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親失格?

寝るまでが今日!!!!!(遅刻申し訳ございません)

 小屋の中は緊張感に包まれていた。

 ローデリヒ様は《千里眼》で追っ手を確認しているらしかった。時々こめかみを揉みほぐすような仕草と、伝わってくる感情から、使うと頭痛がしてくるみたい。長時間も使えないようだった。


「思ったより追っ手が近くまで来ている。すまない、移動出来るか?」

「あ、は、はい!……あの、ローちゃんとかヴァーレリーちゃんは……?」

「ローは使い魔だから問題ない。ヴァーレリーは……イーヴォが何とかするだろう」


 なんてアバウトな。

 とか思ったけど、現時点で一番の足でまといになるのは私なので従った。ローデリヒ様からアーベルを受け取る。


「心配するな、と言ってもあまり意味がないか」


 ローデリヒ様は私の腕の中のアーベルの頭に手を乗せて、ポンポンと撫でる。


 当たり前だ。


 だって、アーベルの持っている能力は、アーベル自身を危険に晒すもの。そんなに便利じゃなくてもいいから、アーベルの立場を揺るがさない程度の能力でいい。


 そして、この緊迫した状況を私は半分くらいしか飲み込めていない。このヒリつく空気に飲み込まれてしまったら、足が震えて動けなくなる予感がしている。

 深く考えないように、自分が真っ直ぐ立てるように。


 私が動けなくなったら、お腹の赤ちゃんもアーベルも危険に晒してしまうから。

 私が硬い顔をしていたのか、ローデリヒ様は少しだけ苦笑いをした。


「最悪な未来を回避する為に、16歳のアーベルが命懸けで来た。だから、そう悪い事にはならないだろう」


 あ、そっか。

 最悪を回避する為にアーベルがわざわざ未来から来たのだとしたら、この状況は最悪ではないって事になる。


 むしろ、ベストではないかもしれないが、まだマシな展開なんじゃないだろうか。


 ローデリヒ様が慣れたように馬に乗る。

 そして、私へ片手を差し出した。

 見上げたローデリヒ様はまだ《千里眼》を発動し続けている。眉間に皺を刻みつつ、それでももう海色の瞳には先程のような陰はない。


息子(アーベル)に命を懸けさせている状態だ。私も自分が持ちうる全てを賭す。

 ――だから、アリサは自身とアーベルとお腹の子の事だけを考えていてくれ」

「……はい、」


 ローデリヒ様の手を取り、横抱きにされる。

 アーベルはずっと神妙な顔つきで大人しくしていた。

 この状況を理解しているように。


「行くぞ。体調が悪くなったらすぐに言え」

「は、はい」


 さっきよりも気持ち的に落ち着いている。

 だから気付いた。

 ローデリヒ様が魔法を使っているらしいということに。馬の上にいるのに振動がほとんどない。

 正直、何の魔法を使っているのか分からない。けど、非常にコントロールが難しい魔法らしい。


 ……めちゃくちゃ伝わってくるんだよね、気持ちが。

 既にローデリヒ様は、切り替えているようだった。

 エーレンフリート様と真っ向から対峙するつもりで。

 エーレンフリート様とは、少なからず縁があったはずだ。血も、交流も。


 ローデリヒ様の上着を握る力が無意識に強くなった。

 彼も私が心を読んだという事が分かったらしい。チラリと私を見下ろしてから、おもむろに口を開く。


「……エーレンフリートとは親戚で、幼い頃から身近な人間だった。王太子という立場上、難儀な事が多い故に友人というものは持ったつもりはないが……、もしかしたら世間一般的な友人とも呼ぶような存在だったのかもしれない」


