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そして合流?

別作品が一段落付いたので、試験勉強の様子見をしながらまた更新していきます。

 指の腹で頬をスリスリと撫でられる。ほんの少しだけローデリヒ様の指の方が冷たかった。やっぱりローデリヒ様の手ってちょっと低温だよね。


「疲れていたようだが、少しは良くなったか?」


 覗き込むようにして私の顔を見る。

 そういえば、前世で手が冷たい人は心が温かいとか言ってたっけ?


「寝てたのでだいぶマシにはなりました」

「そうか。無理はするな」


 ローデリヒ様が指を引く前に、私は自分から頬を寄せた。驚いたかのように一瞬指先が止まったが、今度は両頬を手のひら全体で包み込まれる。彼の海色の瞳が、オレンジ色のランプに照らされて、


 昏く、揺れた。


 あんまり表情には出ない。滲み出る雰囲気というか、何となく、みたいなそんな曖昧な予感だった。今は部屋ごと結界を張っているけれど、普段から心を読んでいるのもあるんだろう。


 吐息がすぐ傍で聞こえるくらいに近付いて、おでこをくっ付ける。彼の月光のような色の髪が、深さを増して琥珀色のように見えた。


「随分と心配、してますね?」


 ローデリヒ様は観念したように目を閉じて、深く息を吐く。


「当たり前だろう。心配しない訳がない」

「まあ、そうですよねー……」


 この状況で心配するなという方が無理な話なので、全面同意する他ない。

 頬から手が移動して、存在を確かめるように抱き締められる。


「本当に無理だけはするな」


 それは、絞り出すようで。呼応するように後頭部に回った手が、私の長い髪の毛をくしゃりと乱した。





 日差しが部屋に差し込んでいる。まだそこまで眩しくない。早くもないが、どうやら寝過ごしはしなかったようだった。

 ぐっすりと眠れたお陰か、自然と起きたので身体はスッキリしている。


「……ですが!」


 ゆっくり起き上がろうとした所で、ローデリヒ様の抑えた、それでも険しい声が聞こえて一気に目が覚めた。反射的に声の方を向くと、ローデリヒ様と妖艶な美女。まだ二十代半ばから後半にしかみえない見た目だが、その実そこそこ歳をとっている女性。


「――ハイデマリー、さま?!」


 派手な装飾品と真っ赤なドレスを身に付け、髪をきっちりと結わえたハイデマリー様がそこにいた。


「あら、起きたのね。身体の具合はどうかしら?」


 起きてると思わなかったのか、ハイデマリー様は目が合うと黒目がちな瞳をパチクリと見開いた。私は慌てて居住まいを正す。


「は、はい。ゆっくり休めたので……」

「それは良かったわ。貴女だけの身体ではないもの」

「ありがとうございます……」


 心配の言葉を掛けられて、びっくり半分、安心半分でベッドの上で頭を下げた。

 隣でまだ眠っているアーベルを起こさないようにそっとベッドから降りる。ローデリヒ様がそっとガウンを肩に掛けてくれた。

 手を引かるがまま小さくお礼を告げて、椅子に座る。


 立ったまま小さく言い争っていたらしいハイデマリー様も椅子に腰かけた。室内に2脚しかない椅子にあぶれたローデリヒ様は、私の近くの壁に腕を組んで寄りかかった。心無しかぐったりと疲れきっているような気がする。


「……ちょうど良かったわ。ローデリヒ殿下とこれからの予定を話し合っていたのだけれど、平行線だったのよ」

「これからの……予定、ですか……」

「ええ。まずは状況を説明するわね。昨日、貴女達が襲撃されたのと同時に、王城でも反乱が起きたの」

「は、反乱?!?!」


 思わず大きな声が出た。思ったよりも響いてしまったので、慌てて自分の口を塞ぐ。いや、反乱……、反乱……って……。


 一大事では?


「こちらの首謀者はエーレンフリートよ。まあ、予想通りってところかしら?」

「……それは」


 ローデリヒ様が言っていた、アーベルが遠回しに伝えようとしていた事が現実になった、という事。

 顔色を変えた私に、ハイデマリー様は唇をつりあげた。扇子で口元を隠しながら、落ち着いた声で告げる。


「心配しなくて大丈夫よ。陛下がエーレンフリートにやられる訳がないわ」


 それは、国王様に全幅の信頼を置いているかのような、長年共に戦ってきた戦友のような重みがあった。


「国王様が……」


 ふと国王様を思い浮かべる。オブラートに包みまくって小太りの姿を。走るのにしたって、ドスドスと激しい……非常に重みがある音を立てたり……、イーナさんにさりげなくセクハラしていたり……、ローデリヒ様曰く、エーレンフリート様を押し倒していたり……。


 だ、駄目だ……。まともな姿が浮かばない……!


