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配役、ズレてませんか? ~ とある婚約破棄 ~

作者: 晶良 香奈

設定ゆるっゆるです。それでも許せる方、どうぞ。

 今日は栄えあるアランドール貴族学園の卒業記念パーティ。卒業生はこれで成人となり、社交界へのデビューをしていく。在校生は自分の時のパーティを想像しつつ、先輩一同から貴族としてのたしなみや振る舞いを実践で見せてもらう。貴族として、国家の一員として恥ずかしくない人間だという事を内外に見せる場なのだ。


 だというのに、この人は一体何を考えているのだろうか。


「この場において宣言する! 私、マルキス・フォン・ワンゲランはユーリア・レシントンとの婚約を破棄し、ミリアリア・ジェランディンと婚約を結ぶ!」

 …………まあ、分かってはいたことだけれど。


 でもね。


 普通、悪役令嬢って公爵とか侯爵とか、爵位が高いはず、だよね?

 私、ユーリア・レシントンは男爵令嬢。ミリアリア・ジェランディン様は侯爵令嬢。ついでに言えば、マルキス・フォン・ワンゲランはここワンゲラン王国の第2王子。

 これ、ずぇったいに配役間違えてる。


 だいたい男爵令嬢ごときが、次期国王ではないにしても王族と婚約するなんて、どう考えてもおかしくない?


 おまけに……


「ああ! 素敵ですわ、マルキス様ぁっ! ワタクシの王子様ですわぁ!」


 ……ああた、侯爵令嬢でしょうが。話し方のマナー講習受けてないの?

 侯爵家のしつけがどうなってるのか、そこを問題にしたいんだけど!

 あ。侯爵家の奥様、倒れた。侯爵様は……頭抱えてる。


 なるほど。矯正ができなかった、と。


 この国、大丈夫かしら?


「おお、我が最愛のミリアリア! 今こそ間違いは正された! これで正当な王家の血がつながるのだ!」


 あのさ。


 そう言うならなぜ私が婚約者だったのか、胸に手を当てて考えてみなさいよ。

 元々貴方の強引な求愛が原因だと分かって…いえ、おぼえてる?


 今をさかのぼる事、10年前。

 建国記念祭のパーティ会場で、それぞれの爵位ごとに固まって歓談していた中。

 男爵家の令息令嬢が集まる一画に飛び込んできて、私の手をひっつかみ。

『ボ、ボクのお嫁さんに来てくれ!』と、大音声に(のたま)わったのは貴方ですが?


 大体、王家の人間が8歳を過ぎてなお婚約者候補もいないという事態をどう考えていたんでしょう? 本来なら生まれた直後にでも決まるくらいなのに。


 殿下のおつむは、普通より多少上。礼儀はとちってばかりで進まないし、貴族名簿は最初から覚える気ゼロ。そうかといって身体を鍛えるのは王族らしくないと逃げ出し、乗馬に至っては馬にまで馬鹿にされるへっぴり腰で。


 要するに、問題児なんですよ、殿下は。その問題児が選んだのは男爵令嬢の私。

 王族の間では狂喜乱舞されたと伺っていますが……臣籍降下させる十分な理由になるから。


 吹けば飛ぶような男爵家ならこれ以上ない物件なんだそうで。


 男爵家へのメリット、全然ないよね?


 それでも、遥か格上からの打診を断ることは不可能だから、泣く泣く受けたの、うちの両親も私も。


 さすがに気がとがめたか、国王陛下の鶴の一声で、我が家への補償が決まりました。所領地やら農地開拓のための資金やら。


 及ばずながら私も、王子妃となるための勉強を精一杯頑張ってきたのに。

 ええ、男爵クラスと王子妃クラスの勉強って、雪山と峡谷の底くらいの差があるのよ。

 人格破壊で笑いだしたり、人間やめます、と窓を開けて何度叫んだことか。領地の人たちときたら、今月は何回壊れたかで賭けまでしてたんですって。


 男爵令嬢にもなけなしの意地がありますからね。必死に食らいつき……コホン、頑張りました。それもこれも殿下に恥をかかせまいと思えばこそなのに……。


 そう思えるくらいには、好きだったの、殿下の事。


 で・す・が。


 これはもう愛想が尽きました。ここまで来ると。


「殿下。婚約破棄とのことですが。それは陛下もご存じですか?」

「問題ないっ! この後、私直々に父上へ申し上げるだけだ!」

「という事は、まだお話していない、と……?」

「当然だ! お前に現実を突きつけて絶望させてからだからなっ!」


 ……現実みてないのは殿下だと思うのですが。


「それに、お前は最愛のミリアに嫌がらせをしていたそうだなっ。この性悪女め!」

「……嫌がらせ、とは、どのような?」

「ミリアに嫌味を言ったり、教科書を破いたり、ドレスに水を掛けたりだ! 挙句に、階段から突き落としたそうじゃないか! ミリアに何かあったらどうするつもりだったんだ!」


