君との出会いは物置部屋で?
「少し狭いけど、しばらくはこの部屋を使ってくれ」
カレーの具材を煮込んでる間にミカミを部屋まで案内することにした。彼女にあてがわれたのは、オレの部屋と姉貴の部屋に挟まれるように設けられた少々手狭な一室だ。
もともと倉庫として使われていたが、姉貴は不要な物は買わない主義なため、荷物はほとんど置いていない。実質空き部屋みたいなもんだ。
「うわぁ! この部屋、本当に私が使っても良いんですか!」
隣に立つミカミが弾んだ声でそう尋ねてきた。よほど嬉しいのか、瞳がキラキラと輝いてる。
「ああ。別にたいして使ってた訳じゃないし。なんだったら、そこら辺に置いてあるやつも使ってくれてかまわないから。まぁでも、今の時期だと使わない物ばかりだけどな」
そう言いながら、オレはヒーターとか電気カーペットとか、主に冬場に活躍する電化製品へと視線を送る。
物が少ないとはいえ倉庫は倉庫。室内の五分の一は家電で埋まっていた。
このアパートに転がり込んだのは今年の春だから、こいつらが活躍してるところはまだ見たことが無い。
左右の壁側に積まれてあるそれらは、一見無造作に置かれているように見える。がしかし、姉貴曰く、『色々と計算して置いてんの。勝手に動かすんじゃないよ』との事。
いやいやどう見てもテキトーに置いてるじゃん……とは口が裂けても言えない。
ここに来ると、毎度毎度ツッコミたいのを我慢するためにかなりの精神力を消費するんだよな……。だから今までできるだけ近付かないようにしてきたんだ。
え? 極論過ぎるって?
まあオレも、そう思ってはいるんだけど、《君子危ウキニ近寄ラズ》って言うじゃん。危ない橋は渡らないようにしてるんだよ。
それに……
「ありがとうございます!」
隣で目を輝かせているミカミの、彼女の向日葵のような笑顔が見れただけで良しとしよう。
十分にお釣りが来るぜ。
「じゃあそろそろ戻ろうか」
コンロの火を点けたまま長時間離れてるとロクなことがなことが無いからな。
一足先に部屋から出てミカミが出てくるのを待っていると、あることに思い当たった。
「そういやあいつ、荷物とかどうしてんのかな?」
よくよく考えてみると、公園で倒れてる(実際は寝てただけだが)ミカミを発見したとき、周囲には荷物らしき物は何も無かった……ような気がする。
勘当されて家を出てきたといっても、さすがに手ぶらって訳じゃ無かっただろうし。着替えとか、お金とか、何らかの荷物を持って家を出たはずだ。
もしもどこかに置いて(隠して)あるのなら、後で取りに行かないと。
「なあミカミ、お前自分の荷物とかどうしてるんだ?」
善は急げ。今のうちに本人に聞いておくべく室内を覗くと、いきなりミカミが駆け寄ってきた。
「ちょ、うわっ!?」
胸倉を掴まれたと思った次の瞬間、俺は部屋の中で押し倒されていた。
えっ、何、何なの!?
「……う…て…」
押し殺しつつも怒気を含んだ声でソイツは呟いた。
「どうして! お前はっ! なんにも聞いてこないんだよ!」
その瞳には動揺や戸惑いの色が伺えた。だけど、オレにはそんな所に気を向けてる余裕は無かった。
物凄い力で床に押し付けられ、呼吸もろくに出来ない状況で、必死に声を絞り出す。
「お前……誰だよ……」
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