断罪されても虐めていても、何があっても悪役令嬢は笑い続けなければならない
その悪役令嬢は笑い続けている。
何があっても笑い続けている。
ずっとずっと、笑い続けている。
大変なトラブルがあったときも。
何もないときも。
誰かが不幸になったときも。
そうでないときも。
どうしてそんなに笑い続けるのかと、周囲の人間はいつも不思議に思っていた。
だから、興味の強い人間が彼女に聞いてみることにした。
そしたら「笑わない私に価値はないからよ」と悪役令嬢は答えた。
悪役令嬢は笑い続けないといけない。
どうしたって、笑い続けていないといけない。
余裕なところを見せ続けないといけない。
虚勢でもはりつづけなければならない。
悪役令嬢は自分が能無しだと知っている。
けれども、家の名前は能無しであってはいけない。
その有名な家に生まれた悪役令嬢は、生まれながらに大きなものを背負っている。
皆から、家のために全てを捧げなさいと、子供の頃から言われていた。
だから悪役令嬢は笑い続ける。
嫉妬でヒロインを虐め、心の中で申し訳なく思っても。
腹黒い者達と暗躍し、弱者を虐げることになって、心の中で涙を流しながらも。
断罪され、人々になじられる事になっても、家の者から見放されたくはないのだと。
けれど、そうして笑い続けた悪役令嬢の努力は実らなかった。
「こんなやっかいな娘、うちの子供でも何でもないわ」
家の為に動いていた彼女は家から追い出され。
家のために動きなさいと言っていた者達から、見放された。
それでも悪役令嬢はやっぱり笑い続けた。
そうする以外、感情を表明する方法が分からなくなっていたから。