決断
「勘当って、あんたいったい何したのよ!?」
最初に我に返った薫がそう問い詰める。
「か、勘当されたって……そんな阿呆な」
「勘当なんて時代遅れな事をする人が居るなんて驚き此処に窮まれりだ」
薫に続き自我を取り戻したオレと浩二は、ほとんど同時に思ったことを口に出していた。そんなオレ達の反応を見て、ミオは楽しそうにクスクス笑っている。
「ちょっと。笑って無いで事情を説明しなさいよ!」
薫が詰め寄る。おいおい、なにも腹を割って話し合う事は無いんじゃないか?
「え、ええっと……」
対するミオは一瞬驚いた後、額に手を宛ててそう呟いた。どうやら上手く言葉に出来ないようで、眉間に皺を寄せて考えている。別に話さなくても構わないと思うんだけどな。
そんなやり取りを見ていると、ミオが昔からの友達だったような気がしてくる。
「ところで漁夜」
「ん?」
名前が呼ばれたため、視線をミオから浩二に移す。
「そろそろ、りョーカ姉さんを起こした方が良いんじゃないかい?」
「……はぁ? 何言ってるんだよ。そんなこと出来るわけねーだろ!」
朝食が食べられて、しかも昼食まで無くなってしまったとあっては、オレの命が危ない。食材を買いに行こうにも、こいつらを置いて行く訳にもいかない。だからといって、一緒に来いと言っても断られるに決まってる。
こいつらが帰ってオレが安心して買い物に行けるまでは、絶対に起こしてはいけないんだ。絶対に。だからオレは問う。
「でも何でそんなこと言い出したんだ?」
よく姉貴を起こそう発想が浮かんだものだ。……姉貴の恐ろしさは浩二もよく知っているだろうにさ。
「いや、ほら、もうこんな時間だし」
浩二はそう言って壁に掛けられた時計を指で示した。つられるように時計を見る。もうすぐ七時か。朝からいろいろあって時計を見てる時間が無かっただけに、思ってたより時間が経って無いことに驚いた。
「もうそろそろ姉さんの好きな特撮ものが始まるから、起こしておかないと後が怖そうだなぁって思ってさ」
「……えっ!?」
特撮もの? それって、昨日帰った時に見てたやつか? でもあれ、次は来週の金曜日にあるんじゃないのか?
新聞を開いて確認しようと、玄関のポストまで取りに行って帰ってきたその時、ダイニングに置いてあるビデオデッキが勝手に起動し、何かの番組を録画し始めた。慌てて新聞を広げてテレビ欄を見る。探す時間は七時。
「げっ!!」
そこには、昨日見ていた番組名がしっかりと印刷されていた。なんてことだ。昨日見ていたのは録画したやつだったのか。
「ね、言った通りだったろ?」
隣では浩二が楽しそうに笑っている。口に出してこそいないがオレには分かる。アイツはこれから起こるであろう惨劇を楽しみにしているんだ。
起こしたらご飯が無いと怒り出し、起こさなかったらなぜ起こさなかったと怒られる。どっちにしろ怒られることに変わりはないのか…。
「さあ漁夜、決断のときだ。キミはいったいどうするのかな」
「どうするのかだって?」
この状況での選択肢など、最初から一つしかない。オレが酷い目に遭うという未来を変えられないのなら、せめて被害を最小限に抑えるしかない。そのためには……
「起こすに決まってんだろ!」
自分を鼓舞するためガタンと勢いよく立ち上がり、姉貴のいる寝室という名の異界へと歩きだした。
「ちょっと! 黙ってたら何も分からないでしょう!」
「ええっ! 別に、わざと黙ってたんじゃ無いのに……」
「漁夜~。骨は拾ってあげるからね~」
背後からは女子二人が言い争う声と、浩二の声援が聞こえて来るが無視。廊下をまっすぐ進んで玄関から一番遠い部屋を目指す。ドアには、
『私の安眠を妨げたら私刑!!』
と書かれたプレートが掛かっていた……。
ようやく物語が動き出します。長かったなぁ……。