Chapter 2:陰謀
――FBI非公式アジト・ニュージャージー州郊外
地下に設けられた仮設オペレーションルーム。マイク(スパイダー)の手元のモニターには、CIA内部記録への不正アクセスが並んでいた。
「見つけた。こいつが“ヴァイス”だった頃のファイルだ。コードネーム:ヴェクター・デルタ」
ザック(ベーカー)がうなずく。
「CIA内部でも、彼の記録は部分的に“黒塗り”されてる。極秘任務の痕跡すら残っていない。だが……この座標だけは消し忘れていた」
ザックが指差した座標は、**スウェーデンの兵器製造企業“ノーザン・アーク”**の旧研究所跡地を示していた。
「ヴァイスはこの企業と極秘契約を結んでいた。表向きは兵器研究のコンサルタント――裏では非合法兵器のテスト対象者の選定をしていた」
「実験台にされた市民……その資料はCIAにあったか?」
「ない。全部破棄されてる。でも、Zが持ってる可能性はある」
その夜。トムは一人、かつて逃げられた男を追って街の地下街へ向かっていた。フォックスのヴァイスへの変装により、男をおびき出すことに成功したのだ。
暗がりの地下通路。ジッポーを開閉する金属音が響く。
男は周囲を警戒しながら現れる。スーツを着た、背丈は平均よりやや高い、40前後と思われる顔にしては引き締まった体つき。
「……スネークか。お前が俺を呼び出したのか」
ネイルはトムに銃を向ける。だがそれと同時にトムの後ろに隠れていたローズがネイルに銃を向ける。
「お前に来てもらったのはこちらの質問に答えてもらうためだ。なぜ逃げた?」
「公で''スネーク''に会うのはリスクが高い。そうだろう?」
カチャン、カチャン、とジッポーを開閉しながらうつむく。
「……奴は“理想家”だった。少なくとも、最初はな」
男は、かつてZの兵器開発部門で監視業務をしているメンバーであった。
ネイルが語る――
ヴァイスは、CIA時代から“大いなる目的”という思想に傾倒し、その延長で非合法な兵器のテストを始めたこと。そして、その実験が制御不能になり、仲間の多くが犠牲になったこと。
「ヴァイスは、止まらなかった。“大いなる目的”のために“選別”が必要だと信じていた。」
「お前たちの言う、“大いなる目的”って何のことだ?」
「……話は終わりだ。答えはもう与えた。」
ネイルはそう言い残して足元に火薬をうちつける。
煙幕。ローズの発砲は遅すぎた。彼らの視界からネイルは消えた。
スパイダーが割り出したZの資金流入口――それは、ノーザン・アーク名義で作られた複数の“シェル企業”だった。
それらが資金を送っていた先、それは無名の中小企業。
「こいつは、“生物兵器”を作ろうとしている…?」
「違うな。より正確に言えば――**“人間の選別”に関わる何か”**だ」
ローズの声が低くなる。
接触後、ネイルはこう言い残す。
「あんたは今、巨大な扉の前に立ってる。けど、その扉の向こうにあるのは正義じゃない。見たこともない地獄だ」
「それでも俺は行く。仲間を殺したあいつを、止めなきゃいけない」
ネイルは小さなデータチップを手渡す。
「この中に、Zが次に動く“都市名”が入ってる。だが気をつけろ――お前は警察だけじゃない。“Zの内部”からも追われてる」
ザックがDNA解析を進める中、スパイダーが全画面アラートを叩く。
「トム――Zの活動ログに、新しいコードが追加された。“Phase Sigma”だ。翻訳すると……“選別フェーズ開始”」
選別――
その言葉の意味は、まだ誰にもわからなかった。