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智慧の魔女の放浪譚〜活字らぶな黒髪少女は異世界でのんびり旅をする。精霊黒猫を添えて〜   作者: 嘉神かろ


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五の浪 学園都市ティールデン①

挿絵(By みてみん)


ちょっと作ってみました。


今回から週に2〜3回更新目標で上げていきます。

 チクタクと時を刻む音を響かせるのは、落ち着いた濃茶のアンティーク時計。目の前にあるローテブルも、今座っているふかふかのソファも、同じようなアンティーク調で、なんだか落ち着く。この部屋の主の性格が表れているのかしら? 私の感覚ではアンティークだけれど、この世界ではそんな付加価値の概念は無い筈だから、きっとそうなのだろう。

 正面に座るその主の向こう側には、青い空と、整然と広がる街並み。ここからでは見えないけれど、多くの同じような恰好の子どもたちが歩いている筈だ。


 王都エルデンを出て凡そ一年。私たちはエルデア王国北部の荒原地帯にある学園都市ティールデンに来ていた。


「それにしても、まさか本物の魔女様にお会いできる日が来ようとは」


 私の正面で皺だらけの顔に柔らかな笑みを浮かべる老人は、この部屋の主で、学園都市の長。小柄というには小さすぎる、凡そ一メートル程の身長は彼ら小人族(タイニー)の特徴で、彼は比較的身長の高い方だ。


「そんな偉いものではないですよ。偶々得てしまっただけです」

「いえいえ、魔法は魔導師の目指すべき到達点ですから」


 まあ、そう言われたらそうなのかもしれなけれど、勉強したりただ訓練したりで発現できるものではないのよね。


「私こそ、高名なパースバル卿にお会いできて光栄です」

「ただ運の良かっただけの老骨ですよ」


 パースバル学園長が子爵としてが叙爵されたのは戦の折りにこの国の王を助けたことが理由だから、その事を言っているのだろう。彼自身いくつも価値ある研究結果を残しているのだから、運だけではない尊敬すべき人物なのは確かなのだけれど。

 まあ、形式的なやり取りはこの辺りで良いだろう。紅茶みたいなお茶もスコーンも美味しいからもう少し歓談していても良いのだけれど、アストがうとうとしてきたから。


「それで、そろそろ冒険者の私を学園長室に呼びだした理由を聞かせてもらっても?」

「ほっほ。ワッシとしてはもう少し歓談をしていても良かったのですが、そうですね」


 パースバル学園長はアストの方を見てにっこり。子ども好きとは聞いていたけれど、なるほどね。


「少し前に、我が学園に依頼が入りましてな。遠方の領地で魔道具の調査をする事になったのです。領主を務める貴族が相手ですから、特に優秀な者を行かせない訳にはいかない」


 ゆったりとした、どこかマイペースな喋り方。けれどこれは、自分のペースに持ち込みたい人間からしたら歯痒いでしょうね。意図的なら、流石は自治権を守り続ける学園の長なんだけれど。

 一度区切ってお茶に口をつける彼を見ていると、どちらなのかは区別がつかない。まあ、癖のようなものなのだろう。


「あなたに依頼したいのは、その教師の代わりです。彼の受け持つはずだったクラスで一年ほど、魔導学の授業をしてほしいのです」


 教師役……。それ自体は、別に拒否するような話でもないけれど。


「ここには代わりの教師なんて沢山いるでしょう?」

「そうですな、普通のクラスなら、いいえ、他の街にあるような学院ならば特に優秀な生徒たちを担当しても十分だろう者たちが揃っております。ただ、今回お願いする特別クラスだけは、そうもいかないのです」


 詳しく聞くと、一般のクラスに馴染めない程に飛びぬけた才能をもつ子どもたちを集めたクラスみたい。ただ優秀な程度の教師では役者不足だったというのは、結果で示された事実だったのね。その点魔女ならば優秀で表す域にはないだろうと。


「報酬は、学園の幹部陣に年間で支給する額と同額を出しましょう。いかがですかな?」


 額でいえば、十分だとは思う。Aランク向けの依頼と見ても、美味しい部類に入るとは思う。でも、一年ここで過ごすのはあまり気乗りがしない。チョコもお酒もイマイチだったし、貴族の学園という関係上、お高く留まっている人間が多いから。この国は平民を見下す貴族の方が多いからどうしてもそうなってしまうらしい。いつかの名もない村も、それで苦労していたわけだし。

 まあ、あの領地はかなり文明格差が大きい所だったけれど、特別酷いという程でもないのがこの国だ。


「残念だけれど、一年は――」

「教師なら、禁書なども含めてこの学園の蔵書全てを自由に閲覧する権利もありま――」

「引き受けます」

「――すぞ……。感謝します、『智慧の魔女』殿、ほっほ」


 アストからの視線が痛いけれど、きっと気のせい。気のせいったら気のせい


 パースバル学園長とのお茶会の三日後、彼の後ろに付いて特別クラスの教室を目指す。元々は各先生方が交代で授業を担当する予定だったとかで、魔導学の教師陣からは感謝された。私が本物の魔女と伝わっていたみたいで、握手まで求められたのは正直意外だったけれど。まあ、他からは見下すような視線や嫌悪する視線も感じられたから、どちらかと言えば彼らが特殊な部類だったのだろう。アストが威圧しないか、正直ひやひやだった。あの人たち程度では亜精霊の威圧には耐えられないから。

 そのアストも今は貸してもらっている部屋でお留守番だ。


 それは兎も角として、なるほど。確かにこれは、普通のクラスには馴染めないかな。十四歳前後で既にBランククラスの魔力量なのだから、末恐ろしい。抑えきれてはいないから操作にはまだ不安ありだけれど。いえ、年齢を考えたら十分ね。それなりの魔力察知能力じゃあDランクやCランククラスと誤認してもおかしくはない。アインスの街で教えたジント達が十六歳だったことを考えると、まさしく天賦の才を与えられた子どもたちね。


「五人も良く集まりましたね、こんな子たちが」

「今年は特別多いですな。一人もいない年の方が多いですから」


 まあ、そうでしょうね。うん? そうよね、五人よね。気配は四つしかない。私の探知能力を超える子がいる……?

 教室に入ってみれば分かるわね。もうすぐみたいだし、って、やんちゃな子たちみたいね?



読了感謝です。

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