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幸福の女神  作者: 熊谷 駿
[1章] ~~探索編~~
8/10

神の奇跡

前話と比べ今回は気持ち長くなっています。


あれから少しして、俺が従業員の子の肩を借りてホールまで行くと、既に料理が机に並んでいた。

部屋はまだ散らかった物が端に寄せられており、壁は所どころに傷があり、生々しい戦いの痕跡が一部残っている。昨日の夜の食事の時からしたらだいぶ客が減っただろうか?


「まだ散らかっててすまないね、なんせ人手が足りてなくてね

片づけに宿の修理に、まだまだ時間が掛かっちまいそうだ」


女将さんが苦笑いする、というのもどうもフェレ以外にも働けなくなってしまった従業員もいるらしい、騒動が起きてすぐに戦うことが出来ない子は女将さんの采配で逃げだしたそうだが、フェレだけは違ったらしく2人で宿屋(ここ)を護ろうとしていたらしい。

無事だった他の従業員は騒動が収まるとここに戻ってきたが、フェレの死を知って何人かの心が折れてしまったそうだ。


「おねぇちゃああああん…嫌だよぉ…」


ホールにまで鳴き声が聞こえてくる。辺りを見ると食事が並ぶホールの中の雰囲気がお通夜のようになっていた。まぁ確かに人が亡くなったという時に和気あいあいと食事がとれる人がいるなら会ってみたいものだ。

ふとホールの奥で泣いていた子が俺の方にいきなり走ってきたと思いきや、今度は俺に泣きついて叩いてきた。


「なんでおねぇちゃんを守ってくれなかったの!

たった一人の家族なのに!!」

「およし! 

この人だって必死に動いてくれたんだ

それに悲しいのはアンタだけじゃないんだよ!」


ふと見上げると女将さんの目にも大粒の涙が溢れていた。

彼女(フェレ)がここでどういう待遇で働いていたのかが分からないが、少なくとも愛されていたようだ。


「泣くんじゃないよ、いつまでも泣いてたらあの子だって報われないじゃないか」


女将さんも涙を溢さないように必死だというのは見るまでもない。

だが泣いていた従業員の子は更に泣きわめく、俺より若そうだしきっと人の死に直面したことがないのだろう。家族を2人亡くしたことのある俺なら、その気持ちが共感出来た。


「フェレに最後のお別れを言っておいで、もうすぐ埋葬してやるよ」


どうやらこちらの世界には葬式という文化は無く、また火葬ではなく土葬が通常であるらしい。

俺もどうも箸が進まないので女将さんと一緒に彼女に最後の別れを告げに行くことにした。


_________________________________________



宿屋から少し歩いた開けた場所、そこには今回の騒動での犠牲者の遺体が次々と運ばれてきていた。

賊だけでなく明らかに民間人であるような装いの人の遺体もある。

今回の騒動が如何に大きな被害を出したか、それが物語っていた。


「フェレ…ごめんな、護ってやれなくて

非力なやつでごめんな、次はお前みたいなやつが出ないように頑張って強くなるから」


俺は冷たくなった彼女の手を握って約束をする。

そうだ、俺がもっと強ければこんな大きな被害など出ずに済んだはずだ、俺がもっと頭を働かせてよそ者ということを隠せていればこうはならなかったはずだ、金の出る袋の存在が知られていなければ賊のやつらも食いついてこなかったに違いない。

そうだ、皆俺の失敗から来ていることだ、前世でもそうだった、智子の死、父さんの逮捕、母さんの死。後悔することしかなかった。

どうしてこう間違った道を進んでしまったのだろう、どうして不運が続くのだろう。


「もし神様が居るなら…こんな悲しい思いしなくても済んだのかもな」


あれ? 今俺はなんと?

神様?

そうだこちらの世界に来る時に聞いた謎の声と来てから気が付いた腕の焼き印のような跡、強く願えば叶う力。これさえあれば辛い思いなんてしなくなるんじゃないのか?


「そうだよ、俺にはこれがあるんじゃないか

なんで今まで気が付かなかったんだ…馬鹿か俺は…」


そして、願った。


「この騒動で亡くなったフェレや民間の人々を生き返らせてほしい」


強い気持ちで願えば願いが叶うはず、実際にここに来る途中の荷車の中でもそうだった。

だが冷たくなった彼女は起きない、彼女の遺体はそのまま土に埋められていく。


「なんで…なんでだよ、願えば叶うんじゃないのか?

