不幸な現実から
ある冬の日の夕暮れ、学校帰りで特にすることもなく、見晴らしのいい丘の上にある公園で制服姿の俺は一人寂しくブランコに腰掛けている。
高校に入って3年目の冬、俺は全てを失い家に帰っても誰もいない、街を歩けばおばちゃんの小さな陰口が聞こえ、学校では友達や先生からも冷めた目で見られる。
そもそもこんなことになったのも全ての発端は2年前に起きた事件にあった。
俺の家族は元々父さん母さん妹、そして俺の4人家族だった。だが2年前に突如として妹が事件に巻き込まれ、無残に殺された。
元は父さんも母さんも居たし、口が達者な妹だって居た。
けど3年前に突如妹が帰らぬ人となった。
「なんで死んじまったんだよ、智子」
当時中学1年生であった智子は学校帰りに街はずれの歩道橋から足を滑らせて転落死してしまった。
だけどそれは表向きの話だ。
父さんが依頼した弁護士と探偵の協力により事件には裏があったことが判ったのだ。
智子は学校帰りに何者かに連れ去られ、恥辱された後に歩道橋から突き落とされたのだと。
だが弁護士は動いてくれなかった、その智子を殺したのが、この都市を陰で操る情報屋であり、各業界の有名人もヤツの傀儡と化していたからだ。
父さんは弁護士から断られると、一人でヤツの事務所に殴り込みに行った。
結果として父さんは暴行の罪で捕まってしまった。裁判も開かれず刑務所に入れられたのだ。
「帰るか…」
立て続けに家族を失った母さんは気が滅入ってしまったのか、数日後に首を吊って自殺してしまった。
残された俺は無念と怒り、その他諸々の感情がこみ上げたが、すぐに軽い鬱状態になってしまった。
それからは多少なりとも責任を感じたのか、父さんの依頼を受けていた弁護士や親戚のおばちゃん等の助力もあり何とか生きているというわけだ。
「ここからならおばちゃん家に寄ってから帰ってもいいかもな」
おばちゃんは母さんの姉にあたる人物で既婚者ではあるがこの時間であれば旦那さんは帰ってきていないので俺の話に付き合ってくれたりしている。
と言ってもそんな話すこともないのだが、家に帰ってもどうせ1人だしやることもないしな。
公園から出て坂道を降りる、差し込む夕日が眩しくて風も冷たい。
坂を下りきると路地に出る、そこを左に曲がってしばらく行くとおばちゃん家だ。
インターホンを押すと、おばちゃんが爽やかに笑いながら出てきてくれた。
「いらっしゃい、裕司くん」
「こんにちは、少しお邪魔してもいいですか?」
「いいんだよぉ、遠慮せずゆっくりしていって」
おばちゃん家に入り話をしたり飼われている猫を愛でて時間をつぶす。
気が付けばすっかり太陽は落ちきって辺りは暗くなって街灯が光り始めた。
「それにしても嘉穂が死んでからもう3年になるのかい、よく今まで1人で頑張ってきたねぇ」
「出来れば…出来ることなら、俺は智子の無念を晴らしてやりたいんです」
それは俺個人の力では叶わないことだと分かっていても、そんな望みを抱いてしまう。
少し前の俺なら考えられなかっただろうが、俺の味わった不幸や怒り、出来れば同じような想いを他の人に抱いてほしくない、こんな社会間違っている。
そう思うようになってからは周りの視線や陰口などあまり気にならなくなった。
「そろそろ旦那さんも帰ってこられますよね、俺そろそろ失礼します」
「そうだね、またいつでもいらっしゃいな」
そう言って俺はおばちゃん家を後にする、帰り道でコンビニでも寄って晩飯と明日の朝飯買って行かないと…
路地を歩いていると、ふと外灯に照らされた石レンガの壁にポスターが貼ってあるのが目に入る。
小さいころ母さんに何度か連れて行ってもらった隣町でやっているサーカス劇団のポスターだ。
「お…懐かしいなぁ」
ふと母さんと智子との思い出が次々と頭に浮かぶ、足は動かしているが次第にぼーっとしてきた。
次の瞬間、俺の体に激しい衝撃が走った。
何が起こったのか理解が追い付かない、空中を舞っているのは分かる。
地面に叩きつけられた俺をよそに、そのトラックは逃げるように走り去っていく。
どうやら考え事をしているうちに近づいてきたトラックに気づかずに撥ねられてしまったらしい。
次第に意識が遠のくが、俺はこれでよかったと思っている。
「母さん…智子…ようやく…」
そこで俺の意識は途切れた。
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動けない…
体の感覚も無ければ声も出せない。
ここは何処だろうか…
「不幸な貴方に力を与えましょう」
いきなり聞こえてきた、と言うか心に直接響くような声がする。
声の正体を探ろうにも俺自身動けないし声も出せない。
「貴方の生前の願い『自分と同じ不幸を他人にあわせたくない』その願いに基づき、目が覚めたら異端な力を手にしているでしょう、それで願いを叶えてやり直すのです」
異端な力? やり直す? 何を言っているんだ。
そんな疑問ばかり抱えるが答えてもらえるはずもなく、次第に目の前が明るくなっていく。
明るいなんてもんじゃない、目が眩むほどの光だ。
「貴方が願いを叶えれば世界に均衡が保たれます、そうすれば貴方たちは幸せを手に出来るはずです」
目が眩みまたしても意識が遠のく俺が最後に聞いた言葉がそれだった。
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探索編に続きます