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幸福の女神  作者: 熊谷 駿
[1章] ~~探索編~~
2/10

知らない場所

ここから探索編です


謎の声の導きにより見知らぬ場所に連れてこられる裕司

一見周りには誰も居ないようだが?

 目が見えるようになると俺は知らない草原に寝転がっていた。

 見る限り一面の草原で舗装されていない土の道がどこかへ繋がっている。

 吹き抜ける風が心地よい、少し前に感じた夕方の風とはまた違った感じだ。

 暑すぎず気持ちがいい日差しがたまらない。


「いよっと…っっ」


 起き上がろうとすると左の腕が痛んだ、冬用の制服の袖を捲り上げてみると全部ではないだろうが焼印の様な小さな黒丸がいくつかあった。

 これにどんな意味があるのかは全く分からないが、まずはそれより他の状況を確認しよう。


 見渡す限り草原で所どころに木が生えている、近くに建物などは見当たらず、人の姿もない。

 だがこのまま寝ているわけにもいかないので道に沿って歩いてみることにした。


「それにしても広くていい場所だな、走ろうかな」


 子供の頃に父さんと母さんが連れて行ってくれた、とある高原を思い出す。

 昔はよく智子と走り回ったものだ。

 しばらく道に沿って歩いていくと後ろから馬とも牛とも言えない奇妙な生き物が荷車を引っ張ってきた。

 その背には誰かが乗っている。


「おーい小僧、こんなところで何してるんだ」


 中年くらいのおっさんだ、そこそこいい体格してて黒色の短髪だ。

 俺はとりあえず粗方の経緯を話して、この世界について教えてもらうことにした。


「はっは、そんなことがあるのかい

 とりあえず目的は無いんだろ? だったら荷台に乗るがいいさ、近くの街まで乗せてってやるよ」


 このおっさんとても気前がいい、何も怪しがることなく見ず知らずの俺を荷台に乗せてくれた。

 中には根からいい人も居るものなのだろうか


「ここはフォーレン帝国の南端にある草原でな、この大陸でも有数の魔物が生息しない地域でな、

 年に数回くらい有力な貴族が護衛連れてピクニックに来るくらいで殆ど人通りなんてないさ」


 どうりで誰も居ないはずだ、しかしなんでだろう魔物が生息しない地域ならもっと人が居てもおかしくないと思うんだけど…

 そんな疑問を浮かべていると。


「なんだ小僧、人が少ない理由が知りたいか

 この辺りで一番大きな街と言えば帝国中央都市のフォーレ街だ、

 それなんだが、こことフォーレの間には巨大な活火山の山脈があるって言うのと

 その周辺にそこそこ凶悪な魔物が縄張りを持っていてな

 この荷車も強力な魔除けが無けりゃすぐ餌食さ」


 それで人が近づこうとしないのか、確かに帝都から出なければ危険が及ぶことは早々ないだろうな。

 その後も俺はおっちゃんの荷車に揺られながら、この世界の事について色々聞いた。


 この世界には()()があること、しかしそれは限られた人しか使えないこと。

 帝国は、この大きな島の南側に位置しており、北側には獣人が暮らす国と龍が支配する国があること。

 おっちゃんは直接会ったことはないが、俺の様な転生者は他にもいるらしいということ。


 でもこれだけ聞ければ当面の目標は決まったようなものだ。


「とりあえず俺以外の転生者を探して旅でもしてみようかな」

「お、旅するのかい

 でもあれだぜ小僧、最初はどこかに腰を据えて装備揃えたり、自分の身を守れるくらいの技術を付けた方がいいぜ」


 確かにそうかもしれない、この世界には日本と違って魔物がいるらしいし、日本のように一部を除いて平和とも言えないかもしれない。

 物事は慎重を期すべきだろう。

 今はこのままおっちゃんに帝都まで乗せて行ってもらおう。


「そういえば…」


 ふと腕の焼印のような黒丸を思い出した。

 突然出来ていて少し痛みもあったがなんだろうか。

 ブレザーを脱いでカッターシャツから左腕を抜いて左上半身を露出させる。

 先程は良く見えなかったが焼印は10個あった。


『目が覚めたら異端な力を手にしているでしょう、それで願いを叶え幸せになるのです』


 ここに来る前に身体が動かない時に心に聞こえてきた言葉が頭をよぎる。

 もしかしてこれのことなのか異端な力って。

 願いが叶う?