 私の幼馴染みのルーカスとティーナを思い浮かべる。

 ルーカスは脳筋で、基本的には力で解決しようとする無茶苦茶な性格だし、ティーナは人見知りで引っ込み思案。2人ともそこそこ癖はあるタイプだと思う。

 でも、いざという時は私の為に常識とかそんなのぶっ飛ばして、アルヴォネンの前国王やキルシュライト王国に喧嘩売っちゃうレベルで私のことを考えてくれている。


 きっと、そんな身近な2人が裏切ってたなんて知ったら、しばらく私は立ち直れないと思う。


「初めに何故だ、と疑問が浮かんだ。王太子として感情論で話を進める訳にはいかない。だが、そう思ったということは、エーレンフリートに対して自分がそれなりに信用をしていた証拠だったのだろう」


 淡々、とローデリヒ様は語る。

 これはもう、終わった話だというように。


「エーレンフリートと関わった時間は確かに長かった。だが、自分にとって大事なものとは比較対象にすらならない」


 ローデリヒ様は小さく息を吐く。


「……黙っていても伝わるだろうから、きちんと言葉にして伝える。

 アーベルに命を懸けさせている私は父親失格だ。

 ただただ、悔しかった。大人の自分が、まだ成人したばかりの子供に負担を掛けさせている事にも、自分に出来ることが限られている事にも」


 それは、私だってそうだ。

 子供に命を懸けさせる私は、母親失格。


「なんの為の大人だ、と思った。この1年と少し……いや、お腹の中にアーベルがいた時からだから2年半程か。……父親をしてきて、これほど屈辱を感じたことはない」


 自然と視線が落ちる。

 腕の中のアーベルは相変わらず不安そうな表情のまま。それでもぐずることなく、良い子にしている。


「父親に正解なんかない。それは前々から理解している。自分のことを父親失格だと思うことも、自己満足の域に過ぎない」


 私を抱き上げているローデリヒ様の腕に力が篭る。

 苦しくなく、わたしを気遣うような位の加減で。


「それでも、手探りで最適解を見つけ続けて、アーベルにとって、お腹の子の()()()()になりたい。……だから、私は私にとって出来る最大限を尽くす」


 ローデリヒ様の上着に皺が出来ていた。どうやら力強く握ってしまっていたみたい。

 困ったな、なんだか泣きそうだ。

 ローデリヒ様だって、まだまだ若い。16歳のアーベルとそう歳は変わらないのだ。まだ親になった歴も浅くて、ようやく初心者マークが取れるか取れないかくらい。


 真剣に子供達と向き合ってくれている。

 親になろうと努力している。


「……私も、一緒に探していいですか?最適解」


 ローデリヒ様がほんの少しだけ目を見開いて私の方を一瞬見た。私の声が上擦っていたから。


「きっと1人で手探りで見つけ出すより、2人で迷いながら探した方が見つかりやすいから」


 フッとローデリヒ様は目元を緩めて頷いた。


「ああ、勿論だ。――私達は、夫婦なのだから」






 しばらく走り続けた後、ローデリヒ様は不意に馬の足を止めた。

 《千里眼》で何かを見つけたらしい。


「近くに街がある。人も多そうだから、紛れ込むには丁度いいだろう」


 木を隠すなら森の中理論ってやつだろうか。

 本当にローデリヒ様が言う通り、段々と騒々しい声が幾つも聞こえてくる。

 結界を張れるペンダントを持ってはいるが、ローデリヒ様とアーベルと触れ合っている時は心の声だけでなく人間も弾いてしまうから使えないんだよね。

 ローデリヒ様が色々改良をしているみたいなんだけど。


 街にギリギリ近付いたところで、ローデリヒ様は私を下ろした。自身も馬から飛び降りる。


「とりあえず街で一旦落ち着こう。結界を張るぞ」

「わかりました」


 私は頷いてアーベルをローデリヒ様に預ける。ローデリヒ様はアーベルを受け取り、小さく呪文らしきものを唱えた。

 波が引いていくように、頭の中に響いていた雑音が聞こえなくなる。こっそりホッと息をついた。やっぱり自分自身の能力は好きじゃない。


「街で味方に連絡をする。出来れば味方が来るまで滞在出来ればいいのだが……、野宿は論外だからな」


 野宿は勘弁して欲しい。

 温室育ちの元貴族令嬢……な上に、元女子高生は野宿とか体験したことないよ。

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