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エピローグ〜未来の黒歴史に祝福を〜

 週が明けて、月曜。

 この日、(はじめ)あること(・・・・)を実行する決意をして登校していた。


 一日の授業が過ぎて、帰りのホームルームも終わり、生徒がバラバラと教室を出て行くなか、創はその行動に移る。


「し、白藤(しらふじ)さん! ちょ、ちょっと話せるかな?」

「黒星君? どうしたの?」


 帰りのホームルームの直後、生徒がバラバラと教室を出て行く中で、創はクラスメートの白藤友理(ゆり)を呼び止めた。


「話があるの? ……うん、いいよ。じゃあ、また駅まで歩きながらでもいい?」

「う、うん。もちろん」


 そんな会話があって、二人は先々週と同様に、帰りの道中で話をすることになった。


「……ハジメー、図書室行かねぇ? 新しい本入ってたぞ」


 教室を出る直前、創にそんな誘い文句を投げかけてきたのは、同じくクラスメートの岡村正洋(まさひろ)だ。


「悪い、マサヒロ。また今度な」


 正洋は、創の後ろからぴったりと友理がついて来ていることに気づいた。正洋は「はは〜ん」とにやけ面を見せたところで、創にジロリとにらまれて目をそらす。


「おっと……それじゃあ、邪魔(じゃま)者は退散するぜ」


 正洋は軽く手を振り上げると、一人で図書室の方へ歩いて行った。



「――それで、話って何?」

「うん。実はね……」


 二人が校舎から出て少し歩くと、近くに他の生徒の姿はなくなった。そこで創はスマートフォンを起動し、友理に画面を見せた。

 友理は画面の表示を目にして、目を見開いた。


「――黒星君が、『漆黒魔天卿(しっこくまてんきょう)』さんだったんだ」

「そうなんだよ」


 画面には、小説投稿サイトの会員ページが表示されていた。


 創はなるべく平然として見えるように振る舞っていた。が、このとき実際には、創の心臓はバクバクとやかましく音を鳴らしていた。

 つまるところ、創の決心とは、友理に自分のハンドルネームを明かすことだった。


 以前の創であれば、リアルのクラスメートに自分のハンドルネームを明かすことなど考えられなかった。しかるに、伯父との会話を踏まえて考えを重ねた結果、別にバレても構わないんじゃないか、という結論に至った。


 ここで、創が友理にハンドルネームを明かしたい理由は、三つあった。

 一つ、先々週、友理自身が創に対してインターネット上で小説の投稿を行っていると教えてくれたから。

 一つ、友理がSNS〈オプチャー〉上で交流を持っていた――しかも仲の良い――相手だとわかっているから。


 この二つめの理由について、創は友理のハンドルネームが『リリィ』だと確信していた。


 週末、創はSNSの〈オプチャー〉上で以前と同じチャットルームに同じハンドルネームで参加し、既にそこで『リリィ』とのやりとりも再開していた。『リリィ』は創の執筆活動への復帰を心から喜んでくれた。

 「リリィ」といえば、英語で「百合(ゆり)」を意味する単語だ。そして、彼女の名前も友理。これが偶然だとは、創には思えなかった。


 ――『リリィ』に、直接お礼を伝えたい。

 それが、創が友理にハンドルネームを明かした最大の理由だ。


 創は万感の思いを込めて、友理に感謝を伝える。


「ありがとう、白藤さん」

「え?」


 友理はきょとんとした。


「白藤さんが、『リリィ』なんでしょ?」


 創は確信を持って尋ねた。すると、――


「え、『リリィ』さん? 違うよ」


 友理は、手を左右に振ってそれを否定した。


「………………えっ?」


 自信満々だった予想が外れたことで、創の頭の中で混乱が巻き起こった。


(あれっ? じゃあ、『リリィ』は……? ――っていうか、白藤さんは誰なんだ……?)


「じゃ、じゃあ、白藤さんのニックネームは……?」

「私は――」


 友理は創の問いに答えようとして、しかし、ただ口をパクパクと動かしただけだった。


「?」


(……どうしたんだろう?)


 創は、友理のおかしな挙動をふしぎに思った。

 すると、友理は真っ赤になってうつむいてしまった。


「……ご、ゴメン! ちょっと、また今度にさせて!」

「わ、わかった。こっちこそ、ごめんね。無理に聞いたりして」


 創が謝り返すと、友理はふるふると首を振った。


 その後、二人が駅にたどり着くまでの間で、まともな会話が成立することはほとんどなかった。


    †


黒星(くろぼし)君が、『漆黒魔天卿(しっこくまてんきょう)』さんだったんだ」

「そうなんだよ」


 良かった、と友理(ゆり)は胸中で安堵(あんど)していた。

 『漆黒魔天卿』がSNS〈オプチャー〉に復帰したとき、友理は『リリィ』と共に心からそれを歓迎した。

 友理は〈オプチャー〉歴が長く、該当のチャットルーム上でも古株の立場だった。そんな友理は、ほぼ同時期に〈オプチャー〉に参加した二人――『漆黒魔天卿』と『リリィ』のことを、少し歳下の弟か妹のように感じていた。


