起床。そして調理場へ
二年目にしてようやく日付が変わりました。
眩しい。最初に感じたのは強烈な日差しだった。
カーテンなんて上品なものはかかっていないため、朝の光が窓から直接差し込んでくる。
もう朝か……。ちっとも眠った気がしないぜ。
熟睡時特有の寝不足感を感じつつムクリと体を起こす。
「お、起きたか。おはよ」
「ん、あぁ、おはよ」
不意を突くように投げかけられた挨拶もしっかり返答し、凝り固まった体を解すべく大きく伸びを……
「ってなんでここにいるんだよ!?」
即座に布団から飛び起き侵入者へと詰め寄る。我ながら寝起きとは思えない俊敏性だ。
「なんでって、眠れなかったからに決まってんじゃんか」
朝日にも負けない眩しい笑顔でそう言ってのける侵入者、もといミカミ。だからって他人の部屋に勝手に入るのは如何なものかと。
「……その喋り方はミサだな」
「お、もうあたし達を見分けられるようになったのか。流石だな」
「いやそれほどでも」
じゃなくて!
「眠れないからってなんで俺の部屋にいるんだよ」
「だってあの部屋、ガラクタばっかでつまんねーんだよ」
ガラクタとか言うな!
「ガラクタじゃねーよ。時期が来たら必ず分かる。あいつらの必要性がな!」
積み上げられた扇風機やヒーターに思いを馳せる。彼らが力強く稼動している姿を見れば、ミサも考えを改めるだろう。文明によって弱体化した現代人は、あいつらがいないと冬も越せないのだ。
「ふーん。そいつは楽しみだな。それよりリョーヤ、この漫画スゲー面白い! 続きは無いのか?」
そう言って手に持った本を投げて寄越すミサ。
「漫画本を投げるんじゃ無い」
何とかキャッチしてタイトルを見る。
「これの続きはもう出ないよ。この巻で最後だ」
あまり人気が出なくて打ち切りになったらしい。好きだっただけに悲しかったな。
「えー! どうにかならねーのかよー」
「無理言うな。そもそも俺が買いはじめた時には既に終わってたんだよ」
最新巻を入手しようと東奔西走した日々が懐かしい。結果はBAD ENDだったけど。
「なあなあ、他の本も読んでいーか?」
キラキラとした瞳で言われては是非も無い。
「あぁ。好きにしろ。ただし朝飯が出来るまでだからな」
「サンキュー!」
言うやいなや本棚に駆けていくミサ。まるで子供だな。タキシード野郎をボコボコにした時とはまったく違う一面に、オレはちょっとばかし驚いていた。
「どーれーにーしーよーおーかーな……」
マイナーなタイトルが並ぶ本棚の前で、ミサがお決まりの呪文を唱え始める。彼女の興味が逸れたのを確信し、オレはそそくさと着替えて部屋を出た。
さてと、朝食でも作ってきますか。