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令和ちゃん

4年目の後輩

作者: 湯西川川治

「先輩、もう半袖ですか?」

「令和ちゃんこそ。4月にしては暑いからね」

「こないだすごく寒くしちゃったので、そのお詫びなんですよ!」

 目の前の後輩は、燦々と照りつける太陽にも負けないような明るい顔で胸を張った。

「春なのに冬みたいにしてー、って怒られちゃったので、あったかくしてみました」

「春通り越して夏になってる気がするんだけど」

 3月なのに東京に雪を降らせるような気温調整をして、後輩も先輩である自分も大目玉を喰らったのは確かだ。とはいえ、4月に夏日にしろと言っているわけではない。

「寒いよりかは暖かいほうがいいと思いませんか?」

「そりゃそうだけど」

 寒いと寂しくなったり悲しくなったりするのは確かだけれど、暖かくするにしても適切なタイミングと温度設定というものがあるだろう。

「しかも、これくらいの暑さだったら冷房使わないでしょうから電気も節約できます」

 後輩は寒くした時に電気が足りなくなって相当絞られたのを根に持っているらしい。天然かと思ったらその辺りを念頭に置いているところを感じ取り、無邪気に台風を呼び込んでいた無邪気な後輩の成長を感じて少しだけ頬が緩んだ。

 後輩も4年目に突入した。自分からの引き継ぎもあらかた済んで、自分で四季をコントロールすることができるようになっていた。ただ、季節の変わり目は弱いようで、その季節にないような寒暖とその差を生み出すことになってしまっている。その度に怒られているのだが、それが後輩自身の意思なのか特性なのかは相変わらずよくわからない。

 後輩の笑顔に罪はないし、その少しポンコツなところも愛されるくらいのキャラクターになってきているので、それはそれで好ましいことではあるのだけれども。

「ああ!」

 後輩がいきなり叫んで、顔を向けると、目を潤ませて自分に何かを訴えようとしていた。

「桜が散って葉桜になっちゃってます!」

 桜の木の様子を見て、後輩は肩を落としていた。数日前まで薄桃色の花を爛漫と咲かせていたそれに、今は緑が混ざっていた。

「そりゃこんなに気温を上げればそうなるよ」

「お花見したかったのに……」

 シュンと肩をすぼめる後輩。確かにこの時期は繁忙期であるから、桜を咲かせる気温にはできるけど、お花見をする余裕はない。自分は目を細めて、後輩の肩をポンと叩いた。

「葉桜もきれいなものだよ。ほら、桜餅と柏餅用意して出かけるよ」

 餅という単語を聞いた後輩は、さっきと正反対に目を輝かせた。

「はい! 甘酒も持ってきますね!」

 すっかり気を取り直して、甘酒を取りに行った。その姿を見ながら、やれやれ、と呟いて電子タバコのスイッチを入れる。葉桜が新緑になっても、この子に5月病はないな、と思った。

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