フラッシュバック
夢を見ていた。
どんな夢かは目が覚めた瞬間に忘れてしまったけど、現実だと有り得ないような内容だった気がする。
「う~ん」
大きく伸びをして体を起こす。
掛けられていたらしいタオルケットがずり落ちるのを見ながら、さて飯を作るかと立ち上がるべく床に手をついて……床?
「オレはいつから床で寝るようになったんだ?」
オレは好き好んで床で寝るような趣味は無いぞ。それにこのタオルケット。仮に床で寝ていたとしても姉貴がオレの体を気遣って掛けてくれるなんて絶対に、絶対にありえない。
この家に出入りする人間なんてあとは浩二か薫くらいだが、その二人だってそんな気遣い持ち合わせていないだろう。寝ているオレの顔に悪戯書きをする姿がありありと想像できる。
「考えるとろくな奴がいないな……」
ため息と共にほんの少し目線が下がり、床に着いたままの右手が目に入った。
その右手を持ち上げ目の前に翳す。
何の変哲も無い手の平……がある筈だった。
両目をこすって何度か瞬きをして思い切り頬を抓ってみたけど、そんな事をしても、オレの右手には赤黒い血がべっとりと着いていた。
「いったい……うっ」
突然額に激痛が走った。思わず閉じた瞼の裏に、忘れていた光景が映しだされる。
「ぐっ……」
闇に沈んだ姉貴の部屋。
黒いタキシードの男。
傷つけられた大切な人たち。
知り合ったばかりの少女と青い炎。
「があぁぁっ!」
一際鋭い痛みが走る。
――雨――悲鳴――揺れる車内――浮遊感――衝撃と破砕音――静寂――そして赤い地面――
「はぁ、はぁ、はぁ………」
思い出した。思い出したよチクショウ。
あのあと……どうなったんだ?
姉貴は、浩二は、薫は、みんな無事なのか?
どうやら部屋の中には居ないみたいだ。ならリビングか?
慌てて起き上がろうとしたが、体がついて来ない。タキシードの野郎に痛め付けられたせいだろうな。自分の思うように動かない。
てかよく生きてたよなオレ。認めたくはないけど姉貴のおかげみたいだし、後で感謝しとかなきゃ。
「よし」
とりあえずリビングだ。そこに行けばきっと誰か居るはず。
床に手を付いてやっとこさ立ち上がり、おぼつかない足取りで姉貴の部屋を後にした。
そういえば、最後に見たあの映像は何だったんだろう? タキシードとは関係なかったはずだし。
「まぁ、いいか。とにかくリビングに行こう」
握り締めた右手には、血なんか着いていなかった。
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