第八話
森の中での訓練はある意味では順調だった。
まずは書物にあった魔法を片っ端から試した。
部屋では使えない様な広範囲に作用する魔法も、誰もいない場所では気にせず使う事ができる。
魔法の基本は魔力とイメージだ。侯爵家の血を継ぐ上に現代日本の教育を受けたチート状態なので大体の魔法はスルスルと修められた。
習得が難しいと言われる中級以上の魔法も物理現象を考えていくと納得のいくものが多かった。ただし聖魔法と闇魔法は別。あれは物理じゃなくて不思議パワーだから。
そう考えると、むしろ物理の知識よりも思い込みの方が大事なのかもね。
複数の属性を使えることを活かし、属性の派生が出来ないかも試してみた。
最初は水と風を使って雷の魔法に挑戦した。雷魔法自体は今まで調べたものには無かったが、雷といえば厨二心をくすぐる強属性だ。なんとか使える様になりたい。
雷の発生原理から考えて、水分を細かくしてぶつけ続ければ摩擦で電気が生じるのではないかと思った。
もともと水属性の魔法で氷を生み出すものがあるので、魔法で生じた物質の温度変化自体はなんとでもなるというのは分かっている。
温度に変化を付けた細かい水の粒を風魔法でぶつけ続けてみた。最初はもやもやしているだけだったが、少しずつ大きくなりやがて立派な雲が出来た。それに上昇気流が発生し始め、見る見るうちに加速して大きくなっていく雲を見て、俺の背中に冷や汗が流れた。これはまずい、完全に制御を失った。
雲はどんどん黒くなり、あたりが暗くなってきている。雨も降り始め全身をにわかに濡らした。ゴロゴロと鳴り始めたところで俺は撤退を決めた。
近くでキョトンと雲を見ているリサの所まで走り、手を掴んですぐに転移した。
転移先は視界に入っている目いっぱいの距離だ。
2人で遠くから雲を見ていると、物凄い光と衝撃が地面に突き刺さった。
ドォッゴォーーーン!!
遅れて轟音が鳴り響き2人揃ってひっくり返ってしまった。
「お嬢様は天候すらも自在に操るのですね。さすがです。」
「自在に操っていたらこうして地面に転がってないでしょ。失敗よ。」
コイツは嫌味ではなく本心から言ってるな。
この醜態でも敬意を失わないのは大したものだが、雷を魔法で再現できる人間がいないから当然といえば当然か。
しかし雷は危険すぎる。もう少し小規模から試してみないとな。まずは静電気くらいから。
もともと部屋で練習していた空間魔法は、小さな箱から薄っぺらい箱に進化した。射程も伸びたため、2〜3メートルならば不可視の斬撃が楽しめる。実際は斬撃というか、当たった部分が隔離されて切り取られる感じだが。
今の射程だと相当接近しないと使えない。
剣術をしっかりと学びたいな。
「リサは剣は使える?」
「護身術程度なら出来ますが、基本的には戦闘は苦手です。申し訳ありません。」
まぁそうだよな。
理想はヘルマンクラスの剣士に手取り足取り教えてもらえたら良いんだけど。んー、魔法でなんとかならんかな?
催眠をかけて森まで連れてきたり、剣の技術のコピーを魔法で出来ないか考えた。しかし、たとえ出来たとしても相手にも生活があるしコピーだけしてたらいざという時に使いにくそうだし、、、。
あ!そうだ!技術をコピーした人形を作れば良いんじゃね!?
その人形に教われば良い。よっしゃ!いい考えじゃん!
ヘルマン人形を作ると決めた俺は、夜中に兵士の宿舎に忍び込んだ。普通なら難しいが、こうゆう時にリサの能力が役に立つ。リサの『隠者』の能力で、俺たちは堂々と正面から宿舎に入った。目の前にいる宿直の兵士達には全く認識されないままヘルマンの部屋に到達。寝ているヘルマンの髪を一本もらい、転移で森へ戻る。
森の地面から土を大きく盛り上げ、そこにヘルマンの髪の毛を入れる。あとは魔力とイメージだ。ヘルマンのDNAが土に馴染む様にイメージし、大量の魔力を込めた。
土は光りながら少しずつ形付いて、最後には人型になった。ヘルマンそっくりだな。
自信はなかったが、やれば出来るもんだな。
「剣の型をやってみて」
『かしこまりました』
ヘルマン人形に土魔法で作った剣を持たせて剣術の型をさせる。
ビュビュンッ シュッ
人形も本体と同じような技術を持っているようだ。
地面から同僚が出来たのを見たリサは目を丸くして驚いた。
「これは…本人と同じ力を持つ土人形ですか。もしこれを量産できるならば、戦争の形態が変わりそうですね。辺境の村に配置すればモンスターに怯えることもない。画期的な魔法です!」
「いや、コレ一体作るのにかなり魔力が必要だし、厳密には土属性だけでは無さそうだから他の人には難しいんじゃないかな?」
この世界の人にはDNAとかを説明しても分からんだろうしな。
とにかくコレで剣の方もしっかり練習出来る。
ヘルマン人形は本人と同じ技術や習性がある。指示をしなくても自動的に動くため、俺と模擬戦をさせた。何度もボコボコにされたが、その度にアドバイスをしてくれて俺の動きを修正してくれる。
俺はそうして少しずつ強くなっていった。