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9話:スイリュウは企む

 時は遡って……

「こういう時は遠慮が無いのね」

「気にかけすぎても気味悪いでしょ。話す気があれば聞くし無ければ聞かない。僕ができるのはそれだけだよ」

 ポケットに手を突っ込みながらスイリュウは返す。

 スイリュウはポケットの中の携帯電話を操作し、トウメイに電話をかけた。

 夢雲で見た夢がパレットの心の障壁になっている事にスイリュウは気づいていた。どこかで本心の吐露と発散、そしてトウメイとの相互理解が必要だと考えていた。

 その為にスイリュウは双子の父であるブルを始めとした住人達に、トウメイの訓練日に短時間の外出許可を求めた。

 結界が残っているからだ。

 難色を示したブル達だが、元々トウメイのような人が孤独にならないように作られた街なのだから、トウメイの為に壊れるなら構わないと許可を出した。

 そこからはパレットとの我慢比べだった。事情を知っているトウメイは大好きな妹と分かち合いたい反面、ぶつかりたくないとも思っていた。


 時は戻って……

「どうしているの?」

「今日はまだ師匠の結界が残ってるから、連絡もらって飛び出してきたの」

「なっ、はーー?全部聞いてたってこと?信じられない!!ずっと隠してきたのに!絶対に漏らさないつもりだったのに!!!ふざけないで!」

 パレットがスイリュウを睨む。

「ふざけてるのはパレットだよ!私はね、お母さんがいる頃から本も大好きだったの!二人がお出かけしてきて買ってきた本が楽しみで仕方なかったよ」

 トウメイはパレットの両頬を両手でつかみこちらに顔を向けさせる。

「外で遊ぶのも大好きだった!それはパレットを独り占めできたから!そりゃあ、お母さんと外に行きたい時もあったし、パレットとお父さんも一緒に四人で旅行に行きたかった時だっとあるよ。でも私不幸じゃないよ。パレットがいてくれたんだから」

 至近距離でまくし立てる姉を見つめ言葉を紡ごうとしてもうまくいかない。

「それにね、この力があったから夢雲の時にパレットを助けられたんだよ。私、この力があって良かったって心から思う。呪いかもしれないけれど、大事な人を守れる私になれたんだよ」

 ニッコリとトウメイは笑う。

「そっかぁ」敵わないなと言外に零しながらパレットも笑う。

「私たち、毎日顔を合わせているのに信じられないくらい遠回りをしていたみたい」

 トウメイがパレットの手を握る。

「私もおんなじ気分。だから、今日は一緒にいてもいい?」

 パレットがそう訊ねると、トウメイはまたにこりと笑いパレットの手を引いた。

 そのままトウメイの家まで引き返すところをスイリュウはホッとしながら見送った。

「スイリュ~~ウ!!!ありがとーーー!!!でも後で何かは奢れーーーー!」

 思い出したように振り向いたパレットがスイリュウに向かって叫ぶ。

 スイリュウは手を振りながらパレットの家へ帰った。


「ねぇパレット」

 来た道を戻るだけの帰り道、トウメイは語りかける。

「なに?」

「師匠に愛されてるね」

 唐突な言葉にパレットは吹き出す。

「な、どういうこと?」

「パレットのためにこんなに大がかりに動いてくれたんだから、愛されているなぁって」

「なんて解像度の低いコメント……。トウメイとの蟠りを解消する手段としてあの時見た夢からヒントを得て行動しただけでしょ。デリカシーも何もあったもんじゃない」

「でも、奢ってもらうだけで手打ちにするくらいには心は許してるんでしょ?」

 そうツッコむトウメイにパレットは顔を少ししかめる。

「まぁ、私の中のモヤを晴らしてくれたわけだし。でも私が悪く思ってない事とアイツがどう思ってるかは関係なくない?」

「そうかなぁ、悪いとは思っていなさそうだけれど」

 そうトウメイがパレットの都合の悪い方向に妄想を進めようとしていると、

「悪いとは思っていないかもしれない。けれど少なくとも、好意は持ってないわよアイツは」

 険しい顔をしてパレットがそう言い放った。

 トウメイはその表情と言葉に驚くも、すぐにハッとする。

「パレット、師匠の夢の中で何を見たの」

「スイリュウの腕が無くなったきっかけとか、一人で魔法を使える理由とか」

 表情を崩さずパレットはスイリュウの秘密を知った事を明かす。

「私は知らない方が良いと思う?」

 その問いにパレットはうつむき考え込む。

 しばらくしてパレットは顔をあげ、

「いや、知ってほしい。それで、スイリュウを一緒に助けたい」

 とトウメイに答えた。瞳には決意が燃えていた。

 その言葉と瞳にトウメイは目を細める。

「好きなんだね、師匠のこと」

 トウメイがそう告げると、パレットの瞳がくらりと同様に揺れる。

「……悪くは思ってない」

 絞り出したのは先ほどと同じ返答だった。

「パレットは悪く思わない程度の人間のために動くの?」

 トウメイが少し意地悪く食い下がる。確信ができているからだ。

「トウメイを救ってくれる人なんだから、それぐらいはするよ」

「まぁ今回はそれで良いでしょう。本当は好きって認めるまで助けないって粘るつもりだったけど」

 パレットがギロリと睨むが意に介さずトウメイは続ける。

「師匠を助ける理由が私にはあって、そのための情報を愛しの妹が持っている。私は師匠のために妹から強引に師匠の秘密を知る、という事にしましょう」

「なんて回りくどい」

「私は好きな人にお節介をしたいと認めてくれたらすぐにでも話を聞くつもりだったけどなぁ。素直じゃない妹のために私が恩返しをする事にするのでした」

 不機嫌そうなパレットを見て優しく笑い、さらに続ける。

「今日、私がパレットにぶつかろうって思えたのは、パレットの事が大好きだったからだよ。大好きだから嫌われるかもしれないって思っても勇気が持てた。パレットは大好きじゃない人に最後までお節介を通せる?」

「ごめん」

「いいってこと。私は私のために師匠を救いたい。そう思っているのは本当。だから、帰ったら師匠の事、教えてね」

「うん」

「そして、もし決意ができたなら、私たち二人分の勇気で最後まで師匠にぶつかろう」

 トウメイは繋いでいたパレットの手をギュッと握りしめた。

「なんか初めてトウメイの事お姉ちゃんって思ったかも」

「ようやく気付いたか」

 張り詰めた気持ちをほぐすように、家に帰りつくまでは他愛のない会話を重ねた。


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