「…………殿下。今おっしゃったこと、何一つ覚えがないんですが」


「お、お前はいつもそうやって……!」


「私は男爵クラスで、ジェランディン様は侯爵クラスです。座学も実技も一緒にはなりませんし、内容も全く違います。時間すら違うのにどうやって教室へ行けるんですか? 第一、私自身はジェランディン様にご挨拶したことさえありません。ここでお会いしたのが最初です」


「な、な、な……」


「たとえ殿下の婚約者と言えども、男爵令嬢でしかない私から声をかけることはできません。そのことはここにおいでのどなたにお尋ねいただいても同じ答えだと思いますが?」


「そうやっていつもワタクシをいじめるんですのね、あなたはっ!」

「何をお聞きになっていらしたんですか、ジェランディン様? 言葉を交わしたのはここが最初ですよ? ついでに顔を合わせたのもです。私の学友にジェランディン様のような特徴的な方はいらっしゃいませんから」


 そう言って、かの侯爵令嬢を見る。令嬢は豪奢に結い上げた()()()()()()()()()をぶるぶると震わせて私をにらんでる。


 そう、金ではなく桃色の強い髪なのだ。

 で、私はホワイトゴールド。光に透かすと銀色にきらめく、淡い色だ。


 ていうか。


 侯爵令嬢、ヒロインですか?


 私が悪役令嬢?


 やっぱり配役、ズレッズレ~ではないだろうか……。


「何をしておる!」


 お、ようやく陛下のお出ましみたいね。


 誰もが最上級の礼を取る中、ずんずんと進んできた陛下が最初にやったのは。


「このっ、大バカ者ぉっ!!」


 マルキス殿下の脳天にごっつい拳固をぶちかますことだった。


「おぐおぉぉっっ~~!」

「マルキス様ぁっ、しっかりなさって! ひどいですわっ、お義父様っ!」


「!! ジェランディン侯爵っ! この娘を放し飼いにするでないっ! さっさと連れて行かんかぁっ!!」


 え、仮にも侯爵令嬢を捕まえてあの言い方はないでしょう?


 侯爵様も、ムッとした顔をなさってますが……ため息をついて侍従に指示していますね。あのような言われ方をしても仕方ないようなナニカをやらかしているようです、あの令嬢は。


 で、次に私を見て。


「すまなかった」


 ちょ、ちょおおぉっとっ! 

「へ、陛下っ! 頭をっ、お上げくださいませっ!」

 思わず土下座しそうになりましたよ、私。

 ……転生前の知識があるとおかしなことをしちゃいますね。気をつけねば。


 姿勢を正し、最上級の礼…両膝を床に着くぐらいに曲げてカーテシー…をとる。


「殿下の要望、確かに承りました。婚約破棄の件、お受けいたします」

「なっ、ユーリア嬢! それはっ!」

「このような公の場において、王家の方が発言なされる、その重みに従わせていただきます。これまでのご厚情に深く感謝いたします」


 みんなが知ってるから撤回できないでしょ? と言外に匂わせる。

 反論できずに、黙り込む国王。


「至らぬ身を猛省し、この場より領地へ引きこもることといたします。今後お耳を汚すこと無きよう処しますので、お気遣いは一切無用にございます」


 領地へ帰って出てこないよ~、縁を切らせてもらうねっ、と告げる。


「失礼させていただきます、陛下。領地より陛下の御代、お祈り申し上げます」


 う~ん、最後に嫌味が入ってしまった。仕方ないよね?

