腰を据えて
※この話から小説の書き方を少し考えながらになるので、少し違和感を感じたらすいません。
糧食を買ってからは特段どこも店を見ずに、兵士に言われた通りの西区に行くことにした。あまり油を売っていると宿を見つける前に日が暮れてしまいそうだ。
商店街ならぬ露店街が並んでいた南区から大通りを通り一度中央区に入る。
中央区は豪邸が沢山並んでおり、見上げると大きな城の一部が見えた。南区に比べると人通りは少なく住民と言うよりかは巡回の兵士の数の方が多いくらいだ。
「よう坊主、都民証は持ってるか?」
よほど怪しいと見えたのだろう、兵士の一人が声をかけてくる。俺はとりあえずさっき発行してもらった都民証を見せる、すると…
「なんだブロンズか、この辺りはあまり歩き回らない方がいいぞ
この辺りはゴールド以上の貴族たちが納めてる区画だ
面倒ごと吹っ掛けられるかもしれん」
案外優しい人だった、彼の言うにはこの辺りの貴族はよそ者や位の低い帝都民を虐げるという。
それにこの辺りには宿屋はあまりなく、あったとしても貴族御用達になっているため、やめた方がいいとのことだった。
「それと西区に行くなら気を付けておけよ
あそこは俺らの仲間ですらあまり管理が行き届いていない
それ故に街中であっても賊や盗人がうろついている程だ」
それを聞いて少しぞっとした。
盗られるようなものはあまり持っていないが…
喧嘩とか流血沙汰になると面倒だし、何しろ俺は喧嘩が嫌いだ。いや…喧嘩ではなく武器を使った一方的なことになるかもしれないな。
「西区以外にいいところは無いんですか?
北区とか東区とかはどうなんでしょう」
「北区は竜が治める国と獣人が治める国に近いからな…
一流の冒険者や傭兵しか入れないぞ。
あと東区は活火山の山脈が近くにあるからな。
火山灰が高い頻度で降ってくるし、時には岩石が飛来することもある。
そんな危険な場所だから、人が寄り付かなくて税収も高くなってんだ」
確かにこの帝都は広い、1つの区画だけで数キロある。都中を見て回るとなれば、それこそ幾日も掛かってしまうだろう。なので火山の影響も場所によりけりなのだ。
「もし行く当てに困っているならここに行くといい
俺の知り合いがやっている宿屋だが西区の中じゃ結構まともなところでな
料理の味も俺が保証してやる」
そう言ってその兵士は粗末な紙に殴り書きでメモと簡単な地図を書いてくれた。
とりあえずはここに行ってみようか。
「ありがとうございます
それとさっきから視線を感じるんですけど…」
「あー…もう目を付けられたか
その服装が原因だな、早めに変えた方がいいぞ」
そうだよな、糧食なんか買うより先に服買えばよかった…そう思いながら速足でその場を立ち去る。
しばらく西に歩き続けると一気に街の景観が変わって、とても貧相な感じの建物がいくつも見えてきた。
どうやらこの辺りからが西区らしいな。聞いた通り治安が悪そうなところだ。
「ねぇねぇお兄さん、うち寄っていかない?」
いかにも『怪しい』って感じの痩せこけた低身長の男が手を擦り合わせながら声をかけてきた。
俺は荷物を盗られないように気を付けながら無視して兵士に教えてもらった宿屋へ急ぐ。
「ねぇ無視しなくてもいいんじゃない? お兄さん」
根っからの悪人ではなさそうだが、戯言に付き合っていたらきりがない。
少しかわいそうだがここは振り返っては駄目だ。
「頼むよぉ! うちの店来てくれ、今日中に客寄せ出来ないと俺殺されるんだ!」
どんな境遇のやつなのだろうか、そこまで言われると流石に無視するのも辛くなってくる。
いや、これは俺の荷物を盗ろうとする巧妙な手段か?