 『漆黒魔天卿』の正体が(はじめ)だということに意外性はあったが、言われてみれば確かにしっくり来るような気がする。

 これからはリアルでも小説の話がもっとできそうだ、と友理は楽しみに思った。

 しかし、――


「白藤さんが、『リリィ』なんでしょ?」


 創から思いもよらぬ問いを受けて、友理は目を見張った。


「『リリィ』さん? 違うよ」

「……えっ?」


 友理は手を振って創の問いを否定しながら、胸中では複雑な思いを抱えていた。


(……私って、あんな感じに思われてたんだ……。ちょっとショック……。――っていうか、『リリィ』さんって、たぶん……)


 そこには、『リリィ』に対する嫉妬(しっと)に近い感情も、少し(ふく)まれていたかもしれない。


「じゃ、じゃあ、白藤さんのニックネームは……?」

「私は――」


 創の問いに反射的に答えかけて、友理はかろうじて言葉を飲み込んだ。


 ――言えない。……言えっこない。


 友理はどうしても、創にハンドルネームを明かすことができなかった。


(――クラスの男子にBL小説書いてるなんて、絶対に言えるわけないよっ!!)


 友理のハンドルネームは『Rose』。かつて、ひょんなことからBL――男性同士の恋愛というジャンルにハマり、気づけば自らも妄想(もうそう)を小説という形にしたためるに至っていた。


(ど、どど、どうしよう……――っていうか、このまま同じ〈オプチャー〉にいたら、すぐにバレちゃうんじゃ!?)


 友理は創と並んで駅の方へと歩きながら、内心でパニックを起こしていた。


 ――幸いなことに、創は『Rose』のことを歳上のお姉さんだと思っているため、中の人が友理だと気づくことはなかった。


    †


「――百合(ゆり)はいいねぇ。心が洗われるようだよ……」


 学校の図書室の片隅で、岡村正洋はこっそりと独り言をつぶやいていた。


「……おっと、このネタは使い回せるかもな」


 図書室で思いがけず発見した百合要素のある恋愛小説にしおりをはさみ、正洋は読んだばかりの内容の一部をスマートフォンのメモアプリに打ち込む。

 同じスマートフォンの中には、SNS〈オプチャー〉のアイコンもある。


(いやー、『漆黒魔天卿』さんが執筆再開してくれて良かったなぁ)


 正洋は改めて、そう思った。


 そう。彼こそが『リリィ』の正体である。

 百合系小説を書くことは彼の隠れた趣味であり、親友の創にも自身が百合好きであることは隠している。


 そんな彼は、同時期に〈オプチャー〉に入って小説を書き始めた『漆黒魔天卿』に親近感を抱いていた。

 どうやら漫画やアニメの趣味も合うようだ。ただし、正洋は『リリィ』としては女性のフリをしているので、あまりその手の話題に食いつかないように注意していた。


(――どんな人なんだろうな、『漆黒魔天卿』さんって。たぶん、歳は近いと思うんだけど)


 正洋は『漆黒魔天卿』がなんとなく、仲の良い友人の誰かによく似ているように感じていた。だが、まさかそれが創だとは夢にも思わなかった。




    †††




 四日後の金曜日の夜。黒星(くろぼし)家にて。


「――お母さん、まだ?」

「はいはい。いま行きますよ」


 家のリビングには、(はじめ)と父親の竜彦(たつひこ)、そして母親の愛美(まなみ)が集まりつつあった。


「――もう、何よ。わざわざリビングで話なんて」

「今から話すからさ」


 ――話したいことがある。

 そう言って二人をリビングに呼んだのは、他ならぬ創だ。


 ソファには竜彦と愛美が腰掛け、創はテーブルをはさんで反対側に小さな椅子を運んで腰かけた。


 創はごくり、とつばを飲み込む。

 これからの話の行方によって、創の未来は大きく変わることになる……かもしれない。


 創がこれから話すこと。それは、両親にパソコンを買ってもらうための直談判(じかだんぱん)をすることだ。

 家に共用のパソコンはあるが、創はこれから小説の創作に本格的に取り組むにあたって、自由に使えるパソコンが欲しくなった。


 この判断に至るまでには、SNS〈オプチャー〉上で何かと創のことを気に掛けてくれる『Rose』という人物の(すす)めもあった。


(ほんと、頼りになるよなぁ。『Rose』さん)


 ふと、創はリビングとダイニングの間に目線を送る。そこでは、姉の聖蘭(せいら)が握り拳をつくり、創へ無言でエールを送っていた。

 両親に直談判をする前に創は聖蘭に相談し、両親の了承を得るための作戦会議を行ったのだ。


 これからの話の過程では必然的に、創が小説を書いていることを両親に明かすことになるだろう。

 しかし、今の創にとってそれはハードルにはならなかった。


 全員が席に着いたところで、竜彦が創に問いかける。


「……それで、話っていうのは?」

「うん。実はね、――」



(了)

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