Chapter 6:錯綜
——金曜日、深川サイト付近。
トム・カーティスたちは、ネイルから渡された情報を元に緊急作戦を開始した。
「作戦は二段階に分ける。プランA、兵器の破壊——これはフォックスとスパイダーに。プランB、東京での犯行阻止は俺とローズが担当する」
アジトに緊張が走る。トムの指示に、各メンバーは無言で頷いた。
「時間がない。動くぞ」
——同日深夜、深川サイト。
変装したフォックスが研究所内に潜入。スパイダーの遠隔支援によるハッキングで、生物兵器『NEO 02』に関するファイルへのアクセスに成功。
「フォックス、侵入ルート異常なし。監視カメラを30秒止めた」
スパイダーの無線が耳元に響く。
「了解、今パスコード入力……アクセス完了。データを確認する」
フォックスは研究室の端末に接続し、ファイルを素早くダウンロードする。
「このフォルダだ。『NEO 02』……やはりPhase Sigmaの次段階だ」
「時間がない、あと20秒で再接続される」
スパイダーの声に、フォックスの手が速まる。
しかしその時、背後に人影。
「君、誰だ?」
白衣を纏ったグレース博士が立っていた。
「……しまった」
博士の目がフォックスの特殊サングラスに向けられる。赤いランプが点滅。
「変装が……バレた」
「フォックス、脱出ルートに戻れ! こっちでドアを開ける!」
スパイダーの声が焦りに変わる。
フォックスは即座に動き出す。机を倒し、煙幕を焚き、走る。
「くそ、警報が鳴った! ガードが向かってるぞ!」
施設内に赤色灯が点滅し、警備兵が殺到する。フォックスはサイドポーチから小型の閃光弾を投げ、前方を一瞬で眩ませる。
「あともう少し……出口まで——」
しかし角を曲がった先に、複数の兵士が銃を構えて待ち構えていた。
「動くな!」
フォックスは無念の表情で、両手を上げた。
——一方、アジト。
「日曜、午後2時……新宿と渋谷か」
トムがつぶやく。
「場所の指定は人混みの多さを意識してるわね」
ローズが頷いた。
犯行予定はこの週末の日曜午後2時。東京の二大都市で同時に『NEO 02』が起動されるという。
「当日、俺は新宿、ローズは渋谷を監視だ。だが……まずはフォックスを救い出す」
——土曜日、早朝。
トムは単独で研究施設への再潜入を試みる。
「変装は通じない。換気ダクトから侵入する」
施設のセキュリティは強化され、スパイダーの支援は使用不能。トムは一人で警備網をかいくぐる。
——研究施設内。
闇に紛れて進むトム。監視カメラの死角を縫い、静かに足を進める。警備兵とすれ違う瞬間、サイレンサー付きの拳銃で静かに無力化。
廊下の角で二人組の兵士と鉢合わせた瞬間、トムは床を滑るように滑り込み、脚を払って一人を転倒させ、もう一人の銃を肘で跳ね上げる。そのまま拳を叩き込み、二人とも沈黙させる。
「こっちは順調だ……」
トムは小声で独り言を呟き、さらに奥へと進む。
フォックスが閉じ込められている監禁室。電子ロックを開くと、そこには荒れた表情のフォックスがいた。
「遅かったじゃない」
「待たせた」
フォックスにロックピックを投げ渡し、自らは背後の足音に構える。
三人の警備兵が突入してくる。
トムは壁を蹴って跳躍、上から一人の首に肘を叩き込みながら、フォックスに叫ぶ。
「伏せろ!」
閃光弾を投げ、眩惑した隙に敵の武器を奪い、一人、また一人と倒していく。
「よし、行ける!」
フォックスと共に脱出ルートへ向かう。
「博士は?」「逃げた、奴らは先手を打ってた。兵器も東京に運ばれた」
トムは拳を握った。「急ぐぞ」
——同日、東京某所。
ネイルは淡々と部隊の編成を完了させていた。
「武器、現場配置完了。警備部隊、配置指示済み」
Zの幹部たちは、日曜の“実験”の成功に向け、全ての歯車を回していた。
ネイルの視線は、どこか遠くを見つめていた。
「来るんだな……スネーク」
——刑事ジョニー。
金曜日から調査を進めていたジョニーは、サミュエル・ケインという男に辿り着いた。
「……この顔……ネイル……?」
過去のデータベースを洗い出し、ジョニーは驚愕する。
8年前、壊滅したテロ組織“Σ”の幹部。
そのコードネームはネイル。
さらに、ニューヨークの爆破事件で使われた爆薬と、Σから押収されたものが酷似していることを知る。
「つまり……ZとΣは、つながっていたのか?」
調査を進めると、爆薬の製造元として『ノーザン・アーク研究所』の名が浮上。
——土曜日、跡地。
ジョニーが現地を訪れると、そこには何も残っていなかった。
「器具も、人の痕跡も……全部消されてる」
その静寂の中に、Zという組織の冷徹さがにじんでいた。
土曜日が暮れ、決戦の日曜が迫る中——東京という巨大都市が、音もなく危機に包まれていった。