第六話
「は、、、あ、え?」
なんて言ったこいつ?
えっなに?
バレてたの?え?いつから?
「申し訳ありません。隠されている様だったので今まで言及はしなかったのですが、お嬢様が特殊な魔法を使われていたのは気付いておりました。」
マジか。
「いきなり石が現れたり、蝶が突然移動したりと不可思議なことが続いておりましたので屋敷でも騒ぎになっておりまして。」
そっかぁ見られてたかぁ。
まぁ夜間も兵の見回りがあるから、転送先に誰かいる可能性もあるよな。一応誰も気付かなそうな場所に送ったんだけど。やっぱりうちの兵は鋭いね。
完全に油断してたが、さてどうするか。
「侯爵様にはまだお伝えしていません。もしかしたら既に何か勘付いていらっしゃるかもしれませんが、、、」
そうなん?んーでも心配性なお父様に知られたら完全に禁止になると思うし、監視の目もキツくなりそう。
「私の魔法についてはバレるまでは黙ってて欲しい」
「良いですよ」
いいのかよ!ダメ元だったが、二つ返事で了承してくれた。
「ただし、危険なことをする時は先に教えて下さい。何かあった時に盾くらいにはなれますので。」
「盾になんかしないわよ。分かったわ。」
いきなりすごいこと言うな。忠誠心高過ぎだろ。
「それで、何にお悩みだったのですか?」
「空間を転移させる魔法を練習していたの。今までは石とか蝶で試していたけど、もともと自分を移動させる目的で考えてたからそろそろ自分にかけたいのだけれど……ちょっと勇気が出なくてね。」
なるほど、とリサは顎に指を当てて考えてる。
「空間を転移というのはよく分かりませんが、人間での実験を考えていらしたのですね。では私をお使い下さい。」
「え、いや、ちょっとそれは……」
「蝶は大丈夫だったのですよね?でしたら特に問題ないのでは?もし何かあったとしても、その魔法はとても有意義なものです。お嬢様の今後の助けになるならば私にとっては本望ですよ。」
おいおい、さっきも感じたけどコイツとんでもないな。
何がそこまでコイツの忠誠心を掻き立てるんだ。もう怖くなってきた。
その後も何度も止めたが、頑として譲らなかった。俺の事を神の様に信仰している。
まぁ渡りに船ではあるが。なんかあったら聖魔法で治せるかな?自分の擦り傷程度なら治したことがあるけど、内臓がめちゃくちゃになったら治せる自信ないんだけど…
俺は緊張しながらも、なぜか自信満々なリサに転移魔法を掛ける。転移距離は数メートル。部屋の中で移動してもらう。何かあった時に対処しやすいからな。
深呼吸して、目の前にいるリサに魔力を込める。
すると、リサは部屋の隅に移動していた。
本人は少し驚いているが、それだけだ。
特に体調に問題はなさそうに見える。良かった…。
「分かっていても少し驚きましたね。本当に一瞬で違う場所に立っていました。」
「そうね。でも何事もなさそうで安心したわ。」
これで自分に使える。
自分でも何度か部屋の中を転移してみたが、これは慣れるまで少しドキドキするな。イメージはしていても、いきなり壁が目の前に現れたり、足場のない場所に移動したら対処が難しい。
しかしこれで転移魔法が完成した。
「やっとこれで外に自由に出れるわね。」
「そのためにこの様な大それた魔法をお作りになられたのですか!?」
リサは酷く驚いたようだが、四六時中監視してる人間に言われたくは無い。
「魔法の練習もそろそろ部屋でするには厳しそうだからね。人目につかない広い所に行きたいわ。」
「それでしたら、領地の北の方に広い森があります。弱いモンスターも出ますが、奥まで入らなければ大丈夫だと思います。」
行ったことのない所には行けないから、転移で屋敷を脱走して、空を飛んで向かった。それなりに遠かったけど、転移を繰り返せばなんとか着くな。
誰もいない森の中で、思う存分魔法の練習をした。