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BLACK SERPENT  作者: Mr. Bulldog
Season2
9/11

Chapter 8:嵐



午後二時。東京での連続爆破事件から一夜明けた月曜日。


雨が静かに窓を叩くなか、トム・カーティスは新たな潜伏先のアパートでテレビの前に座っていた。ジャケットを脱いだシャツの袖は血と煤でまだ汚れている。


「……死者は合計で87名。負傷者は300名を超えています。現場では依然として身元不明者の捜索が続いており――」


画面に映るのは、煙の残る渋谷のスクランブル交差点と、封鎖された新宿の地下道。警察官と消防隊が忙しなく動き、ヘリの音が上空を飛び交っていた。


トムは唇を噛みしめながら、腕に巻いた包帯を握る。昨日の現場。犯人を追い詰めながら、爆発を防げなかったことが頭を離れなかった。


「また……間に合わなかった」


傍らに座るローズも無言だった。肩に包帯を巻き、携帯端末を手にしていたが、何も言葉は出なかった。そこにスパイダーからの通信が入る。


「トム、警察が君の顔写真を公開した。今朝からニュースで繰り返し流れてる」


「……またか。完全にZの罠にかかってる」


「本気で君を犯人だと信じてる連中ばかりじゃないさ。俺たちが証拠を掴めば――」


「それまでに何人が犠牲になる?」


トムの声は低く沈んだ。ローズが静かに目を伏せる。


同じ頃、爆破現場の新宿駅地下道。


ジョニー・サンダース刑事は警察関係者に顔を利かせ、立ち入り制限を超えて現場の奥へと進んでいた。瓦礫と焦げたコンクリートの臭いが鼻をつく。爆心地にはまだ白いスモークが立ち込めていた。


「やっぱり来てたんですね」


後ろから声がした。振り返ると、若い女性刑事が立っていた。


「……君は確か、ICPOのカリンだったな」


「昨日の防犯映像。あなたも見たでしょう?」


カリンは手に持ったタブレットを見せた。そこには、爆破の直前、新宿の雑踏を駆け抜ける黒ずくめの男と、それを追いかけるトムの姿が映っていた。


「トムはあの男を追っていた……という見方もできる」


ジョニーは眉をひそめた。


「けど映像だけじゃ、彼が犯人なのか、ただ追跡してたのかは判断できません。だからこそ、私はあなたに同行したい」


「君は上に逆らっても構わないのか?」


「私が信じるのは“現場”と“真実”です」


その言葉に、ジョニーはかすかに笑みを浮かべた。


「気に入った。こっちも今、Zという組織と、その裏にいる存在を追ってるところだ」


彼は上着の内ポケットから古いファイルを取り出す。表紙には「Σ(シグマ)」のマーク。


「こいつは8年前、トムが壊滅させたテロ組織の資料だ。その幹部だった男が……今“ネイル”と呼ばれ、Zの中核にいる」


カリンは目を見開く。


「つまりZとΣは繋がっていると?」


「ああ。共通点が多すぎる」


ジョニーとカリンは互いに視線を交わし、次の手を探り始めていた。


その頃、ロシア北東部の凍てつく山岳地帯にある研究施設――代号《ノーザン・アークII》。


真っ白な壁と金属製のドアが並ぶ研究棟の奥で、ヴァイスは無言のままモニターを眺めていた。映っているのは東京の衛星映像。爆発が起きた瞬間の画面が繰り返される。


「NEO 02は予定通り、実行されました」


背後からグレース博士が静かに報告する。白衣のポケットには、新兵器“NEO 03”の設計図が覗いていた。


「次は……第三ウェーブか」


ヴァイスの声に、グレースは頷く。


「準備は進んでいます。新たなプロトタイプは安定性も飛躍的に向上。次の都市に向けて――」


その時、部屋の壁に備え付けられたモニターに接続が入った。スクリーンには、漆黒の仮面を被った男の姿が映し出される。


“ゼロ”――Zの最高指揮官。その声は電子変調され、性別すら判別できない。


「ヴァイス、グレース。Phase Sigmaの実験都市は決定した。次は……ヨーロッパだ」


「ヨーロッパ……どこですか?」


「正確な座標は後ほど送信する。だが、注意せよ。スネーク……トム・カーティスがまだ生きている」


ヴァイスの表情が微かに揺れる。


「あいつ、懲りないな…」


「甘く見るな。運命を動かす“鍵”は、往々にして消せぬ影だ。次は必ず始末しろ」


画面が切れる。


部屋に静寂が戻る。だがその空気は、嵐の前のような緊張に満ちていた。


「……ヴァイス、次の失敗は許されません」


グレースの言葉に、ヴァイスは静かに背を向けた。


「わかっている。俺は……必ず“選別”を完遂する」


その言葉には、かつて仲間を裏切った男の過去が滲んでいた。


嵐のような事件の翌日、世界はわずかに静かさを取り戻したかのように見えた。

だが、その影では新たな陰謀が着実に動き始めていた。

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