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丸薬作成。(他)

※自己診断はやめましょう。

※お薬についてはファンタジーです。

「体を悪くしたかもしれない」


 王城の広い医務室で、ローデリヒは深刻な顔つきで申告した。ちなみに宮廷医長は別にいる。慣れ親しんだジギスムントにわざわざ診てもらっているだけで。

 いつも国王以外には穏やかな表情を浮かべているジギスムントも、険しい表情になった。


「最近寝不足だと仰ってましたからな。やはり睡眠はきちんとなければなりませぬぞ」

「……分かっている」

「いくら若いとはいえ、無理したら早死しますぞ」


 ローデリヒに小言を言いながら、ジギスムントは「そしてどこが悪いんですかな?」と問い掛けた。


「胸だ。……おそらく、心臓が悪いのだと思う」

「とりあえず調べてみましょう」


 聴診器を胸に当てたジギスムントは難しい顔をする。音の異常は特にはない。


「どの様な状況でなりましたか?」

「……昨夜、アリサに抱き着かれたのだ。その時に軽い心臓発作を起こしたようで」

「………………はい?」


 ジギスムントは目が点になった。

 ローデリヒにふざけてる様子などない。本気だった。


「おそらく原因は寝不足による肉体的ストレスだろう。心臓発作自体は軽いものだと思われるが、今は倒れることは出来ないからな。冠動脈の血流が良くなる薬でも……」

「お、お待ちいただけますかな?!精密検査をしましょう?!」


 ストップをかけたジギスムントは内心冷や汗をかいていた。


 何を言っているのだ?この王太子(馬鹿)は。


「精密検査?そんなことしてる時間がないのはジギスムントも分かっているはずだろう?特に今日はパーティーなのだぞ?」


 投げやりな返答をした王太子(社畜)に、ジギスムントはガッチリと腕を掴んだ。


「一国の王太子が自分の健康に気を遣えないでどうするんですか?!」

「……私的には大丈夫だと思うのだが、イーヴォが本当の心臓発作を起こしていたら怖いと連れてこられた」


 ジギスムントはチラリと部屋の隅に佇む従者を見た。ローデリヒと同い年の彼は、どうしようもない奴を見る目で主君を見ている。


「とりあえず、昨夜アリサに抱き着かれて、そのまま至近距離で見上げられた時に心臓がおかしな感じになったんだ。ちなみに今朝も今も何も起こっていない。大したことはないが、念の為に薬が欲しくてな。確か医務室にあっただろう?冠動脈の流れを良くする薬草が」


「大丈夫だ。薬学には興味があって、調剤の資格は持っている。簡単なものなら作れる」と勝手に医務室の薬棚を漁り始めるローデリヒ。何も大丈夫な要素などない。心臓発作と自己診断を下した彼に、ジギスムントは遠い目になった。


「ちょっとはその薬学への興味、心理学へと向けてください」


 だが、ローデリヒは一国の王太子。もし本当に心臓発作を起こしていてはいけない。

 やはり、一度精密検査を……とジギスムントが提案したが、ローデリヒはバッサリ断っていた。


「というか、勝手に薬作るのはいけませんぞ!」





 おかしな事があったらすぐに報告しろと、口酸っぱくジギスムントに言われ、戻ってきた執務室。


 ローデリヒはゴリゴリと乳鉢でコネ回している。

 イーヴォは呆れた眼差しで、ローデリヒの手元を示した。


「ジギスムント様に怒られたのに作るんですか?」

「効き目はとても弱いものだ。流石にジギスムントに止められて、一般的に処方されている薬を作る訳がないだろう?」

「いや、普通は作らないですよ!」


 頭を抱えたイーヴォは「頭良い馬鹿ってホント……」と呟いていた。


「まあ、寝不足で肉体的負荷が掛かってしまっていたのだろう。反省して今日から充分な睡眠を取るようにする」

「反省する所は他にもありますけど、……本当にそうしてください」

「今日はこの薬を飲むから禁酒だ。ジギスムントにも止められているからな。体を労ることにする」


 乾燥した葉っぱを粉々にしたローデリヒは、飲みやすくする為に蜂蜜を少し加える。そして、一つに薬をまとめた。

 出来上がった毒々しい緑色の丸薬に、イーヴォの顔は引き攣る。


「うわあ。不味そう……」

「薬は大体不味いだろう……」


 ローデリヒは水と共に丸薬を口の中にいれた。ものすごく苦い味が口の中に広がる。水を飲んでも残る苦い感覚に、眉をやや動かした。


 仕方がないのだ。

 治癒魔法が効くのは外傷のみ。病気は治らない。だから、ローデリヒは何かあった時の為に調剤の勉強をした。治癒魔法と両方使えれば、戦場で便利だと思ったのである。調剤といっても、調剤の数段階の資格の中で一番簡単なものではあるが。


