紙飛行機
「ねえパパ。紙飛行機ってどうやって作るの。」
「……なんだ、翔太は紙飛行機の作り方も知らんのか。」
「知ってるよぉ。でも、うまく飛ばないんだ。だから、ママに聞いたら、パパならすっごくよく飛ぶ飛行機を作れる、って言ったから。」
「(あの女……。)分かったよ、作ってあげるからパパに折り紙を頂戴。」
八月下旬。俺は、離婚届にサインをした。
あいつは、悲しそうな笑みを紅い唇の端に浮かべて、俺のことをちらりと、そして翔太を見つめ、「親権は私がもらうわね。」と呟いた。俺は何も言えなかった。
「パパまだー?」
「もうちょっとだって。」
「さっきから、何回も言ってるよー。」
「だから、今度こそ。……ほーら出来た。」
「飛ぶのー?」
「……。」
正直、翔太ともう会えなくなるのは嫌だ。俺だって、一端の親である。自分の子どもと会えないなんて仕打ち、この世界にあるどんな苦しみよりも辛いのだ。
それでも、別れを選んだのは、やはり俺に非があるから、そう認めたから。
ごめんな、翔太。
「……飛ばない。」
「……。」
翔太は、むっとした表情で青い空を見つめる。
白い紙飛行機は、地に堕ちたまま。
「翔太ー。」
「……ママだ。」
「……。」
「パパァ……。」
翔太が、悲しそうに俺のことを見る。
俺は、紙飛行機を睨む。
「……飛ばないもんは飛ばないんだよ、翔太。もう時間だよ、ほら。ママも呼んでる。行きなさい。」
「……。」
精一杯の強がりで、親らしさを見せ付ける。
翔太は、むくれた表情のままじっと己の影を見つめ、立ち尽くす。
「翔太。」
「嫌だ。」
「……翔太!」
頼むよ。
俺だって別れたくないんだ、君と。
「……。」
「翔太……ママが待ってる。」
「……。」
翔太は、何も言わずに俺から離れていった。
その夜。
俺は、こっそりとインターネットで紙飛行機について調べた。
そして、何度も試行錯誤を繰り返し、一番出来のいい紙飛行機をポケットに忍ばせ。ついでに、作り方を載せたメモも。
家を出た。
君に会いたいが一心で。
君と遊びたいが一心で。
俺は、あいつと翔太の新居へ。
紙飛行機はポストへ。
いつか、空気を裂いて空を仰ぐ日を夢見て。
翔太の喜ぶ声を耳に、俺は空を仰ぎ見ながら帰路へつく。