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【書籍化】鬼と姫君~平安異形絵巻~  作者: 狭山ひびき


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死の真相 2

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 どのくらいそうしていただろうか。

 泣き腫らした目を冷やすために、角盥と手布を命婦が持って来てくれたとき、その後ろから権大納言――道長伯父が姿を現した。


「姫宮」


 服は着替えているけれど目が腫れているので、綾女はまだ帳台の中にいた。

 道長は、伯父と姪の関係の綾女を「姫宮」と呼ぶ。内親王として宮中で暮らしているのだから当然と言えば当然だが、父がいなくなってしまったこともあり、いつもは気にならないその呼び方に距離を感じた。

 命婦が蹴とばした獅子狛犬を元の位置に戻し、きっちりと帳を閉めた中にいた綾女は、道長に話しかけられてハッとした。


「伯父様……お父様は……」

「納棺の準備をしている。それが終わったら会わせてあげられるよ。葬儀は二日後になる。……宮様の生前のご希望の通り、火葬となるはずだ。お骨は高野に納められる」

「いやよ、高野なんて!」


 綾女は思わず悲鳴を上げた。

 そんな遠いところに。しかも、女人禁制の高野に骨を持って行かれたら、綾女が会いに行けないではないか。


「姫宮。……綾女、それが、宮様の希望だ」


 綾女と、呼び方を改めてくれたことに、少しホッとする。

 父を失った綾女には、縋れるものが非常に少ない。道長がまだ、綾女を切り捨てていないと、そう感じた。だからこそ甘えが出る。


「でも! そんなことをすればわたしが会えなくなるわ‼ お父様に会えなくなる‼」

「宮様は綾女が大人になったら、出家するとおっしゃられていた。それゆえの希望だ。最後の希望くらい叶えて差し上げたい」


 父の望みだと言われれば、綾女もそれ以上駄々をこねることはできなかった。

 きゅっと唇を嚙みしめてうつむけば、しばらく沈黙が落ちた後で、ぽそりと、「すまぬ」と伯父がつぶやいた。


 何に対する「すまぬ」なのか、この時の綾女はよくわからなかった。

 父の遺骨を高野に納骨することを指しているのか、どうなのか。


 顔を覆って泣き出した綾女に、伯父はもう一度「すまぬ」と呟いて去っていく。

 命婦が綾女の肩を抱いて、水で湿らせた手布で目元を覆ってくれた。


 ――伯父の言う「すまぬ」の意味がわかったのは、父の葬儀の日のことだった。





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