しかし、後々見殺しにしたなんて言われてもな…
悩んでいると紐男とは別の大柄な男がやってきた。
「おめぇもう日暮れになるのに1人も客引き出来てねぇじゃねぇか、使えねぇやつは首を掻っ切ってやるぞ、覚悟は出来てるんだろうな」
「そ…そんな、旦那、仕方ないんですよ、この辺り人通りが少ないから」
「そんな理由で店がやっていけると思ってんのか」
大男が逆上して懐から果物ナイフを取り出した。
これはちょっとまずいかな…
「待ってください、お話だけでも聞かせてもらっていいですか?」
咄嗟に前に出る俺、これで解決すれば後味いいんだろうけどなぁ…
ナイフを突きつけられて冷や汗が出る。この大男見かけ以上に怖いやつだ…
「兄ちゃんよ、金持ってるんか? 金ないやつはさっさと失せた方が身のためだぜ」
『ザ・悪役』のようなセリフを吐いたそいつは俺をそっちのけで細身の男に手を下そうとする。
「金ならありますよ、ほら」
お金の出る小袋を傾けると沢山の2000チェルが袋からその場に落ちる。
予想と反していたからだろう、2人とも開いた口が塞がらずに金に目がいく。
「な…なぁ兄ちゃん、さっきは乱暴にして悪かった
うちの店見ていかないか、頼むよ」
大男の態度が手のひらを反すように変わり、下手に出てきた。
金とは人をここまで変えてしまうのだろうか…少々ゾっとするが今はそんなことを言ってもいられない。
「そもそも何屋さんなんですか? おっちゃんのところは」
「おっちゃん…って歳でもないが、
それはいいとして俺のところは武器や防具を作って売っているんだ
西区でも1位2位を争うくらいの腕だって言ったっていいぜ」
随分自身がありげに言う、ならなんだってそんな逼迫した状況になってるんだ…
それを聞こうとすると、おっちゃんは道端で話すのもアレだから店に来てくれないかと言ってきた。
幸いにも宿屋からそこまで離れていないようだったので少し寄ってみることにした。
「それがさ、最近は賊のやつらが動きが活発でよ
皆買っても盗られちまったりしちまうんで、買わないんだよ」
「というよりなんで賊を放置しておくんですか?
皆で潰そうとしないんですか?」
「賊を潰すと口に出すのは容易だがな、
この辺の賊って言ったら100名はくだらねぇって話なんだぜ
西区のやつらは皆戦いに関しては素人ばっかりだからな
ビビっちまって、ずっと媚売って暮らしてるってこった」
そもそもなんで賊に媚なんか売る必要あるのだろうか?
この辺りの賊はそんなに偉いのか?
その疑問に対しておっちゃんが答えてくれた
「元々ここいらには中央区から来た貴族どもが居座って高い税収を取ってたんだ
だが、ある時、その税収の高さに不満を爆発させたやつらが現れてな
それが今の賊の頭ってわけだ」
話の続きを要約すると、その賊たちは貴族をこの地から追い出して一時は平和になったと思われたそうだが、今度はその賊が横暴な態度をとるようになっていって、盗みや暴力などが日常茶飯事になったという
このことで西区の住民は帝国の兵士に助けを求めたが、そもそも税金を払っていないやつらを守る義理はないと、切って捨てられてしまったのだと。
「そいで当主が居ないまま、この地はどんどん貧しくなっていってるってわけだ」
おっちゃんの1人芝居が長くてあくびが出てしまった。そういえばこっちの世界に来てまだまともに休めていないな…早く宿屋に行って今日はゆっくりしたい。
「おっちゃんまた明日出直すわ」
「おう、ちゃんと来てくれよ」
案外簡単に解放してくれた、この手の結構めんどくさいと思っていたのだが。
武器屋を後にした俺は速足で粗末な地図に従い宿屋への道を行く、この時の俺はまだ誰かにつけられていることを知らない。
ようやく西区到達です。
次回は初戦闘になるかも???