 口の苦さはそのままに、執務机に積んである仕事へと手を伸ばす。

 今夜はパーティーなのだ。どこまで減らせるのだろうか。

 ローデリヒは既に気が滅入りそうだった。




 ーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー




 そして――、数時間後。


 日はやや沈みかけ、夜の帳が次第に空を覆ってきている頃だった。王城のパーティーホールには、既に大勢の王侯貴族が集まって、思い思いに会話を楽しんでいる。

 パーティー前のざわめきを控え室で聞きながら、ローデリヒは己の父親と向き合っていた。


 あまり着飾るのは得意ではないローデリヒは、暗い色のジュストコールにシンプルな装飾品を身に付けている。

 以前にイーヴォから、元の素材が良すぎて飾らない方が魅力的だと言われたが、男にそんな褒められ方をされても微妙に気持ち悪いだけだったが。


 対する国王は、その地位に相応しい程の宝石を身に付けていた。全ての指に装飾品を付けている程ではないが、ローデリヒと並ぶとその数は格段に多い。ベルベット地の赤色のマントに、数多くの宝石が付けられた王冠も相まって、派手であった。


 隣りにハイデマリーという、二十代にしか見えない派手な女を侍らせているせいで、どこからどう見ても好色デブジジイである。隠し子の噂も真実ではないかと納得出来る見た目になっていた。


「最近、陛下に隠し子疑惑が出ているそうですが……」


 無言でソファーに座るローデリヒは目を瞑った。少しでも体の疲れを取りたかった。

 そんなローデリヒの事はスルーして、ハイデマリーが国王に問いかける。とても気がかりだとでもいうように、甘えるようにしなだれかかった。国王は慌てて手を振った。鼻の下が伸びている。


「だ、大丈夫じゃ!隠し子なんておらぬ!」

「本当ですか?」

「身に覚えが無さすぎる!」


 やや目を細めたハイデマリーだったが、国王の必死の否定にようやく納得したような顔をする。そして、ハイデマリーはローデリヒへとターゲットを変えた。


「そういえば襲撃があった時からアリサ様を見ていないのだけれど、アリサ様は無事?」


 流石に自分の妻のことを話題に出され、ローデリヒは目を開けた。ハイデマリーの黒目がちな瞳と目が合う。


「……ああ。無事だ」


 端的に返したローデリヒに、ハイデマリーはますます笑みを浮かべる。


「よかったわ。心配になってしまって……、だってアリサ様は今一人のお体ではないもの」


 その言葉に、ローデリヒの目は大きく見開かれた。

 安定期ではないから、正式にはまだ……あと少し先まで伏せておく予定だったのに。


「何故……、知っている?」

「あ、教えたの、ワシ」


 自然と声が低くなったローデリヒに、国王が軽く答える。深刻さが全くない国王の様子にローデリヒは脱力した。色々と言いたいことはある。……あるが、知られている以上、もう取り返しはつかない。


「そうですか……」


 一気に疲れた顔をしたローデリヒは、そのまま立ち上がってフラフラと控え室から出て行く。

 部屋の外で待機していたらしいイーヴォが、開いた扉の隙間から見えたので、国王はひとまず忠実な従者に息子を任せることとした。


 ハイデマリーが座っているソファーの背もたれに手を回した国王は、もたれかかってくるハイデマリーに問うた。


「そういえばこの前、アリサと会ったそうじゃな」

「ええ」

「どうじゃったか?」


 ハイデマリーはしばし口元に手を当てて考え込む。唇に引かれた赤い口紅が弧を描いた。


「そうですわね……。いい意味でも悪い意味でも真っ直ぐだと思いましたわ。実直なローデリヒ殿下とも性格的な相性は良さそうですし、流石アルヴォネン王国の公爵令嬢という所でしょうか、魔力も充分で妊娠中に魔力不足になる事がない。本人自身にわたくしは不満はありませんわ。可愛らしいもの。

 ただ……、王太子妃として良いかと問われると難しいところですわね」

「そうなのか?」

「ええ。王太子妃の一番の仕事である後継者作りは達成していても、全く表に姿を表さないですし。最低限の危機管理能力は持っているようですけれど、読心能力が無ければ、すぐに悪い大人に騙されてしまいそうですわ」


 そして、ハイデマリーは続けた。


「あと、アルヴォネン王国で狙われていたのも気がかりだわ……。この前の襲撃も関係しているのでしょう?」


 そこまで言ってから、クスリとハイデマリーは小さく笑う。


「でも、わたくしはほとんど聞いた話ばかりですわ。だって、後宮から出られないのですもの」

「よく言うわい。よく転移で脱走している癖に」


 呆れたように肩を竦めた国王。ハイデマリーはその様子に楽しそうに声をあげる。そして、ローデリヒが消えた扉を見やった。


「ふふっ。これでもわたくし、心配しているんですのよ?」

寝不足だと胸痛くなるよね。

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