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10話:パレットの照れ隠し

 姉妹喧嘩の翌日は水嵐。

 パレットとトウメイは姉妹水入らずの夜を過ごした。

 スイリュウは止水(しすい)を作りに行くつもりだが、お目付け役のパレットが帰ってこないのでトウメイの家に向かおうか考えている。

 夜通し話したのならまだ寝かせたい気持ちもあるが、スイリュウとしては止水(しすい)をまだ用意しておきたかった。

 何より寝起きの可能性がある女性と顔を合わせるのはしのびないという考えだった。

 結局正午まで時間を潰してから連絡を入れることにした。


 結論から言うとパレットはとっくに起きており、トウメイは熟睡していた。

 早々にパレットは眠りについたのだが、トウメイの方は久しぶりの外出で潜在的に興奮していたようでまったく寝つけなかったらしい。

「律儀だなぁ。今さらお目付け役も必要無いでしょ。少ししたら向かうから先に外で作業していていいわよ」とはパレットの言。横にいる姉を起こしてから向かうらしい。


「お疲れ様。まだやってる?」

 パレットがやってきたのは作業を始めて1時間後だった。

「やってるよ。トウメイが起きないならそのまま付き合っていても良かったのに」

 パレットこそ律儀だなぁ、と言外にこめてスイリュウが返す。

「いやぁ~まぁ、ね。一応感謝はしておかないとなと思ってね。トウメイに聞かれるのはちょっと気恥しいし?あ、あと奢ってもらわないといけないし?」

 照れ隠しに昨夜のやり取りを引っ張り出す。

「今日の帰りに良い食事でも買って帰るかい?トウメイへのお土産にもなるし」

 スイリュウは照れ隠しに乗っかる。

「それも良いけど、さ。魔法道具の店とかどうかなぁって思って」

 頭をかきながらパレットは提案する。

 魔法が通用しないこの街にも魔法道具の店はある。

 魔力の籠った道具や、魔力を通して起動する道具など様々だ。無論、値が張るものもたくさんある。

「……別に良いけど、そこまで怒ってたのか?」

 奢らされる額に身震いしながらスイリュウが訊ねる。

「違う違う、とんでもないもの吹っかけるつもりはないって。ただ、ちょっとしたお守りが欲しくてね」

「そういうのは貰う相手は選んだ方が良いのでは?」

 だからスイリュウは失せ物の食材を最初に提案した。

「選んでるよ」

「え?」

「何でもない!」

 プイっとそっぽを向くパレット。

「わかったよ、帰りに店に行こう」

「……トウメイの分も奢ってね」

 顔は背けたまま姉の分も要求した。


「それで良かったのか?お守りには見えないけど」

 魔法道具の店を出て、スイリュウが訊ねる。

 パレットの手には筆が握られている。

「いいのいいの。一生残るようなモノだとアンタの気が引けちゃうでしょう?消耗品として大事に使わせてもらいます」

 おどけたように丁寧なことば遣いでパレットが返す。

「なら良いけど。それならトウメイのプレゼントも物持ち悪いモノにすれば良かったな」

 スイリュウのポケットにはトウメイに渡す道具が入っている。

「トウメイにはそれで良いのよ。大事な師匠の贈り物がすぐダメになってしまうものだったら、気負って使わないわよ、あの子。それに、あの子の本領にその杖がちゃんと耐えるとも限らないでしょう」

 トウメイには杖を買っていた。

 トウメイとパレットのわだかまりも解け、次の機会には間違いなくトウメイの呪いが解ける。それを免許皆伝として杖を渡すつもりだ。

「ねぇ、もうちょっと散歩しない?」

 貰った筆をクルクル回してパレットが声をかける。

「別に良いけど」

「とっておきの場所があるの」


「立派な桜だな」

 スイリュウは声を漏らす。

「良いでしょ。おばあちゃんが生まれた時に植えられたんだって。よくもまぁこんな嵐の中苗木を持ってきたものだよ」

 パレットとスイリュウは街の外れにある広場に足を運んでいた。

「まぁ、それは良いから。本命はこっち。あ、下向いててね」

 スイリュウの腕を握ってグイグイとパレットが進む。その先には小高い丘があった。

「はい、もう顔上げていいよ」

 パレットの声に応じてスイリュウが顔をあげる。

「うわ」

 スイリュウの目に一面の青い花が映った。

「どう?」

「すごいよ。ここから北にも同じ花の群生があるらしいけれど、それに負けないくらいに綺麗で圧倒される」

「ここはね、トウメイのための場所なの」

「トウメイのため?」

 パレットはこくりと頷く。

「いつかトウメイに子供が出来て、ほんの少しでも外に出られるなら、素敵な景色を見せたいと思って私が作ったの。でも、きっとこれからは必要無くなるからトウメイに観てもらう前にスイリュウに感想を聞きたくてね」

「文句なしに素晴らしいと思うよ。きっと喜ぶ」

「そっか。そっか。良かった」

 くるりとパレットがスイリュウの方を向く。

「あのね、これでも感謝してるんだよ。照れ隠し、ってわけじゃないけどさ。本当に感謝してる。だからさ、ありがとう!」

 目と目が合う。

「何度も言うけど大したことじゃないよ。できると思ったから声をかけた。それだけ」

 スイリュウもまたくるりと目を逸らし応える。

「トウメイの問題が解決したらどうするつもりなの?」

「また世界をウロウロするかな」

「ここにはいられないの?」

「名残惜しくはあるけどね」

「まだ居て欲しいって言ったら、イヤ?」

 すがるような声にならないように、パレットは意識して言葉を紡ぐ。

「理由によるかな」

「アンタが私達を救おうとしているように、アンタのその呪いを私たちに解かせてほしい」

 パレットは空気が張り詰めるのを感じる。わかっていることだった。それでも伝えたかった。

「夢雲でずいぶんと僕の呪いと親しくなったようだね。どこまで聞いたの?」

「私達ならその呪いを解ける手段がある、というところまで」

「そうか。何がしたいのやら」

「で、どうなの?」

 ごくりと唾を飲むのを感じる。緊張している。

「頭のすみに入れておくよ。まずは君達の事の方が大事だからね」

「わかった。今はそれで良い。でも覚えていて。私もトウメイもアンタを一人にする気はないから」


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