青い炎
「やいやいやいやい!」
ミカミは、驚きのあまりあんぐりと口を開けている俺を見たあと、のっしのっし歩きながらメンチを切り出した。
「てめぇ、人の恩人になんてことしてくれてんだ!ゴラァ!」
ヤクザも真っ青なもの凄い殺気を放つミカミ。一緒にご飯を食べてた彼女と同一人物だとはとても思えない。でもどうして彼女がここに?
「どどどどうして貴女が! まさか、そんな!」
こっちもこっちで態度を一変。さっきまでの余裕はどこへやら、カツアゲされてる中学生みたいな怯えようでミカミを見上げるタキシード。見ていてなんか哀れなくらいだ。
「どうしてだって? はんッ! 自分の胸に聞いてみやがれ!!」
いうが早いか、ミカミは一足跳びでタキシードの元にたどり着くと、予備動作も無しに顎を蹴り上げた。あまりの威力に体を中に浮かせたその姿は、さながら釣り上げられた魚のよう。
「もう一発ッ!!」
がら空きになったどてっ腹に強烈な回し蹴りが叩き込まれる。体をくの字に折り曲げて壁際まで吹き飛ばされるタキシード。つ、強えぇ。
「がはっ、ごほっ、ぐぅぅ」
苦しげに喘ぐタキシードの元へ今度はゆっくりと歩み寄るミカミ。胸倉を掴んで無理矢理立たせ、そのまま壁に押し付ける。
「No.7463、地獄がお前を待ってるぜ」
ゾッとするほど低い声で囁くと、ミカミの右手が青く光りはじめた。
「いいんですか、私がこのまま戻ったらそこの三人は助かりませんよ?」
「なっ!?」
タキシードの口から発せられた衝撃の事実。戻されるってのがどういうことなのか分からないけど、姉貴達が助からない何て言われたら攻撃出来な……
「ざ~んね~ん。それダウト♪」
タキシードの言葉を一蹴したミカミ。その口調に若干の違和感を覚えた。だがその違和感が何か判明するよりミカミが動き出すほうが早かった。
タキシードが再び喋りだそうと口を開いたのと同時に、直視できないほどの輝きを宿した右手で奴のこめかみを掴む。所謂アイアンクローだ。
「ゴー・トゥー・ヘル!」
ミカミの右手が触れている部分から、青い光…いや、青い炎が徐々にタキシードの体を包み込んでいく。色紙の端に点いた火が扇状に燃え広がっていく光景を思い浮かべて欲しい。少しずつ、それでいてしっかりと燃え広がり、終いには体全体が炎に包まれた。
「アアアアァァァア!!!」
痛々しい叫び声が響く中、ミカミが眉一つ動かさないままに言葉を紡ぐ。
「この世の炎は赤い色。あの世の炎は青い色」
静かに語るミカミの口調にまたも違和感を感じた。
「現世に紛れし地獄の亡者を、居るべき場所まで誘いやがれ!」
かと思った時にはもう元の乱雑な口調に戻っていた。
「いやだいやだいやだいやだッ! 私は戻りたくない!!」
炎から、ミカミから逃れようと必死に体をばたつかせるタキシード。炎に包まれているせいで表情までは分からない。
「地獄が貴方を待ってます」
「いやだ! いやだあぁぁああ!!」
断末魔の叫びが室内にこだました。青い炎が一気に燃え上がる。神々しい光を放ちながら燃える炎。気がつけば、ミカミに掴まれていたタキシードは塵となって消えていた。
一体何が起きてるんだかさっぱりだ。オレの脳は処理落ち寸前だよ。
「リョーヤさん大丈夫ですか!?」
駆け寄って来るミカミの姿を最後に、オレの意識はブラックアウトした。
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