笑い上戸?
「天国と地獄……どっちに逝きたい?」
オレは言った。同時にタキシードの男を睨みつける。もし憎しみや怒りで人が殺せるのなら、きっと今ので二人以上は死んだだろう。あぁ、動かない身体がもどかしい。
しかし、オレの耳に届いたのは死体の倒れる音ではなく、高らかに響く笑い声。
「アハハハハ――!!」
その声にはさっきまでの威圧感は無かった。
ひとしきり笑い終えると、タキシードは目の端を擦りながらオレに向かって言った。
「はぁはぁ―――いやいや、なかなか面白い事を言うじゃないか。漁火漁夜くん」
「……!?」
何で――
「何で名前を知っているのかって?」
「!?」
「アハハハ。本当に分かり易いな君は」
くそっ、馬鹿にされてるようで気分ざ悪いぜ。だいいち、コイツはいったい何者なんだ? どうしてオレの名前を知っている?
そこまで考えて、オレはふと少し前に似たような事を疑問に思ったのを思い出した。
「では、そろそろ失礼させていただきます」
そういうタキシードの声で我に帰ったオレ。
くそっ、それだけはなんとしても阻止しなければ。まだ姉貴の助け方を聞き出せていないんだ。それに、一発ぶん殴らないと気が済まない。
「ちょっと待て!」
オレは窓枠に足を掛けていまにも飛び出そうとしているタキシードに向かって叫んだ。
「帰る前に、姉貴をもとに戻しやがれ!」
そう言った直後、タキシードは窓枠から転げ落ちた。驚いたのもつかの間、今度は腹を抱えて床を笑い転げる。
こ、今度は何だ……。
「漁夜君、キミは僕を笑い死にさせる気かい?」
苦しそうに肩で息をするタキシードを見て、一瞬「勝てるんじゃね?」とか思った。何がこいつのツボに入ったのかはさっぱり分からないけど、このまま笑わせ続ければ酸欠とか過呼吸とかで勝手に自爆してくれるんじゃないかと。
しかし、現実はいつだって希望を裏切る。
「リョウー。もうテレビ始まったよー」
「まったく、人一人起こすのに何分かかってるの?」
開いたままだったドアから暢気な声が聞こえてきた。
「浩二!? 薫!?」
来るな――――なんて叫ぶ暇はなかった。オレが息を吸ったのと同時に、部屋の中に二人が部屋の中に入ってきたからだ。
実はこの時、二人はドアのすぐ近くにいたらしく声が聞こえた頃には廊下から漏れる光に影が出来ていたのだが、タキシードに気を取られていた俺はそれに気づくことが出来なかった。
「漁夜~。あんまりにも遅いから手伝いに来てやったわよ」
「本当は骨を拾いに来たんだけどね」
縁起でもない事を口走りながら入って来た二人。なるほど。虐げられる俺という面白い見世物を見にきたのか。こいつら腐ってやがる!
「おまえら後でぶっ飛ばすかんな!」
「おー怖い怖い」
「死に損ないは黙ってなさい」
こぉいつらぁ……!!
「さて、じゃあそろそろ本題に入ろうか。漁夜」
「……!?」
口調をがらりと変えて言い放つ浩二。一度部屋を見渡した浩二は、物言いたげなかおで壁に背を預けてるオレを見た。
「お前、まさか……」
「キミはどうしてそんな所で寝ているんだい?」
……は?
「漁火ねぇさんが起きないからって、襲うことは無いんじゃないかな?」
「リョーくんのエッチ~」
「おまえらいっぺん死んで来い!!!」
ひっさびさの更新です。量は相変わらず少ないです。内容も相変わらずぐだぐだで進展しません。