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12話:トウメイは言質を取りたい

 街をパレットの魔法が彩った後。

 トウメイとパレットは街の人にもみくちゃにされ、遅れて降りてきたスイリュウも、結界の指導を受けていた魔法使い達に囲まれていた。

 その後は広場で大宴会が行われた。トウメイとパレットは両親譲りの酒豪のようで、数時間後には死屍累々の潰れた大人達が広場に積まれていた。

 スイリュウは早々に退散し、自室に籠っていた。

 コンコン、とスイリュウの部屋がノックされる。

「まだ、起きていますか?」

 トウメイの声だ。

「起きているよ」

 スイリュウは立ち上がりドアを開ける。

「ご一緒しませんか?」

 トウメイがグラスと酒瓶を持ってにっこりと笑っていた。

「まだ飲むのか君は……」

 トウメイがパレットの家にいる事に不思議な感覚を覚えながら、呆れ気味にスイリュウが言う。街の喧騒は部屋からも聞こえていた。主に潰れて介抱される街の人々の「あの双子はやばい」という声だ。

「魔力が毒素を分解する、みたいな事ですかね。母もたくさん飲めたらしいです」

 あはは、と照れ笑いをしながらトウメイが返す。普段よりも上気した頬に、少なからず酔っている事が確認できる。

「酒は飲めないけれど、それで良いなら」

「もちろんです、それにこれは元々私の分ですよ?さぁ行きましょう」

 トウメイはパレットとの共用スペースまで降りて行った。

「えぇ……」

 呆れを通り越して呆気に取られたスイリュウは少しの間動けなかった。


「それでは改めまして、乾杯」

「乾杯」

 チン、とグラスが鳴る。

 トウメイは先ほどの酒を、スイリュウは炭酸飲料を口に流し込む。

「そういえばパレットは?」

「んー?気になりますかぁ?いつも一緒ですもんね」

 ジトっと見つめながらも口元はニヤニヤとさせてトウメイが絡む。

 あぁ、双子だなぁとスイリュウは思った。

「悪酔いしすぎでは?一緒にここに戻ったのかと思っただけだよ」

「酔ってませんよぉ。今はパレットの部屋で寝かせてます」

「それは良かった。ってどうして睨んでいるのかな?」

「パレットの事ばっかり気にかけてるなぁって思いまして。私には言えない秘密も共有しているみたいですし?」

「僕の過去についての事なら事故みたいなものだから……。実の姉にも言いふらさない子で良かったと思ってるよ」

「まぁ、聞きましたけどね」

 グラスにおかわりを注ぎながらサラッとトウメイが暴露する。

「あー、さっきのは無しで」

 あまりにも堂々としたリークにスイリュウは思わず苦笑いする。

「ダメです。パレットが良い子なのは間違い無いので」

「それはわかってるよ」

「じゃあ、パレットが私に話してくれた理由もわかりますよね?」

 ジリっとトウメイがにじり寄る。透き通った髪がスイリュウにかかろうとしている。

 スイリュウはトウメイを見つめ返すが無言を貫く。

「はぁ、まぁ今日は祝いの席なのでまた今度にしましょう。私は私で二人きりでお話できるこの時間を楽しみたいですし」

 ため息をつきながらトウメイはスッと身体を引いてイスに座りなおす。

「そうしてくれると助かる」

「こうやって二人きりでしっかり話すのは出会った日以来ですね」

「そうだね、随分長居したよ」

「それは大変遅くなりました」

 冗談交じりに机の上に手をついて頭を下げる。

「いや、トウメイは僕の予想より遥かに早く体質の克服をしたよ。単に同じ場所にこんなに留まるのも久しぶりだな、と思っただけ」

「そう言われると少し気恥しいです。改めて、本当にありがとうございました。私の中の呪いとも言える体質の克服だけでなく、パレットとよりわかり合う事もできました」

 深々と頭を下げる。今度は冗談混じりじゃない。

「何度も言うけれど、できると思ったから手を差し伸べただけだよ。やる事も無かったし」

「それでもです。また物語に触れる喜びを、待つ焦れったさを抱く事ができるのは師匠のおかげです」

「続編があるって知ってすごい食いつきだったもんね」

「それは……忘れてください」

 トウメイの紅潮した頬がさらに赤くなったように見えた。


「この後はどうするつもりですか?」

 さらに夜が更けて頭を少し揺らしているトウメイが訊ねる。

「もうしばらくしたらここを出るつもりだよ。トウメイの魔力を結界として使う用意もあるし」

「そうでしたね。その後はどちらへ?」

「考え中かな。こういう時一人だと気楽に動けて良いんだよね」

「あの、それなら一つ提案しても良いですか?」

「どうぞ」

「私とパレットも旅に連れて行ってくれませんか?」

 沈黙が流れる。

「ずいぶん酔っているようだし、もうお開きにしようか」

「酔っていますがお酒の勢いではありません!まだ私たちの師匠でいて欲しいんです」

「もしこの先魔法使いとして活躍したいのなら、別の人を師事した方が良い。二人とも才能があるのだから、それぞれの適正にあった人の下で学んだ方が良い」

「私たちに魔法の素養があるのは、他ならぬ師匠の言う事ですから自信を持って認めましょう。ですが、私たちには師のアテがありません。パレットが魔法を習おうとしていた人達との繋がりも無くなっています。