 それともう一つやっておかねば。男爵令嬢から言うのはおこがましいけど、まあ、元王子妃の最後の仕事と割り切りましょうか。


 会場の皆様に礼をして。

「皆様、晴れがましいこの席にてお騒がせいたしましたこと深くお詫び申し上げます。すぐに退場いたしますのでご寛恕くださいませ。これからの皆様に輝かしき未来あれと、遠く領地より祈らせていただきます」


 再度カーテシーをして、退場。

 おお、皆様が動いて目の前に道ができる。すっごいカ・イ・カ・ン♪


 馬車のところで家族と合流し、屋敷へ戻る。そのまま私は領地へまっしぐら。

 だって、ぐずぐずしてたら足止めされるかもしれないしね。

 辺境暮らしの行動力、なめるんじゃないわよ。馬だって乗りこなせるんだから。


 でも、ああ。これでやっと自由になったわ・・・っ!



  ※  ※  ※  ※  ※  ※  




 あの後。会場で陛下がもう一度マルキス殿下を殴りつけ、引きずって退場されてから通常の進行に戻られたとか。済まぬ、学園の皆様。


 殿下が言い立てた「苛め」についてはすべてがミリアリア・ジェランディン侯爵令嬢の自作自演であることが判明。階段突き落としでは、風魔法でふわっと飛び降り、それらしく繕っただけだと分かると、再度陛下の怒りが爆発、殿下の頭にこぶが増えたとかなんとか。


 ミリアリア・ジェランディン侯爵令嬢は戒律の厳しい修道院へ送られたそうだけど、数日後に送り返されたそう。冷静沈着な院長が発狂寸前の取り乱した様子で王宮に駆け込んで直訴したんだとか。『神の手にも負えない羊が居たとはっ!』などと伝わってきたけど……何やったんですか、侯爵令嬢サマ?


 侯爵家からは我が家に謝罪の手紙と品物が山のように届けられたんだけど、お父様がお断りしたと言っていたわ。それもいい笑顔で。


 我が家にとっては婚約破棄以上の吉事ってないんですもの。

 10年間背負ってきた荷物がなくなればうれしいでしょ?


「で、だ。お前は何をしているのかな、我が娘よ?」

「あらお父様、いつの間に。腕が鈍っていないか確認してますの」

 ええ、今の私は右手にウィップ、左手に杖を持って臨戦態勢。服装もそこらの冒険者と同様の格好で出かける準備は万端。


「腕が、って、お前、なあ……」

「2年間留守にしていたら、ウサギとたぬきとイノシシが畑を荒らしに来たみたいで。村の方から嘆願が上がってきましたから、ちょっと出かけてきます」

「ウサギとたぬきとイノシシ……」

「王都へ行く前に頑張って減らしたんですけど、やっぱり本職には勝てませんわね~」

「いやいや、十分に勝ってると思うぞ、父は」


 ウサギはホーンラビット。額の真ん中にある角で飛び掛かり突き刺してくる。たぬきはファングラクーン。丸っこい体でよちよち歩くが、侮って近寄ると素早く振り返って鋭い牙を立ててくる。ラッシュボアに至っては頑丈な体で体当たり攻撃を仕掛け、敵がよろけたところを牙でひっかけて空高く放り上げる、始末に負えない戦法で向かってくるのだ。


「確か、お前はそいつらを10匹単位で狩っていなかったかな?」

「ええ、ウサギはまだしも、たぬきもイノシシも群れで動きますから。遭遇したら殲滅するのが基本ですわ」

「殲滅、とな……はぁ、これが男爵令嬢のやることか」

「領民を守るのは貴族の責務ですよね」

「……本音は?」

「王都で荒れた心を癒やすのです」

「ストレス発散の間違いだろっ、それ!」

「そうとも言う、かも」

「…………」

「行ってまいります、お父様。今夜のメニューに期待していてくださいませ」

「そこだけ丁寧に言われても……」


 何を言ってるんでしょうか、お父様は。領地では魔獣狩りができて一人前の主婦なのよ。家族のおなかを満たすために、お隣のホリーおばさんも、向かいのネイリクおばさまも、そりゃ見事にしとめてくるんですから。


 この時魔獣を狩っている私を見かけた辺境伯が興味をもち、あれやこれやと近づいてきたり。


『僕を捨てないでぇ!』とマルキス殿下が泣きついてきて鬱陶しかったりするのだが、それはまた別のお話ですね。




定番の設定を逆にしてみました。主人公の言葉遣いも滅茶苦茶になってます。

本人が荒れまくってるせいですね(笑)

一応転生者ですが、記憶が穴だらけなので言及してません。

単発ですので、後日談は皆様の想像力で埋めてくださいね。

10/28 一部修正&加筆済みです。後で追加した分が無かったので慌てました^^;

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