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銀幕紙芝居 〜猫たちの時間6〜  作者: segakiyui
1.夢
5/48

5

 嫌になるほどの五月晴れだ。

「あら…」

「ま……ふふっ」

「くふっ」

 通りを歩くと周囲の視線が下半身に集まってかなり痛い。

 確かに、食堂に座る時に高野が上品に眉を潜めてみせたぐらいには薄汚れているし、毛玉みたいなのもついてるし、よれよれのトレパンで、往来には不向きだと知っている、知っているが他に履くものがなくて買えないんだし仕方ないだろそこ。

「…」

 それでも半眼になって眉を寄せながらひたすら歩き、何とかお由宇の家へ辿り着いた。

「…お由宇〜」

「はぁい……あら、志郎」

 ざっくりしたサマーセーター、膝丈のスカートで出て来たお由宇は、俺の風体に構った様子もなくにっこりと笑った。

「お久しぶり。ドイツではいろいろあったらしいわね」

「は?」

 思わずぎょっとした。

「誰から聞いた? どこまで聞いた?」

「え? さあね」

「さあねって何だよさあねって」

「お入りなさい、お腹空いてない?」

 曖昧な微笑で背中を向けられ誘われて、慌てて靴を脱いで上がり込む。

「あの時関わったのってあっちの警察メインだぞ? 朝倉が話すわけないし、海部から情報来るわけないし、どっから何を聞いたんだよ」

「いろいろ派手にあったそうじゃない。海部運輸に警察が関わってたの、じゃあ朋子さんが亡くなったのは事故なんかじゃなかったのね」

「あ」

 肩越しに薄く微笑まれて気づく。

 ドイツへ観光旅行、そこまでは知られていても、連続殺人事件だの、俺も周一郎も危機一髪だの、そんなこんなをお由宇が知っているわけがない。

「カマかけたな」

 なるほどこうやってお由宇はあちこちから情報を引きずり出してくるのかと、ちょっと安心しかけた矢先、くるりと振り向いたお由宇が微笑みながら可愛らしく覗き込んで囁いた。

「『二度咲きバラ』城の女主人には会った?」

「おおおおお由宇?」

 何でそこまでって、いや何をいったい言い出すんだお前、と口ごもりかけると、その笑顔のまま、

「脱いで」

「は?」

「脱・い・で?」

「はあああ???」

「そのトレパン」

「えええっ」

「下着履いてないの?」

「履いてるよ、履いてるに決まってる絶対履いてる!」

「じゃいいでしょ、洗濯しておいてあげるから」

 微笑みとともに、さすがに武士の情けという奴か、ガウンを渡された。

「…」

 いつもいつも思うんだが、お由宇は一人暮らしのはずだが、このジャストサイズの男物が出てくるのはどう考えるべきだろう。田舎に居る親が出て来たとき用? いやそもそも、お由宇の所に娘を心配してやってくる親というのが想像出来ない。

 まじまじとガウンを眺めていると、お由宇がなおも笑みを深めて促す。

「は・や・く」

「……どうも」

 本当ならきっとここはもっと色っぽい展開を期待していいはずだろうなあと溜め息をつきながらガウンを羽織り、トレパンを脱いだ。俺だから色っぽい展開にならないのか、それとも俺以外なら色っぽい展開になるのか……同じことか。

「頼む」「はい」

 お由宇はさっさとトレパンを持って消え、戻って来た時には熱いコーヒーを持ってきてくれていた。

「どうぞ」

「ん、すまん」

 受け取ってソファに腰を降ろす。

「周一郎の方はどう?」

「……お前ってテレパス?」

「さあ」

「またさあかよ、って、さあってとぼける必要がある方が気になるな!」

「うまくいってるみたいね、その様子だと」

 さらりと流され、心中を言い当てられて穏やかじゃなかったが、うまくしゃべれない部分でもあるからテレパスであってくれた方がいいのかも知れない、と思い直した。

「まあ、そうだけど……ドイツでは結構素直だったんだよ。けど、なんかこう、最近、また素直じゃなくなってきたんだよなあ」

「ふうん?」

 お由宇は小首を傾げる。

「素直な周一郎がいいわけ」

「そういうわけじゃないが」

 里岡直樹を思い出して複雑な気分になった。

「ただあいつが無理してるんじゃないかと思って」


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