 だから、師匠の旅に着いて行くのはダメですか?」

 スイリュウはジッとトウメイを見て、ため息をつく。

「旅の中で新たな師になってくれる人を見つけるまで面倒を見ろ、と言うことだね?」

「はい、私の命を勝手に救ったんですからそれくらいの責任は取ってくださいね」

 ニコっとトウメイは笑いかける。

 言いがかりも甚だしいが、救うだけ救ってそのままにするのも後味が悪い、とスイリュウは思った。

「わかった。旅支度が済んだら僕が学んだ場所に連れて行くよ。きっと良い師が見つかる」

「約束ですよ?」

「はいはい。今度こそお開きにしましょう」

 スイリュウは立ち上がり、机の上を片し出す。


 片付けが終わって、スイリュウは自室への階段を上る。

 なぜかトウメイも着いてくる。

「パレットの部屋に入らないのかい?」

「あくまであそこはパレットの私室ですから。双子だからってプライベートが無い訳じゃないですよ?」

「それもそうか。でもこの先は僕の借りている部屋しか無いんだけれど」

「えぇ知っていますよ」

「まだ話がある?」

「いいえ、もう寝る時間ですので、ご一緒しようかなぁと思いまして」

「自分の家に帰りなさい」

 スイリュウは一滴も酒を飲んでいないのに頭痛を感じる。

「こんな夜遅くに世間知らずの女の子をほっぽりだすんですか?」

「図々しいなぁ。街の人は皆君らが潰したんだから、酒の勢いで良からぬことを企む人もいないでしょ」

「む、そんな言い方しなくていいじゃないですか。これから一緒に旅に出たら、一緒に眠る事だったあるんですから、それが早まっただけですぅ」

「テントがあるからそんな事は起こさないよ」

「もーー。じゃあ下で寝てます!帰るのめんどくさいです」

「結局めんどくさいだけか……。わかったよ。僕が下で寝るから、トウメイは部屋のベッドを使ってくれ」

「それは申し訳ないですし一緒に寝ましょうよぉ」

 ベッド使用の許可が出たのでグイグイとスイリュウを部屋に押し込む。

「いいから寝なさい!」

 トウメイにこつんとゲンコツをおろす。

「わかりました。じゃあ楽な格好になりますね」

 おもむろに衣服を緩め始めるトウメイに慌ててスイリュウは部屋を出た。

 パレットも酔って絡まれたら大変な事になっていたなと、スイリュウは胸をなでおろした。


 共有スペースのテーブルでスイリュウは便箋にペンを走らせる。

 相手は魔法学校で教鞭を取っている旧友だ。

 数年ぶりの便りは元気の便りではなくトウメイ達の為の紹介状だ。

 旧友には電子メールで連絡を入れている。この紹介状はスイリュウがいなくともトウメイ達が旧友の世話になるための保険だ。当然魔法的な署名もついている。

 紹介状の用意が終わった途端、一日の疲労が顔を出してきた。

 その疲労感に身を任せてスイリュウは机に突っ伏して眠りに入った。


 一方、トウメイはスイリュウの部屋で頭を抱えていた。

 酒の勢いを装って無礼を重ねた事に一人反省会を開催している。

 トウメイは街の人を潰した後にさらに飲んでもまったく酔っていなかった。

「や、やりすぎちゃったよ~。どうしよう……。明日気まずいよう。

 しかも同衾を要求するなんて、そんなの痴女だよ~」

 思い返して身体がカァっと熱くなるのを感じる。

 別に煮え切らないパレットにしびれをきらして抜け駆けしようと思ったわけでもなければ、師匠が妹を泣かせない人か見極める為にちょっかいをかけたわけでもない。

 本当に帰るのがめんどくさかったのだ。

 他人の家から自分の家へ帰る事の億劫さを初めて実感していた。

「私が良く思われないならまだしも、パレットが告げ口したって思われちゃったのは本当に最悪だなぁ……」

 紅潮した頬が冷えていくように、今度は他人を巻き込んだ失態を思い出し、心がずぅんと重くなるのを感じる。

 パレットが秘密を守れない女の子だと思われて欲しくなかった。

「あの感じなら師匠は気にしてなさそうだけれど」

 それでもトウメイは自分が許せなかった。

「はぁーあ」ため息をつきながらベッドに腰かけ、横になる。

 ぐるぐるとネガティブな想像が巡るが、ベッドに身体が沈み込むとあっという間に眠りについてしまった。


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