自己紹介
今月2回目の更新です。
「お前ら食材買って来い!」
そう宣告してから20分。当然のことながらあの二人が買いに行く事は無く、昼食用だった食材を使って簡単なパスタを作らされた。
「う~ん。リョウの手料理は何回食べても飽きないわ」
「おいしいです!わたし、こんなにおいしいパスタ初めて食べました!!」
「型に嵌まらない自由な料理。それが漁夜の持ち味だからね。画家が、同じ絵を二枚と描けないように、漁夜も同じ味の料理は二品と作れないんだよ」
口々に料理を誉め讃えてくれる三人。……浩二、それは遠回しにオレを馬鹿にしてないか?それに、
「どうしてキミまで食べてるんだよ!」
しかも姉貴の分を!
「え? 三人分並んでいたので……あわ!? もしかしてあれ、わたしの分じゃなかったんですか?」
「大丈夫。あれは間違いなくキミの分だったよ。リョーカ姉さんの分じゃなくてね。だろ、漁夜?」
すかさずフォローを入れる浩二。
違うけど!
違うけども!!
「あぁ、あれはキミのために作ったんだ。だから心配することは無いよ」
だって今にも泣き出しそうな顔でこっちを見てるんだ。姉貴の分だったなんて言えるわけ無いじゃないか。泣きたいのはこっちなのにさ……。
やりきれないこの思いは浩二にぶつけるとしよう。
「それより浩二。お前遠回しにオレのこと馬鹿にしただろ」
「まさか!」
浩二は訳がわからないといった顔で驚いた。
「ご飯を作ってくれた人に悪口を言うだなんて、そんな恩を仇で返すような真似をするはず無いじゃないか」
「じゃあさっきの、“オレの料理は毎回違う味だ”的な発言はどういう意味だったんだ?」
「あれはだね――」
と、オレと浩二が言い争いをしてい時、不意に薫がこう言った。
「ところでリョウ。いつになったらその子を紹介してくれるの?」
「あ、ああ。そうだったな」
浩二との言い争いを中断して、オレは薫の方に向き直る。
この二人については先程説明しているのだが、この二人はその事を知らないのだ。面倒だけどもう一度教えないといけない。
「えっと、オレの幼なじみの佐島浩二と宇崎薫だ」
「なによその適当な紹介は」
当然ながら抗議してくる薫。だって二回目なんだもん。適当にもなるさ。
「まあいいじゃない。何事も分かりやすいのが一番だよ」
いきり立つ薫を宥めるようにフォローを入れる浩二。
「という訳でよろしくね」
「何がという訳でよ。……まあいいわ、よろしくね」
にこやかな笑顔でそう告げる浩二に対し、薫は渋々といった感じでそう挨拶した。
「は、はい。よろしくお願いします」
少しびくびくしながらも返事をする少女。そんな彼女に薫が問いかける。
「それじゃあ、次はあんたの番ね。とっとと名乗りなさいな」「あ、はい。そうでした」
そう言って暫し黙り込む。きっと何と言って自己紹介するのか考えているんだろう。そこまで考えて初めて、彼女の名前を知らないことに気づいた。まあいいか。これから聞けるんだし。
そういえば、彼女はオレの名前を知ってたんだっけ。
「知らない相手の口から自分の名前が出てきたら、絶対に隙を見せるんじゃないよ」
とは姉貴の談。姉貴曰く、
『人生は情報戦だ。自分の持つ情報量が相手より少なかったら、勝つことなんてまず出来ない。もしそんな状況に陥ったらとっとと逃げるにこしたことはないね』
だそうだ。
今オレの置かれている状況がまさしくその状況なんだけど、別段命の危機は感じない。彼女が実はプロの殺し屋だとかマフィアのエージェントだったとかで無い限り、オレの命のに危機が訪れることは無いだろう。
そんな事を考えていると、考えがまとまったのか彼女が顔を上げたのが見えた。
「えっと……」
まとめたのはいいがどう切り出していいのかわからないようで、視線がオレ達の間でキョロキョロ落ち着き無く動いている。
「キミの名前は?」
気を利かせた浩二が催促すると、彼女は水を得た魚のような顔――つまり嬉しそうな顔で浩二にお礼を言うと、ようやく自己紹介を始めた。
「わたしの名前は三頭魅央と言います。二週間ほど前にこの町に来ました。わたしのことはミオと呼んで下さい」
そう言って言葉を切ったミオの目は、オレ達三人を同時に見つめていた。
それでは、半月後にまた^^ノシノシ