表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀幕紙芝居 〜猫たちの時間6〜  作者: segakiyui
5.罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/48

6

「…志郎?」

「んー?」

「わかってるとは思うけど」

 お由宇がのんびりと続けた。

「それ、お醤油よ?」「げ」

 ぎょっとして我に返り、醤油塗れで黒くなったベーコンエッグにうろたえる。

「わっわっ」

「自分でやったんだから、自分で食べてね」

「はい……すまん、飯もう少しくれ」

「はい」

 追加された白飯を醤油漬けのベーコンエッグに入れ、ぐちゃぐちゃかき混ぜつつ溜め息をつく。

 お由宇がくすりと笑った。

「?」

「そんなに気になるんなら、飛び出してこなきゃよかったのに」

 思わず固まった。

「わかるわよ、あからさまだもの」

 お由宇が食後のコーヒーを楽しみながら目を細める。

「昨日が洗濯機に靴も一緒に入れて回したでしょ。一昨日はカレーにドレッシングかけてたし、その前は本棚を倒して、片付けてくれたけど全部逆さまに入れたわよね」

「…はい、その通りですごめんなさい」

 小さくなって謝った。

 自分でもここ数日間のドジはひどい有様で、まずいとは思いつつもどうにも『改善』に気が回らない。

「様子を見てきたいんでしょ?」

「お、俺はっ」

 反論しかけて、心得顔に笑っているお由宇に覇気がしぼむ。

「…行けるわけねえだろ」

 唸った。

「せっかくカッコよく出てきたんだぞ? おまけにあいつは俺が邪魔だって言うんだぞ? 恩も忘れて」

 言い放ってしまってから、そりゃ恩なんて言うほど大層なものじゃなかったけれど、ドイツであいつを助けたのは確かに俺だし、それ意外でも多少は役に立ったこともあるはずで、と付け加える。

 もうちょっと言い方ってものがあるだろうに。たとえば、今いろいろややこしくなってきたから、ちょっと距離を置きたいとか。ごたごたしてるから、できれば数日家を空けてほしいとか……倦怠期の恋人か。

「ううう」

 どう考えても俺の方が拘りすぎだとわかっている。

 周一郎だって小さな子どもじゃあるまいし、ましてや朝倉財閥を統轄しているのは事実上あいつだし、俺の人生経験値より遥かに遥かにあいつの方が上だし。

 朝倉家を出てから、既に4日。

 その後、周一郎からのアクションは一切ない。

「……けど…ちょっと、何か変だったんだよなあ…」

 かき混ぜたベーコン卵入り醤油ご飯をもぐもぐしながら、考え込む。

「妙に印象がちぐはぐで……」

 周一郎の顔を思い返す。英をパートナーとして選び、俺を放置するというか遠ざける動きをしながら、繰り返し繰り返し俺に近づいてくる。猫の目のようにくるくる雰囲気が入れ替わる、嘲り、突っ張り、冷淡、ためらい、不安、優しさ、はねつけ、寂しさ、虚ろさ……そして、硬直。

「…何だろうなあ……」

 ぶん殴られて倒れていた間に聞こえた不安そうな頼りなげな声。滝さん、滝さん。繰り返し呼ぶ声に行かないでくれと聞いたのは、俺の独りよがりだったのか。俺の部屋では眠れたと話した不思議そうな顔、ノックをしかけてためらっていた部屋の前のしょんぼりした背中、それらまで芝居とはどうしても思えない俺は、やっぱりどこまでいっても甘いだけなのか。

 けれど。

 けれど、なあ。

「ええいくそ!」

 醤油浸しトマトのびちゃびちゃの最後の一滴まで口に放り込み、茶を呑み下してごちそうさまと手を合わせ、ソファの上にひっくり返った、そのとたん、

 リリンッ、リリリリリンッ!

「うわっ…ひえっ!」

 跳ね起きて、ソファから転げ落ちる。

「はい、佐野でございます……ああ」

 受話器を取ったお由宇の目が光った。

「そう、動いたの。わかったわ、20分後にそっちへ行く」

「何だ?」

 のそのそと床から体を起こすと、お由宇が微笑んで尋ねてきた。

「網にかかったらしいけど、一緒に行く?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