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銀幕紙芝居 〜猫たちの時間6〜  作者: segakiyui
3.猫

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4

 とにかく、どこがどう納屋教授に気に入らないのかよくわからない。やり直しの三回目、論旨とか構成じゃなくて、何が気に入らないのかと考えている時点で、本質を見失っているような気もする。

 あれやこれやと考えを広げていると、否応なく疲れて集中力が落ちてくる。ぼんやりしてくる頭の中に浮かんでくるのは、やっぱり百合香とタジック社と英と周一郎という、繋がっているようで繋がっていない、結びついていそうで結びついていない組み合わせだ。

(百合香はタジック社から逃げてる。英はタジック社からやってきている。周一郎はタジック社と組むつもりだ。だから、共通項はタジック社、これは間違いないはずだ)

 じゃあタジック社は何をやろうとしている? 周一郎は英と組んで何をしようとしている? 周一郎はなぜ百合香を追おうとしている? 百合香は……百合香は…。

「!」

 違う違う違う! そういうことじゃなくて今はレポートをだなあ!

 頭の中で大きく首を振って始めからやり直し、いつの間にかまた同じように百合香のことや英のことや周一郎のことを考えてしまい……そういう無駄な努力を半時間ほど続けた後、ついにレポートを書くのを諦めた。

 こうなったら、先に周一郎になぞなぞの答を聞いた方が賢そうだ。

「…なあ、周一ろ…」

 振り向きながら声をかけて途中で呑み込む。

「……何なんだ、本当に」

 壁にもたれたまま寝入ってしまったのだろう、周一郎はそのまま壁をずり落ちて、ベッドの上ですやすやと安らかな寝息を立てている。

「あーあ、サングラスしたままで…」

 ぼやきながら手を伸ばし、そっとサングラスを引っ張ると、周一郎は小さく呻いて顔を背けた…が、目覚める気配もない。

(疲れてるみたいだな、やっぱり)

 緊張が解けたせいか、幼い顔になっている周一郎を覗き込んでいると、ことことと小さな音がした。振り向くと、ルトがガラスに爪をたてている。

「よーし、ほら」

 窓を開けると、ルトは軽い足音をたてて走り込んで来て、その勢いのままベッドに飛び乗った。そのまま、ご主人の側にいるのは当然とばかりに体を丸め、気持ち良さそうに寝息をたてている周一郎の腕の中に潜り込む。

「…おい? じゃ何か、俺は別の所で寝ろってか」

「なん」

 やっぱりこれも当然のようにルトが鳴いた。

「主人に似ていい根性してるよな、ほんと」

 呆れ返りながら窓を閉め、溜め息まじりの部屋の中を見回す。なるほど、ソファの側近くが比較的片付けやすそうだ。

「はいはいそうすりゃいいんだろ、そうすりゃ」

 ベッドの上に残っているルーズリーフを片付け、周一郎の体に上掛けを引っ張り上げる。

 明日になったらどうして起こさなかったと怒るだろうが、一度自分の寝顔を見るといい。普段の周一郎を知る誰が見ても、この眠りを妨げたくないと思うはずだ、ほっとしたような、悲しみに疲れ果てて気を失ったような、そんな妙に頼りない表情だから。

 明かりを消し、俺は床にごろりと横になった。目を閉じようとすると、ふ、と吐息がかかってびっくりする。

「な…んだ、お前か」

 周一郎の側に居たはずのルトが、いつの間にか間近に降りてきている。

「なう」

「ご主人は放っといていいのか?」

「な」

 すり寄ってくるルトは喉をごろごろと鳴らしている。顔に頭を擦りつけ、そのままするすると右懐に潜り込んできた。

「勝手な奴」

 苦笑した。

「お前も周一郎もな。気に入った時しか、こっちには来ないしな」

「にゃ…」

 珍しくしゅんとしたような声でルトが応じる。

「…まあ、それでもいいけど」

 呟きながら、自分の甘さに呆れる。なのに、そのすぐ内側で考えていた。

 追い詰められた時ぐらいは俺のことを思い出してくれよ。いつだって、お前に対する友情? みたいなものには変わりがないんだ。お前は十分しんどい思いをしてきた、きっと俺が想像もつかない深さと冷たさの中で。もういい加減、楽になって報われて、ちょっとはこの世界も捨てたもんじゃないと思っていい頃だろ? 自分はここで生きていて良かったと、これからもっと楽しいことがあるかもしれないと、そんな風に感じていいはずだよな?

 ちらりとベッドの上を盗み見た、つもりだった。

 けれど何が見えたかを意識する前に、俺はルトがくれた柔らかくて温かい眠りに誘われていった。


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