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単刀直入



 姉貴の機嫌がまた悪くなる前に帰り着き、急いで昼食を作った。オレ的にはもうアウトだと覚悟していただけに、安堵感がハンパなかった。


「そ~いえば、あんた名前は?」


 姉貴が思い出したようにミカミに問い掛けたのは、三時のおやつを食べている時だった。


 食べてるのは三カップがセットになってるプリン。買い物に行った時、安かったので二つ買っておいた。現在の人数は五人だから一つ余る計算になる。これは駄賃として後でこっそり頂くつもりだ。


「漁夜って、たま~にあくどいよね」


 失礼な。ちゃっかりしてると言ってくれ。


「どっちも似たようなもんだけど……ま、そういう事にしておくよ」


 言うだけ言って視線をテレビへ向ける浩二。


 甘い物好きのこいつは、もうプリンを食べ終えていた。てか早えーよ。持って来てから一分と経ってないぞ。


「ちょっと漁夜聞いてんの?」


「えっ、あ、うん聞いてるよ。確か、なんで浩二はプリン食べるのが早いかだったよね?」


 ビシッ


「ひぐッ!?」


「私の言葉は一言一句聞き逃すな。脳みそに刻み込め」


「……はい」


 ちょっとした冗談が通じないどころか、デコピン一閃洗脳しにかかる姉貴に軽く恐怖した。


 額を抑えうずくまるオレに、さならなる追い打ちがかかる。


「で、その娘はいったいどこの誰なのか、しっかり説明してもらうわよ」


 詰め寄る姉貴。しかし今のオレに姉貴の問い詰めに答える余裕は無い。そのため質問に答えたのはオレで無く、ミカミでも無く、事の成り行きを面白そうに見ていた薫だった。


「この子は三頭美央。親に勘当されて行くアテの無い薄幸の美少女よ♪」


 その言い方なんか酷くないか?


「そんなこと無いよ~。ちゃんと褒めてるじゃない。美少女って」


「《薄幸の》美少女だろ! なんで余計なものを付つけたんだよ! 美少女だけで良いんだよ!」


 思わず反論してしまったオレに、ニヤリと笑いかける薫。


「な、なんだよ…」


「いやー、リョウはミーちゃん見たいな子が好みなんだなーと思って」


「んなっ!?」


 ななな何言ってんだ薫のやつ!?


「薫、悲しい!」


「なんでだよ! 違うって! それにどうして薫が悲しむんだよ!?」


 よよよ。わざとらしく床に崩れ落ちる薫。


 え? オレなんか不味いこと言った?



「「はぁ……」」



 どうしてそこで姉貴と浩二がため息をつくんですか!?


「わかってないな漁夜。ここまで鈍いなんて思ってもみなかったよ」


「我が弟ながら信じられん鈍感さだな」


 なんか飽きれられてるし!


「そ、そんなことより!」


 このままじゃ分が悪い。なんの分かわからないけど、早急に話題を変えなければいけない気がする。


「ね、姉ちゃん、ミカミの事が知りたかったんだろ?」


 多少強引でも構わない。大事なのはそう、話題を変えることなんだ。


「おお、そうだったそうだった」


 姉貴の口調がわざとらしいのはスルーで。つっこんだら何を言われることか…。


「それであんた…ミカミとかいったね。どうして家出なんかしたんだい?」


 顔色一つ変えずにとんでもないこと聞きやがった!


「なんだ漁夜、文句でもあるのかい?」


「…………(ブンブンブン)」


 命の危険を感じ即座に首を振ってなんでもない事をアピールする。内心ではどうしてわかったのかと首を傾げていたけれど。


 いや、最初はもっと当たり障りの無い質問から始まるものだと思ってたからさ。普通はそういうものじゃないの?


「実は、父に任されていた仕事でとんでもないミスを犯しまして……」


 あ、喋っちゃうんだ。まあいいけどね。


「ね~ね~、仕事ってどんな仕事してたの?」


「えっと…、見張り…です。その…飼ってる動物が逃げ出さないように」


 薫の質問に、少し困った顔をしつつも答えたミカミ。


「見張りね。失敗したってことは、その動物が逃げ出したってことかい?」


「はい」


「たったそれだけで勘当されるなんて、いったい何を飼ってたのかねぇ……」


 確かに。ペットが逃げたのなら探せばいいんだ。勘当だなんてどう考えても理不尽過ぎる。それともよっぽど大切な何かだったのだろうか。


「ごめんなさい。それはお教え出来ないんです」


 申し訳なさそうに頭を下げるミカミと、鋭い目付きで見つめる姉貴。姉貴の放つプレッシャーに、オレは海底にいるような息苦しさを感じていた。実際の海底がどうなのかは知らないが。


「……まあそりゃそうだわな」


 数秒後、溜め息混じりにようやく口を開いた姉貴。出てきたのは、諦めの言葉ともとれる言葉だった。


「!?」


 オレは耳を疑った。あの姉貴が自分から折れるなんて信じられない。今度耳鼻科に行こうと思わせるには十分な衝撃だった。


 衝撃を受けたのはどうやらオレだけじゃなかったようで、薫と浩二も目を見開いていたり、ポカンと口を開けていたりと表情で『信じられない!』とアピールしていた。


「なによあんた達」


「「「なんでもないです!!!」」」


 オレ達三人は揃って首を振りながら、全く同じタイミングで叫んでいた。




久方ぶりの更新です。投稿をはじめてずいぶん経ちますが、五話目からいまだに一日が終わっていない件……。

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