 少しムズがゆそうにしつつ、ため息まじりに眼鏡を手に取る。

 レンズ越しに黒く映っていた瞳は青く染まっていた。

「パレット、その目は」

 スイリュウが目ざとく気づく。

「あ、やば。いや、まぁいいか」

 一瞬慌てたがパレットは思い直り冷静になる。

「私の目はちょっと特殊でね、周囲の魔力によって色を変えるの。今青いのは多分スイリュウと過ごす事が多いからだね」

「なるほど、普段は黒のコンタクトレンズで隠していたんだね、その眼鏡も専用の細工がしてあるのか」

「そんな感じ。ちなみに髪の毛もよ。専用の黒染めをしてるけど、きっと真っ青な髪色になってると思う」

 パレットは自分の髪の毛の束を握る。髪束は真っ黒に染まっていた。

「苦労してるんだね」

「そう言って貰えると助かるわ。

 人の魔力で色が変わると、誰と直前にいたかとかバレちゃうからね。気分悪いったらありゃしない。この髪そのものも素材として何かしらに使えるって言うし、自衛よ自衛」

「その話は聞いたことある。ダウジングに使えたりするんだってね」

「そうそれ。めんどくさいにもほどがある。まぁそれでも昔は専用の髪染めも無かったし、今はずっとマシなんだけれどね。小さい頃はフードを深く被ってたよ」

「大変だったんだね」

 トウメイほどでは無いにせよ、パレットも不便な体質を抱えていたことにスイリュウは同情心を抱く。

「まぁね。あ、でも。お母さんと出かけた先で私の髪を綺麗だって言ってくれた人がいたのは良い思い出かな。撫でられた手の感触が不思議な感じでね、それもあって覚えてる。その時もこんな青色だった気がする。もしかして、本人?」

 当時の事を思い出しながら、同じ色に自分を染めるスイリュウを見つめ、パレットが訊ねる。

「そんな訳ないでしょ。パレットがお母さんと出回っていたのは10年近く前でしょ?その頃はまだ義手じゃなかったよ」

「うーん、そっかぁ。試しに撫でてみる?」

 スイリュウにすり寄るように身体を寄せて、頭を近づけてくる。

「はいはい。からかわないの」

「ちぇーじゃあさ、私の髪、キレイ?」

「もちろん。まぁ黒染めされているから向こうの青色は見えないけれどね」

「それもそうか。でもまぁ喜んでおこ。褒められてからこの青色が好きになったんだけれど、誰といてもどこに行ってもこの色にはならなかったから、久しぶりに見れて嬉しかったよ」

 パレットは眼鏡を外して自分の目を指さしながらスイリュウと目を合わせた。

「いい思い出を思い出せたなら良かった。お礼に僕へのからかいも減らしてくれると嬉しいけど」

「最近は減ったでしょ」

「そういえばそうだ。どうして?」

「まぁ、やる必要も無くなったからかな。ポッと出の不審者がトウメイを誑かそうとしてるんじゃないかと疑ってちょっかい出してただけだし」

「その動機に僕は疑い持ってるよ……。きっかけはそうでも途中から面白がってたんじゃないか?」

「否定はできない」

 ほんの少しにやけ顔でパレットは答える。

「まったく。まぁ、不審者じゃない認定された事を喜んでおこう」

 スイリュウは苦笑してパレットに言った。


「それはそうと、なんで机で寝てたの?」

 パレットは朝食の支度を再開しながらスイリュウに訊ねる。

「帰るのをめんどくさがった人に寝床を譲ってね」

 そう良いながらスイリュウは階段の方に目をやる。

「あぁ、トウメイか。しつこかったでしょ?」

「眠気が限界だったようで、そこまでじゃなかったよ」

「それは良かった。姉がご迷惑をおかけしたようで」

「ほんとにね。君がいないのに勝手に旅に着いて行く約束まで取り付けてきたよ」

「は?……あぁ~。やらかしたか。受け入れてくれてありがとう」

「二人の師に会えるまでだけどね」

「ずっとはいてくれないんだ」

「いないよ」

「そっか」

「もっと食い下がるかと思った」

「何それ、自分に自信持ちすぎじゃない?」

 パレットが口を尖らす。

「トウメイには命を救った責任を取れとまで言われたからさ、お姉ちゃん子のパレットがあっさり引き下がるとは思わなかっただけだよ」

「な、何それ!もう、この話はおしまい。トウメイ起こすから先に食べてて!」

 少しだけ声を荒げて返答する。

 トントントンと階段をのぼる後ろ姿を目で追うと、心なしか耳が赤くなっていた。


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