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君との出会いは雨の日で

 三日にも及ぶ中間テストもようやく終わり、さて帰って寝るかと学校を出た。商店街で買った熱々のメンチカツを頬張りながら歩いていたら、突然雨が降り出した。

「やっべ、傘持ってきてなかった」

 雨をしのげそうな場所を探しながら走っていると、そう遠くない所にある公園の片隅に、屋根つきの休憩場所があることを思い出した。ここから走って行けば二分くらいの距離だったと思う。

 別に濡れて帰ったってかまわない。むしろ雨に打たれながら帰りたいくらいだ。が、鞄を濡らすわけにはいかない。この中には教科書やお高い国語辞典や英和辞典などが入っているのだ。

 鞄を包み込むように抱きしめると、オレは目的地へと駆け出した。


*   *   *


 公園には、人っ子一人いなかった。まあ当然といえば当然なのだが、人気の無い公園ほど味気ない場所は無い。

 遊具には目もくれず休憩所まで一気に駆けた。少しでも早く雨から逃れたかったからだ。

「ふうー」

 屋根の下へ入ってようやく一息ついた時には、オレの夏服はびしょびしょになっていた。下に着ているシャツまで濡れていたものだから、オレの上半身は冷たい布がべったり張り付いているあのイヤ~な感触に覆われている。

 幸いにも、走り続けていたおかげで体のほうは温まっているのだが、こうして座っている間にもどんどん体温が奪われている。

「ヘックシュン」

 鞄は無事だったけどオレ自身が無事じゃないや。

 どんどん冷えていく体を少しでも温めようと、今度は自分の体を抱くようにして座り直した時だった。


「ヘクチュン」


 くしゃみが聞こえた。……オレではない誰かの。

 不審に思って辺りを見回してみるが人影らしきものは見当たらない。

「気のせいかな? オレも――」

「ヘクチュン」

 ――疲れてるんだな。とそう続くはずだった言葉は、またもや聞こえたくしゃみによって遮られた。

 オレだって馬鹿ではない。

 二回も聞けばくしゃみがどこから聞こえてきたのかくらい大体の予想はつく。

「………………」

 オレはゆっくり立ち上がる。立ち上がるといっても、少し腰を浮かす程度だ。

 そのまま数歩前に進み、ゆっくりと後ろを振り返る。

くしゃみの聞こえてきた方向、真後ろを。

 正方形に並べられたベンチの中心で何かが動いた。

そこには、

 そこにいたのは、


「う~、寒いです……」


 全身びしょ濡れで横たわる、学生服の女の子だった。


………………

……………………

………………………………


 はぁぁぁあああああああああ!?


 待て待て待て、なんだこれは。

 誰だ、この子は!

 いったいどんなシチュエーションだよ!

 ベタすぎだって!

 オレはパニックに襲われた。 

 いや、パニックがオレを襲った。


……そんな言葉遊びはいいから!


 そうだ!

 深呼吸!

 深呼吸をしよう!

 そうすれば少しは落ち着くかもしれない!


「す~~~~~、は~~~~~。す~~~~~、は~~~~~~~」


 よし!

 だいぶ落ち着いてきたぞ!

 しかし深呼吸ってすごいな!

 たった二回でこんなにも心が落ち着いた!

 これを考えたやつは天才じゃないのか?


……だからそんなことどうでもいいんだって!


「クチュン」


 そうだ。

 オレが一人で騒いでいる間にも、この女の子の体はどんどん冷えていってるんだ。

何とかしないと。

 このままじゃ肺炎になってしまうかもしれない。


 オレは鞄を開けて何か使えそうなものが無いか探してみた。

「お! これは使えるかも!」

 鞄の中から引っ張り出したのは大きめのタオル。

「でも何に使うんだ?」

 残念ながら、いくら頭を捻ったところでタオルの使い道は思い浮かばなかった。

「こーなったら…………」


 オレの家につれていこう。


 ……いや、深い意味はないよ!?

 オレ、いま看護学校に通ってる姉貴のアパートに下宿させてもらってるんだ。

 姉貴、今日は休みだって言ってたし、家に行けば何とかなると思う。

 

「そうと決まったら膳は急げだ!」


 オレは自分に気合を入れると、ぎこちない動作で彼女を背負って走り出した。


 

 目指すはオレの家!


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