第十五話:二十年ぶりの収穫祭
若木を植えたあの日から、季節が一つ巡った。
私と辺境伯様、そして城の者たちが一丸となって作り上げた、城壁のそばの谷に広がる新しい畑。そこは今、信じられないほどの緑で覆い尽くされていた。
私が魔法で温めた土壌と、ルプスが寄り添ってくれた温もりの中で、古の種は見事に復活を遂げたのだ。寒さに強い麦の穂が風に揺れ、カブやイモがずっしりと土の下で育ち、色とりどりの薬草が力強い香りを放っている。
そして今日、私たちは、その最初の大きな収穫の日を迎えた。
ヘルガをはじめとする城の者たちだけでなく、噂を聞きつけた城下の町人たちまで、誰もが半信半疑で、けれど、祈るような気持ちで畑に集まっていた。
「すごい……、本当に、作物が育っている……」
「おお、神よ……」
収穫が始まると、そのどよめきは、やがて歓声へと変わった。
次々と運び出される、瑞々しい野菜やずっしりと重い麦の袋。二十年もの間、呪いと貧しさに耐え忍んできた人々の目には、涙が光っていた。
その光景を、城壁の上から、ゼオン様はじっと見つめていた。
やがて彼は、城のすべての者たちに聞こえるように、朗々と宣言した。
「皆、聞け! 今宵、我々は祝杯をあげる! このアイスラー辺境伯領において、二十年ぶりとなる『収穫祭』の開催を、ここに宣言する!」
その言葉に、民衆は、この日一番の、地鳴りのような大歓声で応えた。
城と町は、祭りの準備で活気に満ち溢れた。古い楽器が倉から持ち出され、広場には大きな焚き火が用意される。私は厨房に立ち、収穫したての野菜を使った、温かいシチューや香ばしい焼き料理の作り方を、城の料理人たちに伝授した。厨房中に満ちる、忘れていた豊かな料理の匂い。誰もが笑顔だった。
日が落ち、空に星が瞬き始めると、祭りが始まった。
焚き火の周りには、たくさんの人々が集い、酌み交わし、笑い合っている。テーブルには、私が考案した料理がずらりと並び、人々は、まるで夢でも見ているかのように、その恵みを味わっていた。
広場の隅では、健康を取り戻したアンナが、友達と元気に駆け回っている。その姿を目にしただけで、私のこれまでの苦労は、すべて報われた気がした。
喧騒から少しだけ離れ、一人、夜空を見上げていると、隣に、静かな気配が立った。ゼオン様だった。
「……見てみろ。私の民が、笑っている。このような光景は、私が子供の頃に見て以来だ」
彼の声は、焚き火の暖かさに溶けて、とても穏やかに聞こえた。
「素晴らしいお祭りですわ。辺境伯様が、皆に祝う理由を与えてくださったのです」
「いや」彼は、私に向き直ると、きっぱりと首を振った。「これは、お前の功績だ、セラフィナ」
彼は、私の名前を呼んだ。そして、その蒼い瞳は、今までに見たことがないほど、優しく、そして、熱を帯びていた。
「お前が、この凍てついた土地に、春を連れてきてくれた」
その言葉は、どんな美辞麗句よりも、私の心を強く揺さぶった。
彼が、そっと私の頬に触れる。いつもは手袋に覆われているはずの、その素肌。信じられないほどの温かさが、彼の指先から、私に伝わってきた。
呪いが、また少し、和らいでいる。
遠くで人々の笑い声と、素朴な音楽が響いている。
王都の脅威が完全に去ったわけではない。けれど、今宵だけは。
この温かな光の中で、生まれ変わった土地の祝福を、隣に立つこの人と、分かち合っていたい。
私は、彼の手に、自らの手をそっと重ねた。それは、二人で掴んだ、確かな未来の温かさだった。