頼むよ神様…俺はもう知りえた人が冷たくなる姿なんて見たくないんだ

頼むから…皆を生き返らせてくれ!」


すると左腕が急激に熱を持ち始め、痛み出した。

この痛みは過去に体験したことがある…骨折した時のような痛み、腕の焼き印の部分だけでなく、腕全体的に強烈な痛みが走る。それと同時に以前体験した時と同じような目が眩むような光がその場を覆いこんでいった。

その場にいた全員が驚き、声を荒げ、目を覆った。


「ゲホッゲホゲホ…あれ…私なんで土掛けられてるの?

ここは…?」


光が和らいだ時に聞こえたのは、もう聞こえないと思っていた声だった。

状況が理解できていない者、悪霊の仕業だと騒ぐ者、兵士に詰め寄る者など様々な人が居たが。


「フェレ…フェレなのかい?」

「そうだよお母さん!」


あれ? フェレって女将さんの娘さんなのか?

いやでも明らかに人種違うし、何か訳ありなのだろうな。

折角の感動のシーンなので無駄口は挟まないでおくことにして、そそくさと宿屋に帰る俺。

この力の事をあまり公けにも出来ないので、今は神の奇跡とか偉大なる魔法使いの仕業だとか、勝手に思い込んでくれていればいいだろう。だけどまぁ女将さんくらいには後で話すとするか。信じてもらえるかは分からないけどね。


________________________________________



「へぇ! アンタそんな力を持っていたのかい」


宿屋に戻ってきた俺は早速女将さんや他の従業員の子に詰め寄られて、どうしたもんかと悩んでいた。


「その…さっきは失礼なことを言って申し訳ございませんでした

おねぇちゃんを生き返らせてくれて本当にありがとうございます」

「やめてくれよ、あれは俺がやりたくてやったことなんだから」


さっき詰め寄ってきた子が床に頭を擦り付けて謝罪と礼をしてきた。

他の人の目もあるから出来ればすぐにでも顔を上げてほしいんだけど…


「にしてもアンタのその力、なんの制限もなく使えるのかい?」

「いえ、この腕の焼き印の数だけしか使えないみたいなんですけど、さっき使ったから…」


と腕を捲り上げて確認しようとしたら、周りからの声が悲鳴に変わった。

俺の腕、血で真っ赤に染まっていた。

あー、うん、どうりで痛いわけだ。無理な力の使い方をしたからだな…

そのまま俺はすぐさま包帯をぐるぐる巻きにされて、フェレの手によって部屋に連れ戻された。


「無理はしないでください、今回の件で貴方はこの街の皆から称えられています

今動けなくなられては困りますので」

「ちょっと待って、今この街の皆って言った?」

「そうです、こんな奇跡を起こして隠し通せるわけないでしょう?」


結局知れ渡ってしまったらしい、こんな異能の力を持ってるなんて知られたら誰に狙われるかすら分からないのに…


「そう心配することもないのではないでしょうか?」

「え? どうして?」

「今回だって結果論ではありますが、貴方のお陰で賊の撲滅に成功していますし、それに…」

「それに?」

「私は今後貴方に仕えさせて頂きます、断ることは出来ませんしさせません」


はぁ!? この子さらっと何言ってるの?

ついこの前までただの高校生だったのに、こっちの世界に来て僅か2日で人を従えてしまった。


「いくら君を蘇らせたとは言え、素性すら知れない異邦人だよ?

そんな得体の知れないやつに本気で仕えてくれるの?」


彼女は躊躇いなく首を縦に振り


「お会いしてからたった1日でしたが、貴方からは悪い匂いはしません

そればかりか、その精神に感服致しました。私が仕える理由などそれで十分だと思います」


綺麗にまるめ込まれてしまった…反論の余地がない。

彼女は座っていた俺のベッドの隣の椅子から立ち上がると…


「では明日からは私が貴方の身の回りのお世話をさせて頂きます

よろしくお願いしますね、ウーグ様」


それだけ言うと彼女は部屋から出て行ってしまった。

残された俺はしばらく茫然と彼女が出て行ったドアの方を見てしまっていた。

明日から一体どうなるのだろう…

これからどんどん仲間が増えていきます。

ようやく主人公1人じゃなくなりそうです。

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