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第九話

 (失敗した!)

 全力で森の中を駆ける。混乱と恐怖で脚はもつれそうだし、さっきから息が上がって胸がすごく苦しい!でも死ぬ気で走らないと、それこそ本当に死ぬ!


 病気の母さんのためにいつも通り森の中に生えている薬草を取りに来た。足元の草をよく見ながら森の中を歩いていたら、珍しく熊に遭遇した。

 この森は奥まで行かないと大型の生き物は出ないから完全に油断していた。普段から入り慣れている森だ。今まで通り奥までは入ってなかったと思うけど…。

 熊は僕を見るなりグゥオーっと叫び声を上げて近づいてきた。僕は踵を返し、その場から一目散に逃亡した。手足をバタバタと動かし、不恰好に走りながらも木が盾になるようにジグザグと逃げる。

 しかし少しずつ距離が縮まってきた。熊の爪が僕の背中を何度もかする。熊の横薙ぎで爪が当たる瞬間、なんとか前に転がって回避したが、体勢を崩した僕にはもう逃げる術がない。

 次の一撃で自分は死ぬだろう。近づく熊に目を瞑って衝撃を待っていた。


その時、奇跡が舞い降りた。






 森での訓練を続けて1年。俺は9歳になった。

 魔法も剣術も一通り修め、ヘルマン人形ともなんとか戦えるようになってきた。

 しかし実践経験はゼロ!

 毎日鍛錬を続けていると、当然ながら自分の実力を試したくなってくる。

 鍛錬場として使っているのは、森の中でも人里に近い部分だ。最初にリサが言った通り、小動物くらいしか出てこないため獲物になるようなものもない。モンスターはおろか熊や猪もいないくらいだ。


 「そろそろ実戦を経験したいわ。もう少し森の奥に行こうと思うの。もし何かあっても今の私達なら逃げることくらいは出来るだろうしね。」


 リサは少し渋ったが、何かあれば必ず逃げると約束したら折れてくれた。転移魔法やリサの能力があれば大抵の相手からは逃げられる。冷静に対処できれば大丈夫なのだから。

 俺とリサは森の奥へ進み、戦えそうな動物を探していた。なかなか良いのが見つからず、いっその事ここら一帯を丸裸にしてやろうかと思ったところでガサガサと遠くで音が聞こえた。

 男の子が熊に襲われている!

「行くわよ!」

 俺は転移魔法で熊と男の子の間に跳び、風魔法で熊を牽制した。熊はいきなりの突風によろけたが、数歩下がっただけで、いきなり出てきた闖入者に警戒して唸り声を上げていた。熊はいつでも飛びかかれるように体勢を低くしながらこちらを睨みつけ、一分の隙もない。

 「怪我はないですか?」

 地面に倒れている男の子はボーッとした顔でこちらを見た後、首が外れるかと思うほどカクカクと頷いた。

 「それは良かった。それではこの熊はいただきます。」

 次の瞬間、光が走った。

 一直線に熊に向かって電撃魔法で先制した。

 熊は何が起こったかも分からず泡を吹いて痙攣。体液が沸騰したのか、体からは蒸気が出ていた。

 動けなくなった熊に近づき、腰に差していた剣で首を落とした。電熱で焼けていたのか心臓が止まっていたのか、断面から出る血は多くはなかった。


 

 (ビックリしたけど、実戦でもきちんと使えそうね。)

 初めて熊と対峙して内心ではドキドキしていたが、なんとか上手くはまって良かった。

 風魔法で相手との距離を取り、電撃魔法で一撃。スタン効果も見込めるし、弱い生き物なら一発で終わらせることもできる。奇襲戦法の一つとして考えていた。

 この世界の生物は魔法による電撃は無警戒だ。速度も威力も高く、非常に有効な攻撃手段だ。

 

 先程の動きを回想していたら、男の子の存在を思い出した。

 怪我もなさそうだし。注意だけして村へ帰らせよう。

 そう思って振り向くと、視界の隅におかしな物が映った。


 虎だ。


 ただし体色は紫で、その背には一対の翼が生えている。

 それがゆっくりとこちらに向かってきている。

 間違いない。あれはモンスターだ。


 先程の熊程度とは訳が違う威圧感。

 心臓がどくどくと音を立てるのが聴こえる。

 恐怖で指先が震えてきた。胃の辺りが冷たくなり、呼吸が荒くなる。


 すると突然虎のモンスターがキョロキョロと周りを見回した。


 「お嬢様、大丈夫ですか?」

 リサの手が少年と俺の背中に触れている。

 『隠者』の力であのモンスターから隠してくれたみたいだ。

 まだモンスターは目の前にいるが、捕捉されていないという事実から人心地がついて、心に多少余裕が出る。


 「ありがとう。助かったわ。まさかこんな所にモンスターが出るとはね。」

 「あれはパープルタイガーですね。中級のモンスターです。さっきの熊もアレから逃げていたのでしょう。我々も逃げますよ。」


 リサは撤退を勧めてくるが、まだ切れる手札が幾つもある。転移も使えるので、このまま少し距離をとって試したい。

 「放置したら近くの村を襲うでしょ。いつでも逃げられるんだから一当てしてみるわ。」

 

 俺は未だにこちらを捉えられずキョロキョロとしているパープルタイガーに後ろから電撃魔法を浴びせた。


 ギァウンッ!


 パープルタイガーは衝撃を受けて筋肉が痙攣している。ただしさっきの熊ほどじゃないな。まだまだ動けそうだ。

 俺はパープルタイガーに対し、もう一つの切り札を切ることに決めた。

 パープルタイガーに向けて人差し指と中指を立て、そのまま縦横斜めに走らせる。

 次の瞬間、奴の体はバラバラと崩れた。

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