第四話
眠い、、、。
最近マジでオーバーワークだ。
貴族令嬢って、暇つぶしに刺繍やったり紅茶飲んだりってイメージあるやん?良い身分やなって。
いやいや、そんなこと思ってた前世の自分をボコボコにしてやりたい!
礼儀作法、勉強、ダンスの練習、いざという時のために乗馬も出来なければならないし、年齢が上がったら魔法の訓練も入るから、基本ずっと勉強なのよ。
俺も寝る前に魔法の練習してるし、休み時間に兵士の訓練を見に行ってるから、実質ずっと何かやってる状態なのね?勉強チートは数学くらいで、社会や言語なんかは年齢相応の知識しかないし、ダンスなんて経験ゼロだからな!毎日本気出して予習・復習している。
そしてこの世界、なんと休日という概念がない!
いや、祝日はあるよ?年に3日!
この世界は1年が360日で12の月で計算されてる。ひと月は必ず30日なんだ。でも、月の中に決められた休みは基本ない。休みは年始と国立記念日と女神降臨の日の3日だけ。女神降臨の日というのは、その昔女神様がこの世界を作ったと言われてる日で、春にあるんだ。首都では結構なお祭りになるらしい。
でもさ、週休2日の上に世界でも有数の祝日数を誇った日本で育ってたのよ?休みプリーズ!
最近セレナお嬢様が変だ。
お嬢様は銀の髪に赤い大きな瞳を持つとても可愛らしい方だ。性格も穏やかで、いつも使用人にも優しい。
そんなお嬢様が、少し前に突然倒れた時はとても驚いた。その年齢の割に、お嬢様は今までどんな病気にも罹られたことがなかったからだ。
本来はいかに丈夫な子供でも、風邪くらいは必ずひくはずなのに、お嬢様は産まれた時からただの一回も体調を崩されたことがない。
昔見た文献では、女神様に選ばれた歴代の聖女様は産まれてから一度も病気になる事はなかったという。そして侯爵様とも奥様とも違う目と髪の色が、お嬢様の特殊性を強く感じさせる。侯爵様は目も髪も栗色、奥様は眼の色が青く、髪は明るい金色だ。どう見ても似つかない。顔立ちはお二人に似てる部分もある上に、念の為魔道具での検査もあったようなので不貞は疑われて無いが、お産まれになった瞬間は屋敷の皆さんは首を傾げておいでだった。
私はお嬢様こそが今代の聖女なのかと思っていた。美しく、優しく、生まれつき膨大な魔力を持つ。高位の貴族ほど魔力が多いものだが、彼女の生まれ持った魔力は既に成人した侯爵様を超えるほどのものだった。魔力は成長や鍛錬で伸びていくものだ。お嬢様が今後適切な成長をした場合、どれほどのものになるかは、私では想像もつかない。
そんなお嬢様だったが、目を覚ましてからは少し変わったように感じる。もともと歳の割には聡明な方であったが、最近ではむしろ大人が無理矢理子供を演じて自分を抑えているかのようなチグハグさを感じるのだ。
特に数学の授業では、つまらない物を見るかのように問題を解いている。今までは間違えることもあったが、最近は全問正解。しかも一度も悩むことなく、問題を見た瞬間に解答を書き始めている。講師も凄く驚いていた。
元気になられてからは剣や魔法にご興味があるようだが、侯爵様は訓練を許可をされなかった。魔法に関しては恐らく最高の適性を持つであろうお嬢様だが、まだまだ精神的に未熟だとお考えのようだ。確かにあの膨大な魔力が暴発したらと考えると恐怖を感じる。
それだけでは無く、お嬢様の雰囲気の変化が気になっていらっしゃる様子で私に監視を命じられた。お嬢様の変化について何かお心当たりがあるようだが、そこまでは伺うことが出来なかった。侯爵様も私と同じように聖女様である可能性を考えておられるのだろうか?
最近のお嬢様は家庭教師の授業が終わると必ず兵士たちの訓練を見学される。侯爵家の令嬢であるため毎日厳しいレッスンを受けているにも関わらず、空いた時間を使って訓練場に行くのだ。
最初は子供の憧れと思っていた。なぜか分からないが、元気になったお嬢様は剣と魔法に並々ならぬご興味をお持ちだからだ。
しかし父親に訓練を許可されず、せめて見学だけでもしたかったのかと思った。
その考えはすぐに変わることになる。お嬢様が兵士たちの動きを見る目は非常に厳しく、憧れなど全く感じさせないものだったからだ。
戦いの心得のない私の目には兵士たちの動きはほとんど追えない。特に隊長のヘルマン様に至っては剣を振る際に肩から先が消えているように感じる。しかし顎に手を当てながら頷いたり、ぶつぶつ言っているお嬢様には、彼らの動きが完全に見えているようだった。
一通り見て満足したのか、自室に帰ろうとするお嬢様に伺ってみた。
「なぜ毎日兵士の訓練を見学に?お嬢様は剣や戦いの類はお嫌いだったように感じておりましたが。」
お嬢様は足を止めて、こちらをじっと見つめた。
そして少し考えてから意を決したように話してくれた。
「前回の魔王討伐から今年で90年。あと10年でまた魔王が復活し魔族との戦争が始まるわ。私は未だ若輩の身ではありますが、貴族の一員としてきちんと備えておきたいの。」
私はすごく驚いた。歴代の勇者様方も戦争の時は10代から20代だったので、お嬢様の年齢からすると丁度重なる位だ。しかし齢7歳でそこまで考えて自発的に行動出来るものがあるだろうか?
お嬢様の志に、私は心の底から敬服してしまった。
「ご立派な考えだと思います。私はお嬢様を誇りに思います。」
「ありがとう。じゃ、部屋に帰りましょうか。」
この方に仕え、お支えしていきたい。
私の人生が決まった瞬間だった。