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つかの間の安息



 姉貴の機嫌がようやく治った頃にはもう昼になっていた。


「漁夜、とっとと昼メシ作ってきな」


 まだ食うのかよ……なんて口が裂けても言えないオレは、本日二度目の買い出しに出かける事になった。名無。


「玉子、牛乳、エリンギ、ニンジン、キャベツ、玉葱、大根……」


 メモを見ながら次々と商品をカゴに投げ入れるオレを、ミカミが不思議そうに眺めていた。


「どうかした?」


 もしかして、何か嫌いなものでもあったのかな?


「いえあの……そんなに買って大丈夫なのかな~と思いまして」


「あぁそんなことか」


 彼女はカゴいっぱいに商品を詰めるオレのお財布事情を心配してくれてるらしい。なんて優しい子なんだ。


 ミカミの優しさに涙しながらオレは彼女の疑問に答える。


「いま家にほとんど食料が無いから、ついでに買っておこうと思って。お金はほとぼりが冷めた頃に、必要経費として姉ちゃんに請求するのさ」


「そうだったのですか」


 納得顔のミカミを引き連れてスーパーを練り歩く。カゴに限界まで商品を乗せた結果、ビニール袋を四つ使う羽目になった。


「悪いんだけど、ビニール二袋持ってくれないか?」


「あ、はい。もともとそのつもりでついて来たのですし」


 くうぅ、なんて良い子なんだこの子は。姉貴や薫にもこれくらい相手を思いやる気持ちを持ってほしいよ。


 まぁ無理だろうけども。


 ミカミにビニール袋を二つ渡し(もちろん軽いやつ)て店を出る。そのまま家に向かい歩き始めてしばらくすると、四季湖が見えてきた。


 確かもう少し先に小さな公園があったような……。家までまだちょっとあるし、そこで一休みしよう。


「そういえば、ミカミは?」


 少し前まで隣を歩いてたはずだけど。振り返ると、遥か後方に両腕をダラリと下げトボトボと歩いているミカミの姿が目に入る。


 いつの間にあんなところに!


「ちよっと休憩しようか」


 ミカミが追い付くのを待ってからそう提案すると、彼女はブンブンと頭を左右に振った。


「わ……私なら……だ…大丈夫……ですから……。気にし……ないで……くだ……ぁぃ」


 鼻息荒く言葉切れ切れに喋ってるやつの言う台詞じゃ無いだろ。信憑性皆無だっての。


「オレも疲れたから、この先の公園で一休みしよう」




 そして現在、公園にある休憩所にオレ達はいた。


 手に握られた缶ジュースはすでに空。プルタブを開けるなり浴びるようにして飲み干したオレ達を誰が非難できようか。


「ぷっは~。生き返る~」


 とは飲み終えた直後にミカミが放った言葉。素で言ってしまったらしく、オレがつっこむと顔を真っ赤にして俯いた。か、かわいい……。


「あ、あのさ」


 このままずっと彼女を眺めていたい衝動に駈られたが、残念な事にマンションでは猛獣が腹を空かせて待っている。



【あんまり遅くなる】=【オレが食べられる】=【オレ終了のお知らせ】



 という方程式(ちょっと違うか)がなりたつので、あまりゆっくりしてはいられないのである。


「そろそろ出発しようと思うんだけど、大丈夫?」


「あ、はい」


「よし、じゃあもう一頑張りしますか」


 そう言って立ち上がったオレが肩を回したり膝を曲げ伸ばしたりしていると、ミカミがぽつりと呟いた。


「なにも……聞かないんだな」


 さっきまでとは違う、少しぶっきらぼうな声色。


 普通なら聞こえるはずの無い音量だったにもかかわらず、オレの耳にはしっかりと届いていた。


 そりゃ聞きたいことは山ほどあるさ。でも多過ぎて何から尋ねればいいのか分からないんだ。


 それに…


「…早く帰らなきゃオレの命にかかわるからな」


 今話を聞いたとしても、姉貴にこき使われているうちに忘れそうだ。


「だからほら、とっとと帰るぞ」


 振り返ると、困惑した様子のミカミがベンチに座っていた。

 

 彼女の丸っこい瞳がオレの目を捕らえる。


 交わる視線。


 感じる違和感。


 しかしその正体がわかるより早く、ミカミが視線を外した。

 

 ……まあいいさ。


 外した先にオレは右手を差し出した。


「ほら、行くぞ」


 それはまるで年下の相手にするようで、ミカミはキヨトンとした顔で右手を見ている。



 それがなんか可笑しくてさ、思わず笑ってちゃったよ。



「あっはっはっはっ――!!」


 年下って、年下ってなんだよおい!


 オレはコイツに命を救われてるんだぞ!


 それなのに年下って……。


「あっははは、はぁ、ははっ、はっ……」


 あー可笑しい。


「ほら、何してんだよ。早く行くぞ」


 帰って昼メシ作って、家事一通りこなして……それからだ。



「聞きたいことは山ほどあるんだからな」



 おずおずと手を取るミカミがかわいくて、オレはまた笑ってしまった。



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