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智慧の魔女の放浪譚〜活字らぶな黒髪少女は異世界でのんびり旅をする。精霊黒猫を添えて〜   作者: 嘉神かろ


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八の浪 独立迷宮都市バランシエ⑥

 本物の太陽が青空に輝き、爽やかな風が吹き抜ける。僅かに混ざる潮の香りは、少し先にある北の海から届いたものだろう。

 風の来る方を見下ろせば、円形の外壁に囲まれた都市があった。力こそが正義という理に支配された刺々しくて、優しい街。雑多に建物が並び、多様な人々が懸命に生きる街。中央にぽっかり空いた空間は、冒険者たちの墓場だと言われる大迷宮を封じ込めるためにできたものだ。


 そんな街を見下ろせる、少し離れた場所に墓地があるのは、生き急がなければならなかった彼らに安寧を与えるためなのかもしれない。


「ライルは俺たちのパーティで面倒みることになった」


 ヴァンは小綺麗に整えられた墓石を見下ろしながら言う。五つの名前が刻まれたそれは、この場の多くと違って丁寧に成形されていた。ラムダ達と親交のあった者たちが出来る範囲でお金を出し合って職人に依頼したからだ。


「そう。孤児院には()れないのね」

「ああ。両親みたいな冒険者になりたいんだと」

「それは、良いことなんでしょうね」


 百階層より上で活動できるような凄腕の冒険者、ではないのだろう。もちろんそれも含まれているかもしれないけれど、それ以上に、たくさんの人に助けてもらえる冒険者になりたいのだと思う。あの日、ラムダ達を連れ帰った日の別れ際、一頻(ひとしき)り泣いたあの子に聞かれたのだ。両親はどんな冒険者だったかって。

 あの時の私の返答を受けて決めたのなら、きっとそう。


「そりゃなんだ?」

「ラムダ達の故郷だと、こうやって故人の目に近しい色の花を供えるんですって」


 悪戯鞄から取り出した五本の花を、たくさんのお酒や保存食の横に添える。そのうちの二本は、綺麗なオレンジと青色の花弁の花だった。

 最後に酒瓶を一本開封して墓石に注ぎ、一口含んでから同じように中身の減った酒瓶の群れに加える。こちらは、この街の冒険者流だ。


「先に戻るわね。もうしばらくはこの街にいるから、ライル君のことなら頼りなさい」

「ライルのことだけかよ。まあ、そんときゃよろしく頼むぜ」

「ええ」


 笑みを返し、アストと共にその場を後にする。ああは言ったけれど、私以外にも多くの冒険者が協力するだろう。今回の捜索のように。


 他者から得られる助力、それもまた、その人が持つ力であり、この街が正義とするものなのだと思う。

 

 だけれど、それだけの力を持っていても、死は平等に訪れる。運に見放されてかもしれない。寿命かもしれない。それは老いることのなくなった私にも言えることだ。


「別れは必然、か」

「うん? どうかした?」


 首を傾げるアストを抱き上げ、胸に抱える。キョトンとした顔も可愛らしい。


 死は私にも訪れる。けれど、約束された死は、寿命は、アストよりもずっとずっと後。その気になれば、無限に近しい寿命も得られるだろう。

 同じようにアストの寿命も延びるなら良かったけれど、そうはいかない。女神が生み出した、精霊のなり損ない。それが亜精霊だ。だからなのか、魔力量に比例して寿命が延びるというこの世界の理に、彼らは当てはまらない。


 何度も死を見てきたけれど、この子が死んだとき、私は、同じように割り切ることが出来るのかしら。正直、自信が無い。


 ……そうね、長い生で世界を回るのだから、亜精霊が精霊になる方法を探すのも良いかもしれない。『智慧の館』で見つからない以上、あるかも分からないし、最終的にアストが望むかも分からない。けれど、その時はその時だ。


 憧れに近づくため、必要以上に失わないため、この力を使っていこうと思う。それが私の、今の正義だから。

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