 頭を抱えた私を見かねて、ローデリヒ様もフォローをした。


「ハイデマリー殿の言う通り、父上はアレでも一国の国王だからな……。アレでも剣の天才で、アレでも光魔法に関しては国一番の使い手だ。エーレンフリートに敗れるとは思えん……」


 アレしか言ってないし、ローデリヒ様にしては随分と歯切れが悪かったけれど。

 私もエーレンフリート様にやられる国王様が思い浮かべないのは確か……、というより、真面目に反乱を制圧している姿が思い浮かばない。


「問題はそれよりもわたくし達よ。長い間こんな犬小屋みたいな所に留まっているのは得策ではないわ」


 ハイデマリー様が考え込むように瞳を伏せる。いや、犬小屋って……、ローデリヒ様の馬小屋も大概だけどさ。

 それよりも、だ。


「そういえば、ハイデマリー様は何故ここに……?」


 起きたばっかりで頭が全然働いていないのだけれど、よく考えたら国王様の側室のハイデマリー様が何故こんな所にいるのだろう?

 そんな簡単に後宮から出れないはずだよね?

 反乱に乗じて逃げてきた?いや、流石にココシュカの街は、すぐに辿り着ける距離じゃないはず。


「わたくし、転移魔法が得意なのよ。それこそローデリヒ殿下よりもずっと、ね」


 チラリ、とハイデマリー様が同意を求めるようにローデリヒ様を見る。そうだ、とローデリヒ様は不本意そうに頷いた。


「じゃあ、ハイデマリー様は王城から転移でここまで……?」

「ええ、そうよ。反乱が起こってすぐに脱出してきたわ。ちょうど貴女達もこの街に到着したと聞いていたからここまで一気に飛んだのよ」

「そうだったんですか……」


 一瞬の間、沈黙が降りた。


「……ちょうど?」


 思わずスルーしそうになった私の違和感に答えたのは、ハイデマリー様ではなく、ローデリヒ様だった。やや言いにくそうに目線を斜め下に逸らしている。


「ハイデマリー殿は、本当は昨日からこの街にいたのだが……、その、迷子……ではなく、迷われていたらしくてな……。不審者として警備兵に捕まっていたので、朝から詰所まで迎えに行っていた」

「捕まっていた?!」


 ギョッとした私。ハイデマリー様はやや低い声で口を尖らせる。


「本当に失礼よね。わたくしのどこが怪しいと言うの?」


 その赤くて派手なドレスとか、華美な装飾品だよ、なんて言える訳がない。適当に笑って誤魔化しておいた。


「逆に街中で噂になっていたから、逆に私が知ることが出来たのだが……。ちなみに私達の事もそこそこ広がっているようだ」


 当たり前だ。こっちの世界でもドレス姿の女性なんて、滅多に街中で歩いてはいない。時々歩いているけれど、お貴族様ばかりだ。首都キルシュはそんな噂になるまでもない頻度で出くわすが、ココシュカの方はそうではないみたい。


「……さて、これからだが、元々イーヴォ達とはぐれても落ち合う約束はしている。目立ってしまっている以上、動きたくはあるが……難しそうならハイデマリー殿をここに残して、一旦私がイーヴォ達を連れて来る手もあるのだが……」


 今度はローデリヒ様がハイデマリー様をチラリ、と見る。複雑そうな表情のまま続けた。


「護衛に関しては裏からもいるのだが……、その、パッと見女性と子供だけを残して行くのも悩みどころでな……」

「あら、ではわたくしがイーヴォと会えば良いのではなくて?」

「ハイデマリー殿、貴女さっきまで迷子になって不審者扱いされて連行されていましたよね?」


 ローデリヒ様がこの人何言っているんだ?みたいな顔になっているのだけれど、力業でゴリ押ししてココシュカの街に入った彼も似たり寄ったりだと思う。


「……あの、ローデリヒ様はどっちの方がいいと思いますか?」

「私は……、アリサ達はここに残っておいた方が良いとは思っている。私だけなら転移で移動出来る」

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