入浴。そして睡眠へ
カポーン
「ふぅ……」
ここは風呂場。おそらくどこの家庭にも設けられているであろうこの空間は、オレにとってのシンキングスペースだ。
なにか考え事をする場合、時間帯が夜ならば、オレは風呂場へと赴き、それ以外ならばトイレに立て篭もる。
トイレで考え事をしたら思ったよりはかどった。そういった経験、誰でも一度は有るのではないか。
注意すべきは、風呂場だと長時間浸かりすぎてのぼせてしまうこと。トイレだと姉貴にどやされてしまうことだ。
まあ今は姉貴寝てるし大丈夫だろう。……前に寝ぼけた姉貴が入って来た事があったのは秘密だ。
あの時は相当焦ったが、姉貴を刺激しないよう、完全に目を覚まされる前に静かに脱出することで事なきを得た。
「それにしても、今日は本当に色々あったなぁ……」
手早く身体を洗い終え、湯舟に肩まで浸かりつつ一人ごちる。
朝。ミカミと幼なじみ二人に手料理を振る舞い、起こしに行った姉貴の部屋でタキシード野郎と大立ち回り。
昼。機嫌の悪い姉貴にフルコースを振る舞い、みんなでミカミの事情聴取。
夜。カレーを作った後ミカミを部屋まで案内し、その時に彼女が多重人格だと発覚する。
こうして考えると、オレって今日料理しかしてないように見えるじゃないか。
「そういえばあいつら、ほんと何しに来たんだ?」
……じゃなくて!
「多重人格者って本当にいるんだなぁ」
そういうのはフィクションだけで充分だっての。
「それに……」
ミカミのやつ、たぶんまだ何か隠してる。いやまぁ、聞けば教えてくれるんだろうけどさ。
「まいっか」
ゆっくりと湯船から上がる。天井から落ちてきた水滴の冷たさに肩を震わせつつ脱衣所を目指す。
とりあえず今日はもう寝よう。ミカミから根掘り葉掘り聞き出す気力も体力も残っちゃいないしな。
脱衣所で体を拭き寝巻に着替え、フラフラと自室へ向かう。正直もう限界だ。
朝から酷使した体は立ってるのも辛い程に疲弊しているし、今日の出来事も未だに整理出来ていない。
姉貴の部屋を通り過ぎる。あの扉を向こうはまた朝のような事になってないかと心配になるが、きっと大丈夫だろう。
ミカミの部屋を通り過ぎる。中から何か物音がするが、きっと部屋を片付けてるんだろう。
戸締りを確認し自分の部屋に入る。すぐに寝るつもりなので部屋の電気は消したまま布団に倒れこむ。
寝ている間に脳が勝手に整理してくれる事に期待して、俺は意識を手放した。