 例えば……膨大な富が欲しい! とか?


(………………)


 特段何も起こらない。

 まぁそりゃ軽く思うだけで願いが叶っちまったら、怒りに任せて(ろく)でもないこと考えた時にとんでもないことになりかねないしな。

 じゃあなんだ? 神に祈り捧げながらとか?

 少し台詞を考えた後に俺は。


「天におわします幸福の女神よ、我に膨大な富を与えたまえ」


 と呟いた。

 すると途端に俺の左腕が光を放ち始め目が眩みそうになる。

 当然の如くおっちゃんも驚き、荷車を引いている生き物は暴れだしてしまう。


「なんだなんだ!? 何が起こったんだ」


 おっちゃんが必死に暴れたそいつを宥め(なだめ)ながら俺の方を見てくる。

 俺もいきなり腕が光ったのでビックリしたが、光が収まると今まで何も持っていなかったはずの手に小袋があって俺は俺で驚いていた。


「おいおい小僧、今のなんだい、魔法かなんかか?」

「俺にもよく分からないんですけど…いっっ」


 また左腕の例の場所が痛みだした。

 見ると10個あったはずの焼印が1つ減って9個になっていた。

 ということは…これで願いが叶ったってこと?

 膨大な富を望んだが手にあるのはどう見ても薄汚い小袋だけだ。

 こんなのが膨大な富とか笑わせないで欲しい。


「あれぇ小僧お前さっきはそんな小袋持ってなかったよな」


 確かにおっちゃんの言う通りだ。

 だけど問題は中身だ、異常に軽いこの小袋にどんなものが入っているのだろうか。

 俺は小袋を開いて確認する…が。


「はぁ?」


 と思わず口に出てしまった。

 だって中には何も入ってなかったのだから。

 ため息すら出るようだ、宝石とかの1つくらい入っていればそれなりの価値で売れるだろうに。


「おーい小僧、何が入ってたんだ?」


 状況を何となく察したらしいおっちゃんが問いかけてくる。

 俺は無言で袋を傾けてみせる。

 すると何も入っていなかったはずの小袋から小さな金の延べ棒のようなものがジャラジャラと出てきたのだ。

 俺もおっちゃんも顎が外れそうなくらい驚く。

 と言っても俺にはその価値なんて分からないのだが。


「おい小僧、そんな大金どこに隠し持ってやがった!!」


 どうもおっちゃんによるとこれがこの世界における紙幣の代わりらしく、この人差し指ほどの金の延べ棒1つで現実世界で言うところの2万円くらいの価値があると言う。

 ちなみにチェルと言うのが通貨名らしい。


「にしても驚いたなぁ

 2千チェルがこんなに沢山入っていたなんてな

 もしかして小僧どこかの貴族の生まれか?」

「いえいえ違いますよ、おっちゃんにもこれ5つくらいあげますよ、沢山あるし」

「ほ…ホントにいいんか?」


 なんでもおっちゃんの月の稼ぎは多いときで3万チェルほどらしい。

 その3割ほどの額を今日あったばかりの好青年に貰ったのだ。

 そりゃあ息を飲みたくなる気もわかる。

 俺はその残ったチェルをブレザーの胸ポケットにしまうと近くの木箱に腰掛ける。

 するといきなり荷車が猛スピードで走り始めた。


「こんな大金貰ったんだ、飛ばすぜぇ!」

「飛ばすのはいいけど安全運行でお願いします!!」


 降りた時お尻が痛くなりそうだ…

次は帝都を探索します

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