二
ある日の授業のことでした。
課題として、和紙を使ってのランプづくりが出されました。
先生のランプは十分売りに出せそうな、いや売り物よりも素晴らしい味を出していました。形は言葉では表現しにくいのですが、揚げ上がった餅の様でした。それがまた、和紙の良さを最大限に引き出していたと思います。
僕は、比較的美術には自信があって(根拠はないのですが)、デザインもパッと浮かびました。
竹をモチーフにして、明かりを灯すと中にお姫様の繭人形が浮かび上がる、そんなランプをデザインしました。
そして他の皆がどうしようか迷っている中、これは良い物が作れるぞ、と思っていたらふと後ろから声を掛けられたのです。
「もうデザイン決まったのか」
「あっ、は、はい」
「どれ」
そう言って先生が僕のデザイン画を後ろから覗きこんで来ました。
僕はたじろぎました。とても緊張したのを覚えています。
「考えたな」
「は、はい」
「デザインはこのままで良いと思うけど、ただこの串棒を板に指すのは大変だぞ。テープで固定した方が良い」
「あっ、…はい。ありがとうございます。」
先生はうん、と頷くと、他の生徒の所へ行きました。
たったそれだけのこと、と思う人もいるかもしれませんが、僕にとっては大事件なのでした。
僕の通っていた高校は、所謂“マンモス校”でした。
全校生徒数1800人。
当時僕の学年は18クラス。その内、先生は9クラスも美術を担当していました。
だから、先生は特定の生徒の名前しか覚えていないと思っていました。
実際、僕は名前を呼ばれたことは無いし、その前に先生と会話を交わす事も全くと言って良いほどありませんでした。
それだけに、先生にアドバイスを貰えたことが本当に嬉しかったのです。
二週間程して、授業でのランプづくりも終わりました。
あの日以来、先生からアドバイスらしいアドバイスは貰えませんでした。
でも、僕には充分でした。
先生に一度でも気に留めて貰えた。
只それだけで、良かったのです。
完成したランプは皆から好評でした。
先生のお陰です。